魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ

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「ファーブロスの伯爵家の長男で魔法が使えない落ちこぼれ、兄弟はいない、母親は死去、魔法が使えないことを恥じた父親に軟禁されており世間知らず、業を煮やした父親が必死の交渉でイリスさんを頼った結果アクラマへ多額の寄付金をして俺を無理やり編入させた、魔法ができるようになるまで帰ってくるなと言われている……と」

(俺、普通に可哀想な設定で泣ける。グレるだろ、こんな家庭環境じゃ)

 イリスさんに見送られて寮を出た俺は、自分の設定を反芻しながら学院へ向かっていた。寮の何倍もある大きな城のような校舎は、入り口がどこかもよくわからなかったが、俺と同じように寮から出て行く生徒たちの後をついていくと大きな扉を抜けて中へ入ることができた。

「うわぁ、すご……!天井高~。あっ、なんか飛んでる」

 ヨーロッパの歴史的建造物のような天井をしたエントランスは、多くの生徒たちが行き来している。頭上では明かりのランプが浮いていたり書簡が飛んでいたりと、生前エンタメで見たことのある魔法学校らしさがそのまま再現されていて感動した。

(あれなんだろう。光る花みたいなの売ってる)

 見慣れないものたちで溢れていて、テーマパークに来たときのような興奮で周囲を見てしまう。つい寄り道したくなったところで、

 ──ゴーン、ゴーン……

 重い鐘の音が鳴り響いた。一部の生徒たちが小走りになるのを見て、おそらく予鈴だと察する。

「やば、教室探さないと……!ええっと、実技初級Ⅰは本館1Fの1025号室……って、あれか!」

 運よくすぐそこが教室で、俺は走って入り込んだ。大学のような長机と長椅子が並んでいて、すでに30人ほどの生徒が着席している。窓際の後列が空いているのを見つけて座ったところで、先生らしい初老男性が入ってきた。

「みなさん、おはようございます。それでは実技初級を始めます。今から羽を配るので受け取るように」

 先生がフクロウの羽のようなものをたくさん持ち、宙に投げる。途端に羽たちは教室を飛んで、生徒たちの手元へと運ばれていった。俺のところにも20㎝ほどの白い羽が届く。

「では、各自届いた羽を浮かせてみてください」

(そ、そんないきなり!?)

 まずは魔法の仕組みとかから学べると思っていた俺は、唖然とした。ブラック企業もびっくりの習うより慣れろ精神だ。

「静かに念じて上がる姿を想像するのがポイントです」

(上がる羽をイメージ……)

 一応アドバイスをしている先生に従って、羽が浮くイメージを持って手をかざしてみるが、ピクリともしない。昨晩できなかったことが今日になっていきなりできるようになるわけがなかった。

「10秒以上キープ。できるだけ高く上げてみましょう」

(1秒も1ミリも上がらないんですけど、ウケる)

 周囲を見ると、出来のいい生徒は自由に羽を操っていて、出来の悪い生徒でもちょっと浮かせるくらいならみんなできていた。はぁ、とため息を吐きながら羽に手をかざしていると、周囲の生徒数人が目配せして笑うのがわかった。

「あれ誰?こんなのできないやついるんだ」
「羽も操れないなんて、すげーな逆に。何ならできるんだよ」

 俺が見やると、目が合った男子生徒は悪びれずに笑ったまま、こめかみを指先で叩くジェスチャーをした。女子生徒たちがクスクスと笑って、今のが『頭大丈夫か?』という意味だと嫌でもわかる。

(マジかよ。イジメあるの、この学校)

 日本社会の荒波に揉まれ、上司から小1時間詰められるくらいなら日常だった俺は、この程度のことで傷つくメンタルではなかったがムカつくことに変わりはない。

(とはいえ、やり返すわけにもいかない。無視するしかないか)

 笑い続けるいじめっ子たちから目をそらした時、俺の後ろでドガンッ!と大きい音がした。

「うわっ!な、なに──」
「……」

 反射で振り返ると、俺の後ろに座った男子生徒があからさまに今横の椅子を蹴り飛ばしたというポーズで座っていた。蹴られた椅子は俺を笑っていた生徒たちの足元に吹っ飛んでいる。

「お前ら、うるせえよ。黙ってろ」
「っ……!」

 赤髪の青年は目を細めてすごみ、いじめっ子たちは皆黙って顔をそむけた。先生も様子を見るだけで、この赤髪を怒らない。相当な問題児なのだろうか。

(こ、こわ~。金持ち学校のはずなのに治安悪……。でも、俺は不良くんのおかげで助かっちゃったな)

 上司が椅子やごみ箱を蹴り飛ばすのも日常だったので、そこまでショックを受けずに不良くんに感謝を抱いていると、静まり返った教室の静寂を破るように教室のドアがバンッと音を立てて開いた。

(今度はなんだよ、って──)

「えっ。ダン王子?」
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