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立花颯
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沈黙が流れて、それがどうしようもない時間になりかけたとき、涼真が突如バカでかいくしゃみをした。びっくりして顔を向けると、「あ、ごめ」と言ってすぐにもう一度くしゃみをする。
「あの、もう一回やり直そう」
くしゃみを終えてから真面目なトーンで言われて、俺は温度差に吹き出してしまった。
「なんで笑うんだよ、とにかくこのテーマはやめで──」
「いいよ、このままで」
正直涼真の恋愛事情には興味がある。
付き合う気がないからフッただけで、俺が涼真を好きなことに変わりはない。
「リョウマは彼女とかできた?」
「……サイコロやり直さない?」
「できた?」
笑顔で聞こえないふりをすると、涼真は視線をそらした。
「彼女とか、できてないよ」
「そうなんだ。じゃ彼氏はいたり?」
「……いないよ」
一呼吸置いて、涼真の横顔が少し赤くなる。
「俺は男が好きなんじゃなくて、ハヤテが好きだから」
これが恋愛ドラマだったら、すごくいいシーンだっただろう。相手役の俺は、目に涙をためながら涼真に抱きついて、二人は幸せなキスをして終わる。
でも、これはドラマじゃなくて現実だった。そして俺は、純粋な愛の告白を受けても絆されないくらいに、ドライな歳の取り方をしてしまっていた。
あー、やっぱり。
俺が歪めちゃってるんだな。
頬を赤らめる涼真を見て、最初に思ったのがこれだった。
「あっ今のは告白じゃないから!ノーカン!返事いらない!」
俺が黙ったままだったのが返事に悩んでいると思ったのか、涼真はバッとこちら向いて手をぶんぶん振った。
「そんな慌てなくても」
「俺答えたんだから、ハヤテも答えてよ。彼女は──」
「いない。俺、元から男が好きだし」
慌てたまま捲し立てた涼真がピタリと固まり、不自然な間が流れた。
「そ、うなんだ」
「ま、彼氏もいないけど」
動揺を隠せていない涼真に続けてすぐに言うと、「……そうなんだ」と同じ言葉を繰り返した。
指先を弄りながら、涼真がこちらを何度か見た。なにか聞きたいんだろうと思い、俺は目を合わせず催促もせず待った。
「俺が彼氏になるのがダメなのは、なんで」
決意したように俺を見つめた涼真が言った。涼真は落ち着いた声を出そうとしていたが、語尾の震えは隠せていなかった。緊張が目に見えるように伝わってくる。
本当はフラれたときに、聞いておきたかったことなんだろうなと思った。
今の今まで、涼真は俺に理由も聞けなかった。俺たちは、俺のせいでそんな力関係だった。不憫なほど俺に惚れている涼真に、俺は臆面もなく強者の権力を振りかざしている。
「俺と付き合っても、リョウマは幸せになれないから」
「っそんなわけない、俺はハヤテとなら──」
「待った。言い争いたくない。一回聞いてくれ」
ちゃんと答えるつもりだった。
はぐらかす気はなかった。
「前も言ったけど、俺はお前の好意を利用して、セフレにさせた男だ。そんな男とまだ付き合いたい、付き合ってほしいと思ってしまうなら、リョウマは俺に囚われすぎてる。健全な関係は築けない。だから俺はお前と付き合わない」
これが真意だ。
涼真が俺のせいで都合のいい男に落とされるのは、やめたかった。
「それから、俺とリョウマが恋人同士になったとして、何のプラスがあるのか……わからない。いつか交際がバレるんじゃないかと怯えて生きるだけだ。少なくとも俺は、死ぬまでゲイだって公表したくない。多様性を認めようとか、綺麗事はうんざり」
さっきまで反論しようとしていた涼真は、唇を弱く噛んでいる。
「リョウマは日向にいるべき人間なんだよ。みんなに祝福される人生を歩める、恵まれた貴重な人だ。俺みたいなのに引っ張られて、お前が日陰を生きるのは耐えられない」
想いを初めて言葉にして、やっぱりしっくり来た。
気持ちを隠さず伝えたことに不安と満足を感じながら、何と言い返されるか涼真を見た。
「……ハヤテってほんと優しいな」
「どこが」
涼真に優しいと言われる筋合いはまったくなくて、思いもしない返答に自分への嫌悪感が刺激された。
涼真は目を伏せて、少し笑ったように見えた。
「俺は……俺はさ、全然」
そこまで言った時、涼真の手元でスマホが長く震えた。
電話だ、と思ってすぐに時計を見た。
だって今は夜中の3時だったから。
「……誰だ」
涼真が眉を寄せる。
画面の表示は『非通知』で、まだ何の電話かわからないのに、俺は血の気が引くのを感じた。
「あの、もう一回やり直そう」
くしゃみを終えてから真面目なトーンで言われて、俺は温度差に吹き出してしまった。
「なんで笑うんだよ、とにかくこのテーマはやめで──」
「いいよ、このままで」
正直涼真の恋愛事情には興味がある。
付き合う気がないからフッただけで、俺が涼真を好きなことに変わりはない。
「リョウマは彼女とかできた?」
「……サイコロやり直さない?」
「できた?」
笑顔で聞こえないふりをすると、涼真は視線をそらした。
「彼女とか、できてないよ」
「そうなんだ。じゃ彼氏はいたり?」
「……いないよ」
一呼吸置いて、涼真の横顔が少し赤くなる。
「俺は男が好きなんじゃなくて、ハヤテが好きだから」
これが恋愛ドラマだったら、すごくいいシーンだっただろう。相手役の俺は、目に涙をためながら涼真に抱きついて、二人は幸せなキスをして終わる。
でも、これはドラマじゃなくて現実だった。そして俺は、純粋な愛の告白を受けても絆されないくらいに、ドライな歳の取り方をしてしまっていた。
あー、やっぱり。
俺が歪めちゃってるんだな。
頬を赤らめる涼真を見て、最初に思ったのがこれだった。
「あっ今のは告白じゃないから!ノーカン!返事いらない!」
俺が黙ったままだったのが返事に悩んでいると思ったのか、涼真はバッとこちら向いて手をぶんぶん振った。
「そんな慌てなくても」
「俺答えたんだから、ハヤテも答えてよ。彼女は──」
「いない。俺、元から男が好きだし」
慌てたまま捲し立てた涼真がピタリと固まり、不自然な間が流れた。
「そ、うなんだ」
「ま、彼氏もいないけど」
動揺を隠せていない涼真に続けてすぐに言うと、「……そうなんだ」と同じ言葉を繰り返した。
指先を弄りながら、涼真がこちらを何度か見た。なにか聞きたいんだろうと思い、俺は目を合わせず催促もせず待った。
「俺が彼氏になるのがダメなのは、なんで」
決意したように俺を見つめた涼真が言った。涼真は落ち着いた声を出そうとしていたが、語尾の震えは隠せていなかった。緊張が目に見えるように伝わってくる。
本当はフラれたときに、聞いておきたかったことなんだろうなと思った。
今の今まで、涼真は俺に理由も聞けなかった。俺たちは、俺のせいでそんな力関係だった。不憫なほど俺に惚れている涼真に、俺は臆面もなく強者の権力を振りかざしている。
「俺と付き合っても、リョウマは幸せになれないから」
「っそんなわけない、俺はハヤテとなら──」
「待った。言い争いたくない。一回聞いてくれ」
ちゃんと答えるつもりだった。
はぐらかす気はなかった。
「前も言ったけど、俺はお前の好意を利用して、セフレにさせた男だ。そんな男とまだ付き合いたい、付き合ってほしいと思ってしまうなら、リョウマは俺に囚われすぎてる。健全な関係は築けない。だから俺はお前と付き合わない」
これが真意だ。
涼真が俺のせいで都合のいい男に落とされるのは、やめたかった。
「それから、俺とリョウマが恋人同士になったとして、何のプラスがあるのか……わからない。いつか交際がバレるんじゃないかと怯えて生きるだけだ。少なくとも俺は、死ぬまでゲイだって公表したくない。多様性を認めようとか、綺麗事はうんざり」
さっきまで反論しようとしていた涼真は、唇を弱く噛んでいる。
「リョウマは日向にいるべき人間なんだよ。みんなに祝福される人生を歩める、恵まれた貴重な人だ。俺みたいなのに引っ張られて、お前が日陰を生きるのは耐えられない」
想いを初めて言葉にして、やっぱりしっくり来た。
気持ちを隠さず伝えたことに不安と満足を感じながら、何と言い返されるか涼真を見た。
「……ハヤテってほんと優しいな」
「どこが」
涼真に優しいと言われる筋合いはまったくなくて、思いもしない返答に自分への嫌悪感が刺激された。
涼真は目を伏せて、少し笑ったように見えた。
「俺は……俺はさ、全然」
そこまで言った時、涼真の手元でスマホが長く震えた。
電話だ、と思ってすぐに時計を見た。
だって今は夜中の3時だったから。
「……誰だ」
涼真が眉を寄せる。
画面の表示は『非通知』で、まだ何の電話かわからないのに、俺は血の気が引くのを感じた。
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