隣人、イケメン俳優につき

タタミ

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悩み

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    夕飯を終えて、俺はシャワーを浴びていた。
    せめて風呂掃除くらいしようと思って、一太くんには先に風呂に入ってもらった。
    この後、風呂から出たら明日も仕事だしさっさと寝るだけなんだけど、俺にはひとつの問題がある。

    添い寝だ。

    自分で添い寝を提案した時はダメ元で、でも添い寝してもらったら眠れるかもと思って頼んでいた。実際マジで添い寝してもらえば寝られるのでその点では本当に助かっているけど、俺は今となっては一太くんのことが好きで片想いしている身だ。
    要するに単純な話が、一太くんと同じベッドにいるとムラムラしてしまう。

「だって好きだし……」

    誰が聞くでもない独り言が口から出る。
    性対象だと脳が思えば男は誰にでも簡単に欲情できる上に、好きとなれば欲は止まらない。
    思えば添い寝なんていう提案をした時点で、俺は既に一太くんのことが好きだったのかもしれない。
    好きだと自覚してからは添い寝という状況にどうしても性欲がちらついて困っていた。
    身体目当てじゃないんだ、本当に好きなんだ。でも下半身は理性と切り離されて生きてるんだ。

「掃除で気持ちを鎮めよう」

    心の中で言い訳を繰り返しても何も解決しないので、言い聞かせるように呟いて俺はスポンジを握った。
    無心になろうとすると、クリニックの八藤先生に『恋人がいた方がメンタルに良いか』と聞いたときのことが脳内で再生された。

「一般的には恋人はいないよりもいた方が精神的に良い影響があります。杉崎さんはいわゆる両性愛者に分類されるかと思いますが、恋人の男女比はどのような比率ですか?」
「んー、実際付き合うってなると女性ばっかですね。男とは本当にヤるだけの情緒も何もない関係ばかりで。切ったセフレもそうですけど」
「なるほど。そうなると、男性より女性の恋人ができれば精神的に良い影響が見込めると思います」
「あー……男だとダメ、ってことですか」
「ダメではないですが、男同士というのは浮気や一時の遊びが多いかつ世間的に好奇の目に晒されますからね。本当に恋愛をしたいなら精神的に疲弊する可能性を覚悟しなければならないかと」

    八藤先生の少し困った風の微笑みが『ましてやノンケ相手にうつつを抜かすなよ』と言っているようだった。いや、八藤先生がそんなこと言わないのはわかっているけど、俺の無謀な片想いには勘づかれている気がした。
    一太くんとなら付き合って疲弊することなんてないと思うけどと考えながら、一太くんが俺に疲弊する可能性はあるかと自嘲して、黙ってスポンジを浴槽にこすりつけた。

    風呂掃除を始めるとわりと集中してしまって、風呂場から出てくるのが遅くなった。一太くんに怪訝な目で見られるかもと思いながら常駐させている部屋着を着て部屋に戻ると、彼はベッドに横になっている。

「風呂出たよ。ついでに掃除を……」

    言いかけて口を閉ざす。
    壁に向かって少し丸まっている一太くんは微動だにしなかった。近づいて見ると、すっかり寝ているようで小さく寝息が聞こえる。
    起こさないようにしないと。
    そう思って忍び足で動き、スマホのアラームをさっさとセットして俺は部屋の電気を消した。ゆっくりとした動作で一太くんの隣に横になる。
    少し天井を眺めてから、一太くんの方に寝返って背中を見つめた。広い背中だ。
    一太くんは着痩せするタイプらしく普段は分かりにくいけど、結構筋肉質な身体をしている。趣味の筋トレが遺憾なく発揮された身体だ。
    良い身体してんだよなと思ってつい背中に触ってしまい、体温にドキリとした。もっとくっつきたいという欲のままに身体を寄せると、甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。

    あ、ヤバい。

    そう思ったときには既に下半身に血が溜まるのを感じた。
    さっきの風呂掃除が全く役に立っていない状況に頭を抱えても、下半身は治まらない。俺が起きて一太くんも起きてしまった場合、俺の下半身が暴れているのを目撃されたらどうしようもない。朝なら朝立ちだと言い訳もできるけど今の状況じゃ完全に変態だ。
    そこでいつかの朝に一太くんが朝立ちしてたのを思い出してしまい、完全に勃った。とっさに手で押さえても、押さえた圧が刺激になっていく。

    寝てるしここで抜いてもバレないだろ。

    頭の中で性欲が囁いてくる。
    抗おうにも右手を布越しに擦るように動かしてしまって、気持ちよさに目を閉じた。

「……っ」

    あーどうしよ、気持ちいい。一太くん良い匂いする。
    いや、抜くなよダメだろ。せめてトイレ行けよ。

    ふたつの気持ちがせめぎ合うも、右手は止まらなかった。家で抜いてくればよかったという後悔と共に、スウェットの中に手を突っ込む。

「ん……」

    撫でるように触ってからゆっくりと握った。上下にしごくと息が漏れた。
    バカなことしてるなぁ俺。
    でも、一太くんの体温に興奮しているのは事実で、どんどん頭の中が「好き」と「気持ちいい」だけになっていく。
    滲む先走りを指に絡めて先端をこすると肩がびくついた。

「っ……、はぁ……」

    先走りのぬめりが水音になって、弱く聞こえる。もっとゆっくり弄らないと音が大きくなってしまうのに、俺は配慮に欠けた動きで刺激を与え続けた。
    一太くんのことを考えると腹の奥が疼いて切なくなる。男に抱かれたことのある人間の性だ。
    俺は空いた片手を後ろに這わせて穴に触れた。西野と会わなくなってから、誰かの何かが突っ込まれる機会はなくなったけど、自分の指なら何度かお世話になっていた。

「ん、ぁっ……ッ」

    ぐっと押し込んだ指は少し抵抗を受けてからぬるりと中に入る。女性を抱くことでは獲られない、独特の快感が背中を走った。痛みを感じることはない。
    ほじるように指を動かすと腸内が反応して動く。ゆっくり好きなところを探して撫で上げると気持ちがよくて口が開いてしまう。同時に前をしごいて、開いた口から息が漏れて思わず手で口を覆った。

    おい、これ以上やると声抑えられないぞ。
    じわじわ楽しんでないでさっさと抜けって。

    なけなしの理性が語りかけてきて、わかったよと目を閉じながら後ろから指を引き抜く。
    そのとき。

「あの……」
「……え?」

    暗闇で一太くんの身体が起き上がった。

    ちょっと待って。ヤバい。これはヤバい。

    瞬きも出来ずに一太くんを呆然と見つめていると、口を押さえていた手を掴まれた。

「声……聞こえてますよ」
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