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御厨涼真

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  何も食べられなくて、食べたことにして、殆どの食事を捨てていたこと。
  夜は眠れなくて不眠が続いていたこと。
  体調について何を聞かれても『大丈夫』と事務所に言っていたこと。

  颯はこの2週間、あらゆる人たちに隠していたことを俺に話して、「誰にも言わないでほしい」と消えそうな声で言った。
  俺は事務所に言うべきだとか、メンバーには言うべきだとか色々話し合いたかったけど、そんなことを言ったら颯をさらに追い詰めるのもわかっていた。だからベッドサイドに腰かけたまま、静かに颯を見返すしかなかった。

「それは……心配かけたくないから?」
「……これ以上はもう、ほんとに迷惑だから。でもリョウマには、心配かけちゃっててごめん」
「ハヤテが悪いわけじゃないよ。ただ、心配かけたら迷惑になるとか、そういうことは思わないでほしい。俺は本当に純粋に、ハヤテが心配で」

  つい颯の方に前のめりになると、颯は不安げな目をした。人の接近に抵抗がある状態だというのは少し考えればわかるのに、配慮の足りない自分が嫌になる。すぐ重心を戻して、俺は空気を変えるように「わかった」と明るい声を出した。

「明日から寮で過ごしてくれるなら、俺は今の話を誰にも言わないって約束する」
「え……なんで、寮なの」
「俺も明日から寮で寝泊まりするから。それで、1日最低1回は必ず、一緒にご飯食べよう」
「いや、リョウマ……」

  意図を察したらしい颯が眉を下げる。 
  何か言われる前に、俺は言いたいことを言い切ろうとした。

「俺が勝手にハヤテとご飯食べたいだけ。そのワガママに付き合ってほしい。だめ?」

  颯は口を開きかけて、何も言わずに黙った。迷うような目の動きを見つめていると、ゆっくりと目が合う。

「……優しくしてくれて、ありがと」

  泣きそうな笑顔を浮かべる颯を見て、俺は何か気持ちが形作られるのを感じた。形作られるというか、埋まっていたものが表に出るような感覚の方が近いかもしれない。元々あったのに、自分でも見えてなかった感情が動き始めたのがわかった。
  それが『恋愛感情』だと気付くのに、時間はあまりかからなかった。







「とりあえず、座って話さない?」

  自分の隣を手で叩く颯が、俺の回想を止めた。

「……あー、いや、立ってる」
「なんで」

  なんで、って仲良く隣に座って話すような話じゃないだろ。
  
  思ったことは言わずに、俺は座らない意思表示のために壁に寄りかかった。

「それより、話あるんでしょ」
「あぁ……うん。俺たち、もうセックスするのやめようって言いたくて」

  予想通りの回答に、わかっていたが胃がうねるのを感じた。

「不健全っていうか、よくない関係だよなっていう自覚はあってさ。そろそろ区切りにしたほうがお互いのためっていうか」

  颯が話を続ける。
  俺は建設的に冷静に話し合おうと思って、息を吸った。でも、出てきた言葉は全く話し合いをする気のないものだった。

「今日で全部終わりなら……告白の返事だけ聞かせてほしい」

  ただただ、ずっと欲しかった答えを貰おうとしていた。
  告白して以来、貰えていない返事に言及するのは初めてで。
  緊張で口の乾く俺を、颯は感情の読めない綺麗な無表情で見ていた。
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