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不意に、降り注ぐ火の矢が消える。同時にダンが至上の横に倒れ込むのが見えた。
「ダン!!」
ディタは転びそうになりながら駆け込んで、力なく倒れたダンの身体を抱き上げた。胸から血が溢れ、服も地面もダンの血でどんどん赤黒く染まっていく。
医者はいない、助けも呼べない。治癒魔法など至上でなければ使えない。
つまり、ダンはもう助からない。
「死んじまったらどうにもなんねーだろ……!なんで……っ」
ダンがここまでするなんて、ディタには予想できていなかった。至上の配偶者となることだけを期待され、その期待に淡々と応え続けるために他者も自分も犠牲にするのがダンだったはずだ。最大の利害関係だった至上が封印されたなら、至上のいない魔界でロット国の地位をどう確立していくかを考える。自分の死を厭わずに使えなくなった至上を助けようとするなんて、ディタの知っているダンならあり得ない。
本当に至上を──ルカを愛していたのかと、冷たくなっていく弟に問いかけることはできなかった。ダンから何もかも奪ってしまった事実に、ディタは懺悔の呻きを漏らしながら頭を抱える。
「アハハッ!ほんまにやりよった!粋やなぁ」
「ユーリ、テメエ……!」
満面の笑みでユーリが近づいてきて、ディタは感情を押さえられなかった。ディタが振りかぶった拳を避けもせず、そのまま顔面を殴られたユーリは地面に倒れる。殴打に怒ることはなく、我慢できないとばかりに肩を震わせながら血の出た口元を拭ってディタを見た。
「いったいなぁ、本気やんけ。今の1発でチャラやで」
「どういうつもりで──あ、ぐッ……!」
ディタはユーリを追って胸倉を掴み、再び拳を振りかぶった。しかし殴り切る前に頭が割れたと錯覚する痛みが走り、動きが止まる。
「あーあ。身体ガタ来とんやし、もう怒んなって。なに、意外と弟のこと好きやったん?ダンが死んでくれて俺はうれしいけど」
「ふざけんな!元々ダンは巻き込まねえ約束だっただろ!」
「至上封印まではな。でももうそれは終わった。国崩しすんのに、ダンを生かしとくわけないやろ。老害だってそのくらい許容してるわ」
「お前、俺抜きで上と話つけてやがったのか……!」
「俺ディタより要領ええから。まぁあの老害も時期が来れば殺すとして、俺は邪魔されん限りディタを殺す気はない。ジジイに命利用されたんやから、短い余生くらい大事に過ごさなもったいないで。あ、ダンの墓でも田舎に建てたら?首から下は持って帰ってええよ」
「っ……これ以上口開いたら殺すぞ──」
気が済まずにユーリを締め上げようとした刹那、異様を感じてディタは口を閉じた。
何が異様なのかその時はわからなかったが、とにかく本能が口を閉じさせた。嫌な笑みを浮かべていたユーリも同様に、顔を強張らせて固まっている。
酷い悪寒がした。虫が這うような感覚に全身が総毛立ち、震えが走る。
ディタは呼吸を忘れたまま、異様な圧を感じる方を見た。見間違いかと思ったが、何度瞬きしても目に映る景色は変わらなかった。
「……嘘だろ……」
もう動かないダンの横に、立っていた。
血塗れのルカが、立っていた。
「ダン!!」
ディタは転びそうになりながら駆け込んで、力なく倒れたダンの身体を抱き上げた。胸から血が溢れ、服も地面もダンの血でどんどん赤黒く染まっていく。
医者はいない、助けも呼べない。治癒魔法など至上でなければ使えない。
つまり、ダンはもう助からない。
「死んじまったらどうにもなんねーだろ……!なんで……っ」
ダンがここまでするなんて、ディタには予想できていなかった。至上の配偶者となることだけを期待され、その期待に淡々と応え続けるために他者も自分も犠牲にするのがダンだったはずだ。最大の利害関係だった至上が封印されたなら、至上のいない魔界でロット国の地位をどう確立していくかを考える。自分の死を厭わずに使えなくなった至上を助けようとするなんて、ディタの知っているダンならあり得ない。
本当に至上を──ルカを愛していたのかと、冷たくなっていく弟に問いかけることはできなかった。ダンから何もかも奪ってしまった事実に、ディタは懺悔の呻きを漏らしながら頭を抱える。
「アハハッ!ほんまにやりよった!粋やなぁ」
「ユーリ、テメエ……!」
満面の笑みでユーリが近づいてきて、ディタは感情を押さえられなかった。ディタが振りかぶった拳を避けもせず、そのまま顔面を殴られたユーリは地面に倒れる。殴打に怒ることはなく、我慢できないとばかりに肩を震わせながら血の出た口元を拭ってディタを見た。
「いったいなぁ、本気やんけ。今の1発でチャラやで」
「どういうつもりで──あ、ぐッ……!」
ディタはユーリを追って胸倉を掴み、再び拳を振りかぶった。しかし殴り切る前に頭が割れたと錯覚する痛みが走り、動きが止まる。
「あーあ。身体ガタ来とんやし、もう怒んなって。なに、意外と弟のこと好きやったん?ダンが死んでくれて俺はうれしいけど」
「ふざけんな!元々ダンは巻き込まねえ約束だっただろ!」
「至上封印まではな。でももうそれは終わった。国崩しすんのに、ダンを生かしとくわけないやろ。老害だってそのくらい許容してるわ」
「お前、俺抜きで上と話つけてやがったのか……!」
「俺ディタより要領ええから。まぁあの老害も時期が来れば殺すとして、俺は邪魔されん限りディタを殺す気はない。ジジイに命利用されたんやから、短い余生くらい大事に過ごさなもったいないで。あ、ダンの墓でも田舎に建てたら?首から下は持って帰ってええよ」
「っ……これ以上口開いたら殺すぞ──」
気が済まずにユーリを締め上げようとした刹那、異様を感じてディタは口を閉じた。
何が異様なのかその時はわからなかったが、とにかく本能が口を閉じさせた。嫌な笑みを浮かべていたユーリも同様に、顔を強張らせて固まっている。
酷い悪寒がした。虫が這うような感覚に全身が総毛立ち、震えが走る。
ディタは呼吸を忘れたまま、異様な圧を感じる方を見た。見間違いかと思ったが、何度瞬きしても目に映る景色は変わらなかった。
「……嘘だろ……」
もう動かないダンの横に、立っていた。
血塗れのルカが、立っていた。
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