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クシェル王子が俺を見下ろしていた。
「は?誰だよ──って、さっき授業にいたやつじゃねえか」
「あ~!すみませんすみません!!今すぐ消えますので!!」
「こら逃げないで。ディタ、この子ルカくんだよ。最近転入してきた子。仲良くしてあげて」
クシェル王子は俺を引っ張って立たせると、赤髪の不良──ディタさんに紹介した。
「ダンと仲良くしてるからどこの誰かと思ったが、転入生なのかよ」
「いや!あの人とは全然仲良くないです!」
「なーんだ、ルカくんともう知り合いだったの」
「お前こそなんで知り合いなんだ、転入生と。王子格は一般生徒と関わりねえだろ」
「学院長から4王子に紹介があってね。ルカくんをサポートするようにって。弱者理解の課題みたいな扱いだけど」
「こいつ、そんな重鎮の家出身?」
「格で言えば大したことない。でも、俺たちに会わせるくらいだから実家は相当金積んでるよ」
「ね?」とクシェル王子に笑顔を向けられ、続きは自分で説明しろということかと慌ててイリスさんの設定集を思い出す。
「ファーブロスの伯爵家、出身です。嫡男の俺がいつまでたっても魔法を使えないので、ついにアクラマに入学となりまして……。父が多額の寄付をして、無理やりこの時期に編入してきました」
この言い方で怪しまれないかと冷や冷やしながら言うと、木に寄りかかって立っていたディタさんが木から離れて俺に1歩近づいた。
「そうか。……大変だな」
俺を見下ろすディタさんは、俺を心配してくれているように見えた。魔法できないのかよとバカにされると思っていたので意外だった。
「俺はディタ。お前と同じ魔法のできない落ちこぼれだ。よろしくな」
「えっ?ディタさんも魔法できないんですか!?ほんとに?」
仲間がいると思わず、驚きに隠せない嬉しさが乗ってしまう。
「喜ばれると複雑だが、ウソじゃねえよ」
「ディタは魔法できないけど代わりに暴力するタイプだから、学院中からビビられてる問題児だよ」
「イヤな紹介すんな。ルカ、こいつは色ボケで女も男も食い散らかす不埒な野郎だ。気をつけろ」
「いや俺の紹介もっと酷いじゃん。ルカくん、俺は全然そんなことないから──」
「あ、いた!クシェル様よ!」
突然女子生徒の声が響き、数人の生徒たちが庭を走ってこちらに向かってくるのが見えた。
「ほらな、さっそくだ。執着されんだから無暗に手出すなって言ってんだろ」
「あれは……クシェル王子の元カノたちですか?」
「いや、付き合ってはないよ。はぁ、ちょっと逃げるね。ふたりはごゆっくり」
クシェル王子は肩をすくめて地面を蹴った。ふわりと浮いてそのまま宙を蹴りながら校舎の方に飛んでいく。
(ほんとに箒なしで飛ぶんだ。なんか少年漫画っぽくていいな)
「クシェル様!お待ちを!二手に分かれて追う!散れ!」
生徒たち──よく見れば男もいる──は、特殊部隊のような陣形でクシェル王子の後を追っていった。
「……クシェル王子、モテモテですね」
「あれは『クシェル様に1度手を出されて、もう1度手を出されたい会』のやつら。いつもクシェルを追いかけてる」
「なんすか、その不純で不幸な会は」
俺が怪訝な顔をする横で、ディタさんは慣れた光景なのか顔色ひとつ変えずにタバコを消す。
「そういや、お前も授業サボり?転入生のくせに太いな」
「あ、いや!本当は受けたいんですけど……ダン王子から逃げるうちにもうどの教室行けばいいのかもわからなくなっちゃって。ハハハ」
「なんでダンから逃げるんだよ。あの4王子の中でも1番人気だぞ、あいつ」
「だから嫌なんですよ!とにかく生徒の嫉妬がとんでもなくて。俺は目立たずに過ごしたいのに、完全にいろんな生徒から目の敵にされてます」
「ダンのことそんなに嫌がってるやつ初めて見た。生徒が怖えなら、俺が一緒に授業受けてやろうか」
「え!?い、いいんですか……!?でもさっき、もう授業出ないってクシェル王子に」
「別に出ても出なくてもいいだけだ、俺は。暇だし付き合ってやる。次なに受けんだよ」
「えっと、魔法薬学初級Ⅰ……ですけど、これはもう始まっちゃってますね。そしたら次の魔界史初級から一緒に」
「途中からでも教室入ればいいだろ。魔法薬学初級は5階か、行くぞ」
そう言って、ディタさんはさっさと歩き出してしまう。
「あの、ありがとうございます。付き合ってもらえて心強いです、ほんとに」
「そんなかしこまるな。俺といても魔法は上達しねえから、ちゃんとしたクラスメイト見つけろよ」
小走りでディタさんに追いつくと、ポンと背中を軽く叩かれた。
(なんて兄貴肌なんだ……ついて行きたくなる……)
俺はフィクションでしか見たことのない、頼りがいのある不良を目の前にして、感動しながら教室へ向かった。
「は?誰だよ──って、さっき授業にいたやつじゃねえか」
「あ~!すみませんすみません!!今すぐ消えますので!!」
「こら逃げないで。ディタ、この子ルカくんだよ。最近転入してきた子。仲良くしてあげて」
クシェル王子は俺を引っ張って立たせると、赤髪の不良──ディタさんに紹介した。
「ダンと仲良くしてるからどこの誰かと思ったが、転入生なのかよ」
「いや!あの人とは全然仲良くないです!」
「なーんだ、ルカくんともう知り合いだったの」
「お前こそなんで知り合いなんだ、転入生と。王子格は一般生徒と関わりねえだろ」
「学院長から4王子に紹介があってね。ルカくんをサポートするようにって。弱者理解の課題みたいな扱いだけど」
「こいつ、そんな重鎮の家出身?」
「格で言えば大したことない。でも、俺たちに会わせるくらいだから実家は相当金積んでるよ」
「ね?」とクシェル王子に笑顔を向けられ、続きは自分で説明しろということかと慌ててイリスさんの設定集を思い出す。
「ファーブロスの伯爵家、出身です。嫡男の俺がいつまでたっても魔法を使えないので、ついにアクラマに入学となりまして……。父が多額の寄付をして、無理やりこの時期に編入してきました」
この言い方で怪しまれないかと冷や冷やしながら言うと、木に寄りかかって立っていたディタさんが木から離れて俺に1歩近づいた。
「そうか。……大変だな」
俺を見下ろすディタさんは、俺を心配してくれているように見えた。魔法できないのかよとバカにされると思っていたので意外だった。
「俺はディタ。お前と同じ魔法のできない落ちこぼれだ。よろしくな」
「えっ?ディタさんも魔法できないんですか!?ほんとに?」
仲間がいると思わず、驚きに隠せない嬉しさが乗ってしまう。
「喜ばれると複雑だが、ウソじゃねえよ」
「ディタは魔法できないけど代わりに暴力するタイプだから、学院中からビビられてる問題児だよ」
「イヤな紹介すんな。ルカ、こいつは色ボケで女も男も食い散らかす不埒な野郎だ。気をつけろ」
「いや俺の紹介もっと酷いじゃん。ルカくん、俺は全然そんなことないから──」
「あ、いた!クシェル様よ!」
突然女子生徒の声が響き、数人の生徒たちが庭を走ってこちらに向かってくるのが見えた。
「ほらな、さっそくだ。執着されんだから無暗に手出すなって言ってんだろ」
「あれは……クシェル王子の元カノたちですか?」
「いや、付き合ってはないよ。はぁ、ちょっと逃げるね。ふたりはごゆっくり」
クシェル王子は肩をすくめて地面を蹴った。ふわりと浮いてそのまま宙を蹴りながら校舎の方に飛んでいく。
(ほんとに箒なしで飛ぶんだ。なんか少年漫画っぽくていいな)
「クシェル様!お待ちを!二手に分かれて追う!散れ!」
生徒たち──よく見れば男もいる──は、特殊部隊のような陣形でクシェル王子の後を追っていった。
「……クシェル王子、モテモテですね」
「あれは『クシェル様に1度手を出されて、もう1度手を出されたい会』のやつら。いつもクシェルを追いかけてる」
「なんすか、その不純で不幸な会は」
俺が怪訝な顔をする横で、ディタさんは慣れた光景なのか顔色ひとつ変えずにタバコを消す。
「そういや、お前も授業サボり?転入生のくせに太いな」
「あ、いや!本当は受けたいんですけど……ダン王子から逃げるうちにもうどの教室行けばいいのかもわからなくなっちゃって。ハハハ」
「なんでダンから逃げるんだよ。あの4王子の中でも1番人気だぞ、あいつ」
「だから嫌なんですよ!とにかく生徒の嫉妬がとんでもなくて。俺は目立たずに過ごしたいのに、完全にいろんな生徒から目の敵にされてます」
「ダンのことそんなに嫌がってるやつ初めて見た。生徒が怖えなら、俺が一緒に授業受けてやろうか」
「え!?い、いいんですか……!?でもさっき、もう授業出ないってクシェル王子に」
「別に出ても出なくてもいいだけだ、俺は。暇だし付き合ってやる。次なに受けんだよ」
「えっと、魔法薬学初級Ⅰ……ですけど、これはもう始まっちゃってますね。そしたら次の魔界史初級から一緒に」
「途中からでも教室入ればいいだろ。魔法薬学初級は5階か、行くぞ」
そう言って、ディタさんはさっさと歩き出してしまう。
「あの、ありがとうございます。付き合ってもらえて心強いです、ほんとに」
「そんなかしこまるな。俺といても魔法は上達しねえから、ちゃんとしたクラスメイト見つけろよ」
小走りでディタさんに追いつくと、ポンと背中を軽く叩かれた。
(なんて兄貴肌なんだ……ついて行きたくなる……)
俺はフィクションでしか見たことのない、頼りがいのある不良を目の前にして、感動しながら教室へ向かった。
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