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衝突
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「久遠さんの胸ぐら掴んで、何してたんですか」
俺の前に立った一太くんは、西野に向かって低い声を出した。
「清永さんには関係ないことだろ?俺と杉崎が何をしてようと」
呆れ顔を保ったままの西野に対して、一太くんは厳しい視線を保ったまま腕を組む。
「久遠さんのこと好きなんですよね」
「ああ。アンタと違ってな」
好きでもなんでもないという一太くんの発言を揶揄するような言い方をして、西野は俺に視線を投げる。
嫌なことを思い出させてくるイヤな奴だ。
一太くんは横目で俺を見て、下唇を噛んだ。何か言いたげな視線だったけど、結局俺には何も言わなかった。
「好きなら、なんで暴力なんてするんですか」
「したくてしてるわけじゃない。話が進まないからするしかないってだけだ。それに今は、なにもしてない」
平然と俺を蹴ったことをなかったことにする西野に、血がのぼる。
「嘘言ってんなよ。お前は俺が苦しんでるのが好きなんだろ」
西野の方に身を乗り出すと、一太くんにやんわり手で制された。
西野は少し目を瞬いて肩をすくめた。
「そんなわけないだろ、被害妄想だ。俺はちゃんと杉崎のことが好きで、正式に付き合いたいと思ってる。大切に思ってるんだ」
「苦しんでるのが好きじゃないやつが、殴られて血流してる俺を抱こうとするかよ」
吐き捨てるように言うと、一太くんが息を飲むのがわかった。
あの助けてくれた日に何があったか詳しく話したことはなかった。でも、今ので大体察されてしまっただろう。
殴られて抵抗を諦めた俺を西野が好きにしたのは、1度や2度のことではない。どこが大切に思ってる、だ。
「そんなことがあったとしても、大抵は平和なセックスだっただろ」
「俺たちの間にはセックス以外何もない。一太くんが現れて、俺がお前のもとを離れたのが気にくわないだけで、お前は俺のことなんて好きじゃないんだよ」
俺は西野の所有欲を満たすだけの存在だ。
俺がひとりでに西野から離れたならここまで執着されたとは思えない。一太くんという別の男が出てきたことで、西野はプライドを傷つけられて意地になっている。
俺の言葉に眉を寄せた西野は、わざと聞こえるようにため息を吐いた。
「杉崎の見解はそれで終わりか?俺からすれば、お前が清永さん相手に恋愛感情募らせてる方がおかしい。お前みたいな面倒くさい男の相手、してくれるやつの方が希有だ。睡眠のために男に脚開くような尻軽が、人並みに愛してもらえるとか夢見てんじゃねえぞ」
そんなの、お前に言われる筋合いはない。
そう言い返したくて、すぐには声が出なくて唾を飲む。その間に、一太くんが何も言わずに西野に近づいていた。
そして無言のまま、腕を振り上げて。
「!一太くん!」
俺が声を上げたときには、一太くんの拳が西野の横っ面に当たっていた。
殴られた反動で西野の身体がよろめいて、クリニックの壁に当たる。
「アンタ、こんなこと言って好かれるとでも本気で思ってんのか……!」
一太くんの声が怒りに震えていて、もう1度殴りかかりそうなのを俺は寸でで止めた。
「待った!落ち着いて!」
「離してください、言わせてられないですよ……!久遠さんのこと、あんな……!」
一太くんが俺を見る顔は、怒りとやるせなさに覆われていた。
俺のことでこんなに怒ってくれるんだ、と場違いに絆されるのがわかる。
「1回で十分だから。……俺は大丈夫だから」
俺が腕を掴む手に力を入れると、一太くんは怒りに寄せていた眉を緩めてやっと身体の重心を戻した。
殴られた西野がゆっくりと起き上がる。俺がやり返した後は暴力が酷くなって返ってくるのが常で、反射的に身体が強張った。
「清永さん、人殴ったの初めてだろ」
西野は笑っていた。
怒りを含んだ笑いではなく、単純にただ笑っていて壁に当たったシャツを手で叩く間もニヤついていた。
「今日が最初で最後です」
一太くんの冷たい声が駐車場に落ちる。
西野は一太くんの怒りをバカにするように「それは光栄だ」と片手で顎を撫でた。
「……俺の話は終わりだ。もう、西野と話すことはない」
西野の目をちゃんと見返して言うと、西野は先程までとは変わって俺から目を外し一太くんを見た。一太くんは西野を睨み返した。
「久遠さん、待ってください。俺はまだ話があって」
そう言って、一太くんは俺の手を握った。
突然のことで腕をびくつかせる俺に構わず、西野に見せつけるように手を持ち上げる。
「久遠さんは西野さんとは付き合いません。久遠さんは俺と付き合います」
……は?
前を向いて真面目に聞いていたけど、一太くんの発言に驚いて思い切り一太くんの横顔を凝視してしまった。
俺が一太くんと付き合う?
「だから、今後アンタの出る幕はありません。恋人がいる人に付きまとわないでください」
一太くんは俺の手を強く握って言い切った。
西野は俺と同じように目を見開いて一太くんを見つめて、やがて肩を震わせた。
「へぇ、俺を追い払うためにそこまでやるのか。清永さん、自己犠牲すごいな」
「どう思ってもらっても結構です。もう西野さんと話すことはないので」
ひとり愉快そうにしている西野を置いて、俺の手を握ったまま一太くんが駐車場に止めたままのタクシーに向かって大股で歩き出す。俺にも西野にも、有無を言わせない態度だった。
だいたいどうして一太くんはここに来たのか、とか。
俺を探した結果だとして、俺の告白聞いたのになんでわざわざ探してくれたのか、とか。
聞きたいことは色々あったけど、今の俺にできたのは力強く俺の手を握る一太くんの手を、遠慮がちに握り返すことだけだった。
俺の前に立った一太くんは、西野に向かって低い声を出した。
「清永さんには関係ないことだろ?俺と杉崎が何をしてようと」
呆れ顔を保ったままの西野に対して、一太くんは厳しい視線を保ったまま腕を組む。
「久遠さんのこと好きなんですよね」
「ああ。アンタと違ってな」
好きでもなんでもないという一太くんの発言を揶揄するような言い方をして、西野は俺に視線を投げる。
嫌なことを思い出させてくるイヤな奴だ。
一太くんは横目で俺を見て、下唇を噛んだ。何か言いたげな視線だったけど、結局俺には何も言わなかった。
「好きなら、なんで暴力なんてするんですか」
「したくてしてるわけじゃない。話が進まないからするしかないってだけだ。それに今は、なにもしてない」
平然と俺を蹴ったことをなかったことにする西野に、血がのぼる。
「嘘言ってんなよ。お前は俺が苦しんでるのが好きなんだろ」
西野の方に身を乗り出すと、一太くんにやんわり手で制された。
西野は少し目を瞬いて肩をすくめた。
「そんなわけないだろ、被害妄想だ。俺はちゃんと杉崎のことが好きで、正式に付き合いたいと思ってる。大切に思ってるんだ」
「苦しんでるのが好きじゃないやつが、殴られて血流してる俺を抱こうとするかよ」
吐き捨てるように言うと、一太くんが息を飲むのがわかった。
あの助けてくれた日に何があったか詳しく話したことはなかった。でも、今ので大体察されてしまっただろう。
殴られて抵抗を諦めた俺を西野が好きにしたのは、1度や2度のことではない。どこが大切に思ってる、だ。
「そんなことがあったとしても、大抵は平和なセックスだっただろ」
「俺たちの間にはセックス以外何もない。一太くんが現れて、俺がお前のもとを離れたのが気にくわないだけで、お前は俺のことなんて好きじゃないんだよ」
俺は西野の所有欲を満たすだけの存在だ。
俺がひとりでに西野から離れたならここまで執着されたとは思えない。一太くんという別の男が出てきたことで、西野はプライドを傷つけられて意地になっている。
俺の言葉に眉を寄せた西野は、わざと聞こえるようにため息を吐いた。
「杉崎の見解はそれで終わりか?俺からすれば、お前が清永さん相手に恋愛感情募らせてる方がおかしい。お前みたいな面倒くさい男の相手、してくれるやつの方が希有だ。睡眠のために男に脚開くような尻軽が、人並みに愛してもらえるとか夢見てんじゃねえぞ」
そんなの、お前に言われる筋合いはない。
そう言い返したくて、すぐには声が出なくて唾を飲む。その間に、一太くんが何も言わずに西野に近づいていた。
そして無言のまま、腕を振り上げて。
「!一太くん!」
俺が声を上げたときには、一太くんの拳が西野の横っ面に当たっていた。
殴られた反動で西野の身体がよろめいて、クリニックの壁に当たる。
「アンタ、こんなこと言って好かれるとでも本気で思ってんのか……!」
一太くんの声が怒りに震えていて、もう1度殴りかかりそうなのを俺は寸でで止めた。
「待った!落ち着いて!」
「離してください、言わせてられないですよ……!久遠さんのこと、あんな……!」
一太くんが俺を見る顔は、怒りとやるせなさに覆われていた。
俺のことでこんなに怒ってくれるんだ、と場違いに絆されるのがわかる。
「1回で十分だから。……俺は大丈夫だから」
俺が腕を掴む手に力を入れると、一太くんは怒りに寄せていた眉を緩めてやっと身体の重心を戻した。
殴られた西野がゆっくりと起き上がる。俺がやり返した後は暴力が酷くなって返ってくるのが常で、反射的に身体が強張った。
「清永さん、人殴ったの初めてだろ」
西野は笑っていた。
怒りを含んだ笑いではなく、単純にただ笑っていて壁に当たったシャツを手で叩く間もニヤついていた。
「今日が最初で最後です」
一太くんの冷たい声が駐車場に落ちる。
西野は一太くんの怒りをバカにするように「それは光栄だ」と片手で顎を撫でた。
「……俺の話は終わりだ。もう、西野と話すことはない」
西野の目をちゃんと見返して言うと、西野は先程までとは変わって俺から目を外し一太くんを見た。一太くんは西野を睨み返した。
「久遠さん、待ってください。俺はまだ話があって」
そう言って、一太くんは俺の手を握った。
突然のことで腕をびくつかせる俺に構わず、西野に見せつけるように手を持ち上げる。
「久遠さんは西野さんとは付き合いません。久遠さんは俺と付き合います」
……は?
前を向いて真面目に聞いていたけど、一太くんの発言に驚いて思い切り一太くんの横顔を凝視してしまった。
俺が一太くんと付き合う?
「だから、今後アンタの出る幕はありません。恋人がいる人に付きまとわないでください」
一太くんは俺の手を強く握って言い切った。
西野は俺と同じように目を見開いて一太くんを見つめて、やがて肩を震わせた。
「へぇ、俺を追い払うためにそこまでやるのか。清永さん、自己犠牲すごいな」
「どう思ってもらっても結構です。もう西野さんと話すことはないので」
ひとり愉快そうにしている西野を置いて、俺の手を握ったまま一太くんが駐車場に止めたままのタクシーに向かって大股で歩き出す。俺にも西野にも、有無を言わせない態度だった。
だいたいどうして一太くんはここに来たのか、とか。
俺を探した結果だとして、俺の告白聞いたのになんでわざわざ探してくれたのか、とか。
聞きたいことは色々あったけど、今の俺にできたのは力強く俺の手を握る一太くんの手を、遠慮がちに握り返すことだけだった。
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