45 / 69
43
しおりを挟む
(えっ……)
重なった唇は少し冷たくて、花に触れるような繊細な交わりだった。
「……」
「……何か、言ったらどうだ」
目を見開く俺に、唇だけを離した至近距離でダン王子が囁く。
「……え、あの、なんで……っ」
「わからないのか」
「いや、わかんない、というか……」
心臓の高鳴りが、もう誤魔化せないほどになっていた。熱い。顔が熱い。うまく考えがまとまらなくて、目が泳ぐ。
「お前、俺をどう思っている」
「そ、それ俺に聞くんですか……!?どうって──」
開いた口を塞ぐように、またキスされる。何度か唇を食まれる間、俺はただされるがままだった。
「っ……、ダン王子……ッ」
「嫌なら拒絶しろ。なぜ口づけを許す」
「!そ、れは……」
(なんでって。それは……だって)
好きだから。
流れるように出てきた理由が、俺の胸を支配した。否定したくても、それ以外の答えは浮かばなかった。
(俺……好き、なんだ……)
好きだから。そう、それだけ。簡単だが飲み込みがたかった感情を受け入れると、喉のつかえが取れたように呼吸ができた。
水面下でずっと自覚はあった気がする。でも、同時に魔界での恋愛なんて空しいだけだと思っていた。配偶者候補が俺を構うのは、俺に好意があるからじゃない。元来至上様は誰も愛さない。結婚にあるのは利権だけで、そこに愛はない。
(でも、俺の気持ちは……)
1度認めてしまったら、尋常ではなく顔が熱くなって冷静ではいられなかった。
「な、なんだって……いいじゃないですかっ……!」
答えがわかっても答えられない俺から、ダン王子は目を離さない。
「答えろ。自分の行動の理由がわからない、などという逃げを聞く気はない」
「!……それなら、ダン王子はなんで俺に……キスするんですか。理由、あるんですよね」
ダン王子と視線が絡む。
俺が至上様だから?至上様の俺を懐柔したいから?
聞きたい言葉はそんなことじゃなかったけど、そんなことしか浮かばない。
「……理由を知りたいなら、言ってやる。俺は──」
「失礼いたします。ルカ様、そろそろお部屋へお戻りください」
頬を両手で包まれ、至近距離でダン王子に見つめられる俺のすぐ横に、転位したイリスさんが立っていた。
「!?イ、イイイリスさん!?」
イリスさんは俺たちの様子を見て目を瞬く。
「なんと……これは。お邪魔でしたか」
「ああ、邪魔だ」
「!?んん……!」
即答したダン王子が、いまだ固まっている俺の顔を引き寄せてキスをしてきた。さすがの俺も流されている場合ではないと、自ら顔を離して立ち上がる。
「ちょっ、やめっ……!イリスさんの前で何してんですか!」
「不躾な側近にわからせてやっている」
当たり前だと言わんばかりの返答に、イリスさんが頭を下げた。
「無粋なことをいたしました。終わるまで待機いたします。ルカ様、心ゆくまで──」
「待って待って待って、見せる趣味とかないです!!今すぐ部屋に戻りますから……!!」
また引き寄せようとしてくるダン王子の手から、色気のない抵抗をして逃れる。それ以上追ってキスを迫られることはなかったが、何か言いたげな視線はついてきた。
(いや、ホントに今のなんだったんだよ……!?なんで俺にキスなんて……)
唇の感触はまだ残っていて、顔が熱い。
「ルカ様、本当によろしいのですか?」
「よろしいです!ダン王子、おやすみなさい!」
俺は一方的にそう言って、ダン王子の顔を見ないようにした。
キスの真意がわからなくて、それなのに自分の気持ちは嫌というほどわかってしまって、俺の心臓はいつまでもうるさいままだった。
重なった唇は少し冷たくて、花に触れるような繊細な交わりだった。
「……」
「……何か、言ったらどうだ」
目を見開く俺に、唇だけを離した至近距離でダン王子が囁く。
「……え、あの、なんで……っ」
「わからないのか」
「いや、わかんない、というか……」
心臓の高鳴りが、もう誤魔化せないほどになっていた。熱い。顔が熱い。うまく考えがまとまらなくて、目が泳ぐ。
「お前、俺をどう思っている」
「そ、それ俺に聞くんですか……!?どうって──」
開いた口を塞ぐように、またキスされる。何度か唇を食まれる間、俺はただされるがままだった。
「っ……、ダン王子……ッ」
「嫌なら拒絶しろ。なぜ口づけを許す」
「!そ、れは……」
(なんでって。それは……だって)
好きだから。
流れるように出てきた理由が、俺の胸を支配した。否定したくても、それ以外の答えは浮かばなかった。
(俺……好き、なんだ……)
好きだから。そう、それだけ。簡単だが飲み込みがたかった感情を受け入れると、喉のつかえが取れたように呼吸ができた。
水面下でずっと自覚はあった気がする。でも、同時に魔界での恋愛なんて空しいだけだと思っていた。配偶者候補が俺を構うのは、俺に好意があるからじゃない。元来至上様は誰も愛さない。結婚にあるのは利権だけで、そこに愛はない。
(でも、俺の気持ちは……)
1度認めてしまったら、尋常ではなく顔が熱くなって冷静ではいられなかった。
「な、なんだって……いいじゃないですかっ……!」
答えがわかっても答えられない俺から、ダン王子は目を離さない。
「答えろ。自分の行動の理由がわからない、などという逃げを聞く気はない」
「!……それなら、ダン王子はなんで俺に……キスするんですか。理由、あるんですよね」
ダン王子と視線が絡む。
俺が至上様だから?至上様の俺を懐柔したいから?
聞きたい言葉はそんなことじゃなかったけど、そんなことしか浮かばない。
「……理由を知りたいなら、言ってやる。俺は──」
「失礼いたします。ルカ様、そろそろお部屋へお戻りください」
頬を両手で包まれ、至近距離でダン王子に見つめられる俺のすぐ横に、転位したイリスさんが立っていた。
「!?イ、イイイリスさん!?」
イリスさんは俺たちの様子を見て目を瞬く。
「なんと……これは。お邪魔でしたか」
「ああ、邪魔だ」
「!?んん……!」
即答したダン王子が、いまだ固まっている俺の顔を引き寄せてキスをしてきた。さすがの俺も流されている場合ではないと、自ら顔を離して立ち上がる。
「ちょっ、やめっ……!イリスさんの前で何してんですか!」
「不躾な側近にわからせてやっている」
当たり前だと言わんばかりの返答に、イリスさんが頭を下げた。
「無粋なことをいたしました。終わるまで待機いたします。ルカ様、心ゆくまで──」
「待って待って待って、見せる趣味とかないです!!今すぐ部屋に戻りますから……!!」
また引き寄せようとしてくるダン王子の手から、色気のない抵抗をして逃れる。それ以上追ってキスを迫られることはなかったが、何か言いたげな視線はついてきた。
(いや、ホントに今のなんだったんだよ……!?なんで俺にキスなんて……)
唇の感触はまだ残っていて、顔が熱い。
「ルカ様、本当によろしいのですか?」
「よろしいです!ダン王子、おやすみなさい!」
俺は一方的にそう言って、ダン王子の顔を見ないようにした。
キスの真意がわからなくて、それなのに自分の気持ちは嫌というほどわかってしまって、俺の心臓はいつまでもうるさいままだった。
123
お気に入りに追加
625
あなたにおすすめの小説

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする
拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。
前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち…
でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ…
優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる