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御厨涼真
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インタビューが終わって、控え室でメイクを落とす。
颯は既に違う仕事に向かっていて控え室にはいない。
俺が少し軽い心で鏡と向き合っていると、ひょいと鏡に頼さんが写り込んだ。
「リョウマ、すっぴんカッコいい~」
ふざけた様子でそう言いながら、頼さんは丸椅子を引き寄せて俺の隣に座る。周囲を見渡してスタッフがそばに来ないのを確認すると、俺に顔を寄せた。
「ハヤテと、どう?」
声は小さいが自然なトーンで聞かれて、俺はどう言うか考えながらメイク落としを丸める。
「その、なんていうか、普通に戻りました」
いろんな意味を『普通』に背負わせると、それだけで納得してくれたらしい頼さんは「そっか」と慰めと安堵のような表情で薄く笑った。
「お前はそれで大丈夫?」
「あ、はい」
「本当に?」
ほとんど反射的に肯定した俺を、頼さんが覗き込んでいる。
意思のある目に「本当は?」と問われて、俺は目をそらした。
「……わかんないです、まだ。やっぱツラいけど、でも大丈夫な気がする……というか」
颯に好きだと言われたことは伏せた。
人に話せるほど自分でも飲み込めていなかったし、頼さんに相談したらまた頼さんを悩ませてしまう気がした。
「やっぱダメだったら、その時はライさんに言います」
「お~、よろしいよろしい。存分に俺の胸で泣きなさい」
「はは、ありがとうございます」
頭を下げると、ぽんと手が乗った。
「好きでいるのは自由。でもツラくならないようにしような」
頼さんは優しい。
兄のようであり、親のようでもある。
小学生のうちにアイドルを目指して、親元を離れて中学生でデビューした俺を、常に気遣ってくれて。
もう子供じゃないんだから迷惑かけないようにしなきゃと思っていたけど、結局頼さんの前では俺はいつまでも子供なのかもしれない。
リーダーが彼でよかったと思いながら「はい」と頭を上げた時、頼さんが手に持っていたスマホの画面が光った。LINEの通知が来たようだ。
頼さんは画面を見ると、一瞬固まってからすぐに俺を見た。
そして、何も言わずに俺のスマホを指差す。
なんだ?
明るさもおふざけも消えた頼さんにざわつきを感じながらスマホを見ると、マネージャーからメッセージが来ていた。
『報告用』という名の、颯を除くJETメンバーとマネージャーだけがいるグループライン宛だ。
『吉岡が仮釈放されることになった』
その名前を見て、俺は息が止まった。
勝手にスマホを握る手に力が入る。
吉岡。
颯を襲った犯人だ。
「ウソだ、なんでこんな早く──」
「リョウマ落ち着け」
口走った俺を、頼さんが諭すように見た。スタッフもいる場で話すことではないのはわかったが、どうにか言葉をおさめても、俺は動揺を隠せなかった。
『今日中に話し合いたい』
マネージャーが送ってきた文は、猶予がないことを示している。
吉岡は実刑で2年の懲役だった。
まだ刑務所に入ってから、1年経っていない。
本当は一生刑務所にいてほしいのに、こんな。
「ハヤテにはまだ言うな。とにかくマネージャーから話を聞こう」
頼さんは宥める口調で話したが、その表情は静かな怒りに満ちていた。
颯は既に違う仕事に向かっていて控え室にはいない。
俺が少し軽い心で鏡と向き合っていると、ひょいと鏡に頼さんが写り込んだ。
「リョウマ、すっぴんカッコいい~」
ふざけた様子でそう言いながら、頼さんは丸椅子を引き寄せて俺の隣に座る。周囲を見渡してスタッフがそばに来ないのを確認すると、俺に顔を寄せた。
「ハヤテと、どう?」
声は小さいが自然なトーンで聞かれて、俺はどう言うか考えながらメイク落としを丸める。
「その、なんていうか、普通に戻りました」
いろんな意味を『普通』に背負わせると、それだけで納得してくれたらしい頼さんは「そっか」と慰めと安堵のような表情で薄く笑った。
「お前はそれで大丈夫?」
「あ、はい」
「本当に?」
ほとんど反射的に肯定した俺を、頼さんが覗き込んでいる。
意思のある目に「本当は?」と問われて、俺は目をそらした。
「……わかんないです、まだ。やっぱツラいけど、でも大丈夫な気がする……というか」
颯に好きだと言われたことは伏せた。
人に話せるほど自分でも飲み込めていなかったし、頼さんに相談したらまた頼さんを悩ませてしまう気がした。
「やっぱダメだったら、その時はライさんに言います」
「お~、よろしいよろしい。存分に俺の胸で泣きなさい」
「はは、ありがとうございます」
頭を下げると、ぽんと手が乗った。
「好きでいるのは自由。でもツラくならないようにしような」
頼さんは優しい。
兄のようであり、親のようでもある。
小学生のうちにアイドルを目指して、親元を離れて中学生でデビューした俺を、常に気遣ってくれて。
もう子供じゃないんだから迷惑かけないようにしなきゃと思っていたけど、結局頼さんの前では俺はいつまでも子供なのかもしれない。
リーダーが彼でよかったと思いながら「はい」と頭を上げた時、頼さんが手に持っていたスマホの画面が光った。LINEの通知が来たようだ。
頼さんは画面を見ると、一瞬固まってからすぐに俺を見た。
そして、何も言わずに俺のスマホを指差す。
なんだ?
明るさもおふざけも消えた頼さんにざわつきを感じながらスマホを見ると、マネージャーからメッセージが来ていた。
『報告用』という名の、颯を除くJETメンバーとマネージャーだけがいるグループライン宛だ。
『吉岡が仮釈放されることになった』
その名前を見て、俺は息が止まった。
勝手にスマホを握る手に力が入る。
吉岡。
颯を襲った犯人だ。
「ウソだ、なんでこんな早く──」
「リョウマ落ち着け」
口走った俺を、頼さんが諭すように見た。スタッフもいる場で話すことではないのはわかったが、どうにか言葉をおさめても、俺は動揺を隠せなかった。
『今日中に話し合いたい』
マネージャーが送ってきた文は、猶予がないことを示している。
吉岡は実刑で2年の懲役だった。
まだ刑務所に入ってから、1年経っていない。
本当は一生刑務所にいてほしいのに、こんな。
「ハヤテにはまだ言うな。とにかくマネージャーから話を聞こう」
頼さんは宥める口調で話したが、その表情は静かな怒りに満ちていた。
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