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しばしダン王子を凝視してしまってから、俺は我に返って頭を下げた。
「お、お久しぶりです。ダン王子」
「いつまでそこに立っている。早くこっちに来い。傍で顔を見たい」
「!あ、はい……」
(いや、えっ、なに。なんか……優しいというか……)
ダン王子が実は優しいということはもうわかっているが、それにしても今さらりと顔が熱くなるようなことを言われた気がして、ぎこちなく近づいていく。ベッドサイドに立つと、ダン王子は俺を見上げてフッと笑った。
「変わりなさそうだな」
「俺は全然、ずっと元気です。……あの、ダン王子は体調──」
「ちょっと~ダンってばルカくんしかいないみたいに振舞っちゃって。俺の顔も傍で見せてあげる」
「貴様はいらん。近づくな」
反対のベッドサイドに回ったクシェル王子が至近距離で顔を寄せるが、ダン王子は目を合わせずに冷めた反応をする。
「見舞いに来てやったのにいらんと言われる筋合いはありませんが、まぁ傍で顔を見せたいとも思いませんね」
「こっちのセリフだ。貴様の顔を近くで見て何になる」
「ダン、すっかり元気だ。ゴルトーに無病息災が祈願された有名なケーキがあってね。3ホール持ってきたから、後でひとりで食べて」
「病み上がりに食わせる量なのかそれ」
王子たちの言い合いは以前のままで、なんだかんだ楽しそうにしているダン王子を見て俺は安心した。口元を緩めていると、イリスさんが俺の隣に立ってダン王子に頭を下げる。
「ダン様。無事に回復なされたようで何よりでございます。治療はずっとこちらで?」
「ああ。まだしばらくはロットに戻れないだろう。王家陥落を狙った残党が一掃されるまでは危険だからアクラマから──というより、この部屋から出るなと王に命じられている」
「じゃこれからも長らく自室軟禁なんだ?うわぁ可哀想。寂しんぼのダンのために、俺が毎日会いに来てあげる」
「貴様と会わずに済んだのはストレス削減になっていたから、来なくていい」
抱き締めようとするクシェル王子をシッシッと手で追い払って、ダン王子は改めて俺を見た。
「ルカ。お前は見舞いの言葉を言ってくれないのか」
「あっ、いや……。ほんとよかったです、お元気そうで。1カ月も面会禁止だったから……ずっと心配してました。もう大丈夫なんですか」
俺は胸に手を当てて聞いた。ダン王子が俺のために剣を突き刺した場所だ。
絶縁枷の封印を解く方法はない。封印対象を最も愛している者の致死量の生き血を捧げるというのは、伝承レベルの迷信だとイリスさんから聞いた。それなのに、ダン王子は俺を助けるために、その迷信に命をかけたのだ。
「容体はすぐに安定していたから問題ない。単純に俺の暗殺を危惧した国が、長らく面会を禁じていただけだ」
俺を安心させるように口角を上げる姿を見て、俺は鼻の奥がつんとするのを感じたる。バレないように少し目を伏せて「よかった」と呟くと、クシェル王子が大きく手を広げた。
「いやぁそれにしても、まさかダンの愛の力でルカくんの封印が解けるなんてね~。何度聞いても作り話かと思っちゃったよ」
「不確定すぎる命がけの解除条件を実行するなんて、愛に狂っていなければできませんが……。それにしてもダンが愛せたんですね、人を」
「マーティアスくんはダンのことなんだと思ってるの」
「ほんとダンの愛情深さに感動しちゃった。今後1000年語り継がれるべき愛の物語だよ。ダン、この経験を童話にしない?」
ラルフ王子が俺とダン王子を交互に見てほほ笑んでいて照れくさい。
「俺のことはいい。ルカは今何をしているんだ」
ダン王子は自分に話題が集中するのが嫌なのか、俺に話を振った。
「そちらに関しては私からご説明差し上げます」
「お、お久しぶりです。ダン王子」
「いつまでそこに立っている。早くこっちに来い。傍で顔を見たい」
「!あ、はい……」
(いや、えっ、なに。なんか……優しいというか……)
ダン王子が実は優しいということはもうわかっているが、それにしても今さらりと顔が熱くなるようなことを言われた気がして、ぎこちなく近づいていく。ベッドサイドに立つと、ダン王子は俺を見上げてフッと笑った。
「変わりなさそうだな」
「俺は全然、ずっと元気です。……あの、ダン王子は体調──」
「ちょっと~ダンってばルカくんしかいないみたいに振舞っちゃって。俺の顔も傍で見せてあげる」
「貴様はいらん。近づくな」
反対のベッドサイドに回ったクシェル王子が至近距離で顔を寄せるが、ダン王子は目を合わせずに冷めた反応をする。
「見舞いに来てやったのにいらんと言われる筋合いはありませんが、まぁ傍で顔を見せたいとも思いませんね」
「こっちのセリフだ。貴様の顔を近くで見て何になる」
「ダン、すっかり元気だ。ゴルトーに無病息災が祈願された有名なケーキがあってね。3ホール持ってきたから、後でひとりで食べて」
「病み上がりに食わせる量なのかそれ」
王子たちの言い合いは以前のままで、なんだかんだ楽しそうにしているダン王子を見て俺は安心した。口元を緩めていると、イリスさんが俺の隣に立ってダン王子に頭を下げる。
「ダン様。無事に回復なされたようで何よりでございます。治療はずっとこちらで?」
「ああ。まだしばらくはロットに戻れないだろう。王家陥落を狙った残党が一掃されるまでは危険だからアクラマから──というより、この部屋から出るなと王に命じられている」
「じゃこれからも長らく自室軟禁なんだ?うわぁ可哀想。寂しんぼのダンのために、俺が毎日会いに来てあげる」
「貴様と会わずに済んだのはストレス削減になっていたから、来なくていい」
抱き締めようとするクシェル王子をシッシッと手で追い払って、ダン王子は改めて俺を見た。
「ルカ。お前は見舞いの言葉を言ってくれないのか」
「あっ、いや……。ほんとよかったです、お元気そうで。1カ月も面会禁止だったから……ずっと心配してました。もう大丈夫なんですか」
俺は胸に手を当てて聞いた。ダン王子が俺のために剣を突き刺した場所だ。
絶縁枷の封印を解く方法はない。封印対象を最も愛している者の致死量の生き血を捧げるというのは、伝承レベルの迷信だとイリスさんから聞いた。それなのに、ダン王子は俺を助けるために、その迷信に命をかけたのだ。
「容体はすぐに安定していたから問題ない。単純に俺の暗殺を危惧した国が、長らく面会を禁じていただけだ」
俺を安心させるように口角を上げる姿を見て、俺は鼻の奥がつんとするのを感じたる。バレないように少し目を伏せて「よかった」と呟くと、クシェル王子が大きく手を広げた。
「いやぁそれにしても、まさかダンの愛の力でルカくんの封印が解けるなんてね~。何度聞いても作り話かと思っちゃったよ」
「不確定すぎる命がけの解除条件を実行するなんて、愛に狂っていなければできませんが……。それにしてもダンが愛せたんですね、人を」
「マーティアスくんはダンのことなんだと思ってるの」
「ほんとダンの愛情深さに感動しちゃった。今後1000年語り継がれるべき愛の物語だよ。ダン、この経験を童話にしない?」
ラルフ王子が俺とダン王子を交互に見てほほ笑んでいて照れくさい。
「俺のことはいい。ルカは今何をしているんだ」
ダン王子は自分に話題が集中するのが嫌なのか、俺に話を振った。
「そちらに関しては私からご説明差し上げます」
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