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立花颯

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 深夜3時にかかってくる非通知電話。
 普通に考えれば迷惑なイタズラだ。
 でも、俺にはそう思えなかった。

「切るまでほっとこう」

 涼真はそう言って、スマホを伏せようとした。
 俺は涼真の手を掴んでしまっていた。

「出なくていいの」
「どうせイタズラだって。それか詐欺。最近ちょくちょくあってさ、暇人だよね」
「それ、もしかしたら」
「もしかしたら?」

 もしかしたらなんなのか。
 言葉にしたくなくて、続きを言うのが憚られた。

「……まさか、吉岡あいつだと思ってる?」

 涼真は言い淀んだ俺を馬鹿にしないように、慎重な声を出した。
 俺が僅かに頷くと、涼真はすぐ首を振った。

「違うよ、そんなわけ」
「違うかはわからないだろ。出て確かめたい。俺が出るから」

 電話は未だに切られていない。嫌な執着を感じた。

「ダメだ。吉岡かもしれないから出るなら、ハヤテには出させられない」

 スマホを取ろうとした手を止められる。

「俺が出る。それでいい?」
「……スピーカーにしてくれるなら」

 俺が出られないなら、話の内容を聞きたかった。
 涼真は困った顔をするかと思ったが、「わかった」と頷いて『応答』を押してスピーカーにした。

「……はい」
『あ、このような夜分にすみません。私、メント法律事務所で弁護士をしております、新山と申します』

 電話は無言のまま切れて、「ほら、イタズラ電話だったでしょ」と涼真が笑ってくれるのを、少しだけ期待していた。落ち着いた声でしっかり話す弁護士が出て、安堵から程遠いところに俺の心は放り出された。

「……こんな時間に、非通知で電話をしてくる弁護士がいるんですか」
『疑われても仕方のない状況で、申し訳ありません。信じてくれとは言いませんが、話だけでも聞いて頂きたくてお電話いたしました』

 俺は動悸が始まるのを感じながら、手元のスマホで『メント法律事務所 新山』と検索した。
 Googleが瞬時に検索結果を出し、そこには『メント法律事務所の新山岳大弁護士』というプロフィールページがあった。
 涼真に画面を見せると、涼真は目を見開いてから頷く。

「用件はなんですか」
『その前に、この電話番号はおそらく立花ハヤテ様か、その他JETの方の個人携帯の番号だと推測しております』
「そのような質問には答えられません」

 涼真が毅然と返す。
 俺が出ていたら、ここで完全にパニックになっていただろう。

『お答えいただかなくて結構です。かなり近しい関係者だと仮定して、これから私の独り言をお話しします。関係ない話だと思ったら遠慮なく電話をお切りください。私は以前立花様に加害行為を行った吉岡という人物の弁護を担当しておりました。この度再び吉岡氏から話がありまして、その件をお伝えしたいのです』

 針で刺されたような痛みが身体に走った。
 吉岡。
 やっぱり、吉岡の話なのか。

 呼吸が浅くなる俺の手を、涼真が握った。

「……どういった内容で?」
『立花様に直接会って謝罪したい、というお話です』
「っ!」

 俺は涼真の手を強く握り返した。
 そうしないと耐えられなかった。
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