魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ

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 ひらり、と紙が俺の手元に飛んでくる。俺は読んでいた紙の束を足元の箱に投げて、新たに飛んできた書類を見た。

「ええっと……これはロット国からの裁判日程と賠償に関する申請書……。確認印どこにすればいいんだ……?」

 至上宮の自室で、俺は数多の書類に囲まれていた。ふわふわと宙に浮いた重要書類を引き寄せては確認し、至上様として魔法で印を押していくという作業を繰り返している。
 ディタが起こした──いや、ロットの執政が企てた至上様封印事件から、早くも1カ月が経とうとしていた。
 俺の封印が解かれた後、反逆首謀者のヴァジーとその配下として派遣されていた兵士約100名、そして実行者のディタは身柄を拘束されロットへと送還され、罪と罰の処断のため裁判が開かれようとしているところだ。俺が至上様であることを知っている者たちが生き残ったことで、至上様の正体が魔界中に知れ渡り、当然ながら俺はアクラマ魔導学院にいられなくなり、ずっと至上宮で過ごしている。

(もう懐かしくなっちゃったな、学校生活)

 至上様の魔力によって復活したイリスさんが、人格の戻った俺、致命傷を負っているダン王子、身柄を拘束しなければならない多数の反逆者たち、という3要素の対応を完璧にこなしてくれたおかげで、どうにか事態は収束に向かった。イリスさんがいなかったら、収拾のつかない騒ぎになっていたと思う。
 あの状況で混乱してる俺に『目撃者たちの記憶をどうするか』と真っ先に聞いてきたイリスさんは、今にも雑兵たちの記憶を改ざんしようとしていたが、結局俺が止めてしまった。

(俺のことを隠し続けていたら、きっとディタも納得のいく裁きを受けられないだろうから)

 そうしてイリスさんはダン王子の手当てと反逆者たちの拘束をするにとどめ、至上様として生きることを選んだ俺の意思を尊重してくれたのだ。
 ディタに近づくことは許されなかったけど、俺が最後に見たディタは、諦めと安堵が同居したような顔をしてただ大人しく座っていた。

「ルカ様。そろそろお見舞いのお時間でございます」

 しばし物思いに耽っていた俺の横に、イリスさんがスッと転位して頭を下げる。この突然の登場にもすっかり慣れてきていた。

「あ、そうですね。ちょっと待ってください、この辺整理するので……!」
「以前も申し上げましたが、書簡は私のほうで代理印を押す慣例がありますので、各国からの送付物にルカ様のお手を煩わせる必要はございませんよ」
「そうなんですけど……せっかく俺にも出来る仕事だからやりたくて。わがまま言ってすみません」
「いえ、我儘などとは。ただ無理はなさらないでください」

 イリスさんはほほ笑んで、俺が魔法で書類を片付けるのを見守っている。
 封印の一件以来、俺は以前よりずっと魔法を扱えるようになっていて、こうして至上宮の仕事をやらせてもらっている。最初はイリスさんも雑用なのでと俺に仕事を譲りたがらなかったが、俺が懲りずに意欲をアピールし続けた今ではほとんど静観してくれるようになっていた。

「よし、終わりました。じゃあ行きましょうか」
「ルカ様、お召し物が寝間着のままです。こちらへお着替えを」
「え!?あ、ホントだ……!すぐ着替えます……!」

 起きてすぐ、そのまま仕事に取り掛かっていた俺は、シルクのパジャマを着たままだった。恥ずかしさに顔を赤くしつつ、イリスさんが差し出した着替え一式に軽く触れる。途端に洋服たちが動き出し、俺はあっという間に着替えを完了させた。

「本当に魔法が上達されましたね。もう私が着せて差し上げることはないと思うと、寂しいほどです」
「いやいや、まだまだです。転位は相変わらずできませんし」

 褒められて照れ隠しをすると、イリスさんがサッと鏡と櫛を取り出して見せてくる。

「少々寝癖が。本日は久方ぶりに想い人とお会いになられる日ですので、ぜひお直しください」
「お、想い人って……!」
「違うのですか?」
「いや、まぁ、違わないですけど……!」

(想い人……それはそうだけど。バレバレの状態で一緒に会いに行くの恥ずかしいな……)

 俺は顔が赤くなるのを隠せないまま、鏡を見て髪型を整えた。1度確認し始めると風呂に入るところからやり直したくなってきたが、もう時間なので諦めてイリスさんに礼を言って櫛を返す。

「ルカ様がより素敵になられました。では、参りましょう」

 俺を褒めて手を差し出したイリスさんに、俺は照れを隠せずに手を重ねたのだった。
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