魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ

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「ルカ様、とてもお似合いでございます」
「そ、そうですかね。着たことないからなんか照れます……」

 俺は鏡に映る礼服姿の自分を見て、頬をかいた。
 ダン王子から貰ったタキシードは、俺が知っているものより中世風で装飾が多い。サイズぴったりでデザインも素敵なものだったが、自分には不釣り合いに感じてしまって照れくさかった。

「ダン様はルカ様に何が似合うかわかってらっしゃるようですね。会場でも熱視線を集めること必至です。ああ、一緒に行けないのが本当に心残りでございます」

 今日は舞踏会当日だった。俺を手放しで褒めてくれているイリスさんは、残念ながら参加できない。至上様の側近がただの学校行事に参加した前例などないからだ。

(本当はいてくれるとすごく心強いんだけど……ネコに変身してもらっても追い出されちゃうだろうし)

「さて、もうお時間ですね。周辺にはおりますので、何かあればお呼びください」
「了解です。じゃ、いってきます」
「お気をつけていってらっしゃいませ」

 イリスさんに見送ってもらい、俺は部屋を出て校舎に向かう。

(えーっと、校舎の大ホールが会場だったよな)

 場所をよく知らずとも、着飾った生徒たちについて行けばすぐにたどり着いた。大ホールには大きなシャンデリアが下がり、楽器隊による生演奏が流れていて、別世界のようだった。

「わ~豪華だな……お伽話みたい」

 客人も既に来場しているようで、生徒ではない人たちが色んなところで談笑している。俺は特に知り合いもいないので、壁沿いに立って会場を見渡した。

(あ、ダン王子だ。あれ礼服なのかな。オーラがすごい)

 深紅の絢爛な衣装に身を包んだダン王子はすぐに見つかった。いつも堂々たるオーラが出ているが、服のせいもあり一段と堂々として見える。髭をたくわえた男性と何やら話していて、つい見続けているとダン王子と目が合った。

(おっと……?こっちに来ようとしてる……!?)

 相手の男性はまだ話し続けているのに、ダン王子の視線と重心が俺に向くのを感じて、とっさに目をそらした。たぶん国の要人としゃべっていたのだろうし、邪魔はしたくない。
 ささっと場所を移動して、会場で1番隅にあった椅子に座った。周囲の談笑の影に隠れて存在感を消す。

(……いや待て。パーティー来てこれって、俺陰キャ過ぎない?)

 いくら知り合いがいないとはいえ、さすがに少し空しい気がしてきた。

「……飲み物くらい取ってこようかな」
「でしたら、こちらをどうぞ」
「あっ、ありがとうございます──って、マーティアス王子!どうしたんですか」

 俺にシャンパングラスを手渡してくれたのは、紺碧の礼服に身を包んだマーティアス王子だった。

「それは俺のセリフです。壁の花になってはもったいない。お疲れですか?」
「あ、いや……。俺アクラマで王子以外とほぼ交流ないんで、話す人いなくて」
「なるほど。ではちょうどいいですね。俺と話してください」

 マーティアス王子は言いながら俺の隣に座った。正直話し相手になってもらえるのはありがたくて、俺から会話の糸口を探す。

「ダン王子は外部関係者と会ってますけど、マーティアス王子はいいんですか」
「俺はもう一通り挨拶は済ませました。ブラオはこういう形式的な場を嫌う国風なので、あまり参列がいないんです。ここにどのレベルまで来るかで、その国が保守的か否か判断できるのでご参考までに。例えばロット」

 マーティアス王子がグラスでダン王子を指す。先ほどと同じ髭の男性と話している。

「あれはロットの執政です。国王を除けば国政でトップ、この場では他国含めても最高位の出席で、ロットが保守的なのがよくわかります。あの方は国内でかなり発言力があり、正直ダンにとっては邪魔な存在でしょうね」

 説明を受けながら眺めていると、執政の男性はダン王子にお辞儀をして離れ、誰か探しているのか会場を見渡して去って行く。執政が去った途端、次々とダン王子の元に人々が近づき、頭を下げた。権力が上の者から挨拶できる暗黙のルールがあるようだ。

「あそこでクシェルが話しているのは、ローサの陸軍元帥。クシェルはいい加減な男ですが、ローサは割と保守的なのでクシェルの奔放さには頭を抱えています。それでも王位継承者にするくらいには、クシェルが優秀だということですが」

 クシェル王子は厳めしい軍服を着た男性と話しており、その表情はいつになく真剣だった。そんな仕事モードのクシェル王子を生徒たちが遠巻きに見て小さく騒いでいる。こうしてまた、1度だけ手を出される男女が増えるのだろう。

「あっちはラルフとゴルトーの環境保護庁副長官です。ゴルトーは争いではなく共生を掲げる和平国家ですが、そのやり方には賛否あります。あの副長官は過激な環境保護を掲げていることで有名です」

 眉の吊り上がった女性に、困った笑顔を向けているラルフ王子が見えた。ゴルトーも単に平和で良い国とは言えないらしい。

「王子はみんなそれぞれ大変そうですね……」
「4大国で王子になるやつらは、大抵胃の痛い事情か人に言えない事情を抱えていますよ」
「それは、マーティアス王子も?」
「どうでしょうね。ブラオは無意味な保守嗜好がなく無駄はありませんが、革新派の台頭がすさまじく、既得権益のある王族は恨みを買って命の危険に晒されることもしばしば。といったくらいです」
「十二分に胃の痛い事情じゃないですかそれ」
「何事も一長一短ですね」

 マーティアス王子が自国の事情を他人事のようにまとめてシャンパンを飲んだところで、黒服の男たちが数人近づいてきた。

「マーティアス様。遅くなり申し訳ございません。ご挨拶、よろしいでしょうか」

 頭を下げる男たちを見て、マーティアス王子は短く息を吐く。

「……申し訳ない、ブラオの実業家です」
「あ、どうぞ行ってください。俺はちょっと料理の方とか見てきますから」
「ではまた。ぜひ後で1曲踊ってください」

 そう言って男たちを引き連れていくマーティアス王子を見送り、俺はまた会場を見渡した。言った通り料理でも食べようかなと思っていると、窓際に知った顔を見つける。

(あ、ディタだ。……あとダン王子もいる)
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