10 / 36
矢代頼
10
しおりを挟む
練習スタジオに新曲が流れる。
「1、2、3、1、2、3……」
鏡で自分の振りを確認しながら、もう少し今のところは脚を上げた方がいいなと考える。その傍ら、俺の意識は颯と涼真に注がれていた。
練習用のダボついたスウェットでも、なおわかる長い脚でステップを踏む涼真は、さっきまで俺の部屋で半泣きだった男とは思えない。そして半泣きの原因である颯は、服をわざとはだけさせる振りで割れた腹筋を見せつけていて、俺は思わず視線をそらした。
あの腹筋を涼真に触らせてるわけか。
いや、こんな下ネタを後輩たちで考えたい訳じゃない。でも涼真の口から颯と身体だけの関係だと言われた今、考えるなという方が無理がある。
これが健全な交際だったなら、下ネタなんか考えないようにするけどさ。
「はぁ……」
踊りながら小さくため息を吐いていると、颯と涼真が接近するパートに入る。
チラ、とふたりを見れば、颯が振りの合間に涼真の腰を抱くように引き寄せていた。顔が近づいて驚いた涼真がもたつくと、満足そうに笑った颯は振りに従って離れていく。
年上のお姉さんに弄ばれてる男子高校生。
涼真の顔を見て、俺はそんなことを思った。
お互いに割りきった肉体関係なら、俺も大人としてある程度目をつむる、又はちゃんと説得してやめさせることもできただろうけど、問題は涼真の方は純粋な愛を颯に抱いているということだ。
涼真の気持ちを弄ぶのはやめさせないと。
それに涼真に約束した手前、颯をぎゃふんと言わせるために頑張る義務が俺にはある。
「はぁ……」
決意と裏腹に、俺の口からは再びため息が出ていた。
練習が一区切りとなって、休憩に入る。
俺が床に座り込むと、翔太郎が練習後とは思えない軽やかなスキップで近づいてきた。
「ライ、外のコンビニにアイス買いに行こ」
「えぇ~俺疲れた。動けん」
「そんなこと言ってるとすぐ三十路になるよ」
「三十路には黙ってても勝手になるから」
動かないという意思表示のために床に寝そべると、翔太郎は「も~」と頬を膨らませた。いい歳した男のくせに、これが似合うのだからすごい。
「てかショータロお前、練習前にもアイス食ってなかった?」
「うん。でも僕、まだ食う」
翔太郎は片言気味に答えて、床に寝る俺の上に乗ってくる。マネージャーに買ってきてもらえばいいのに、翔太郎は何かと現場主義だった。
俺はスマホを弄り始めてみたが、俺の上で横揺れしている翔太郎には退く様子がない。これ以上拒否しても機嫌を損ねるだけだろうし、仕方ない一緒に行ってやるかと思ったとき、俺の目の前に白いアディダスのスニーカーが現れた。
「ライさん、ちょっと次の収録のことで相談したいことあるんだけど」
見上げるとタオルで顔の汗を拭う颯がいた。
汗で濡れた前髪がオスっぽさを増幅させていて、ファンが見たら騒ぎ立てるんだろうなと思った。
涼真も騒ぎ立てるのかもしれないけど。
俺の頭がまた無駄なことを考えているうちに、「聞いてる?」と颯が追い立ててくる。
「聞いてる聞いてる。ほら、ショータロ退いて。俺ハヤテと話すことあるから」
「えー仕方ないなぁ~。リョーマ!僕と一緒にアイス買いに行こ!」
翔太郎が俺の上から退いて、丈と話している涼真の方に駆け寄っていった。
「で、相談って?」
起き上がって床に座り直すと、颯は俺の腕を引いた。
「人がいないとこで話したい」
颯に見下ろされて、俺は得体の知れない緊張を覚えた。
「1、2、3、1、2、3……」
鏡で自分の振りを確認しながら、もう少し今のところは脚を上げた方がいいなと考える。その傍ら、俺の意識は颯と涼真に注がれていた。
練習用のダボついたスウェットでも、なおわかる長い脚でステップを踏む涼真は、さっきまで俺の部屋で半泣きだった男とは思えない。そして半泣きの原因である颯は、服をわざとはだけさせる振りで割れた腹筋を見せつけていて、俺は思わず視線をそらした。
あの腹筋を涼真に触らせてるわけか。
いや、こんな下ネタを後輩たちで考えたい訳じゃない。でも涼真の口から颯と身体だけの関係だと言われた今、考えるなという方が無理がある。
これが健全な交際だったなら、下ネタなんか考えないようにするけどさ。
「はぁ……」
踊りながら小さくため息を吐いていると、颯と涼真が接近するパートに入る。
チラ、とふたりを見れば、颯が振りの合間に涼真の腰を抱くように引き寄せていた。顔が近づいて驚いた涼真がもたつくと、満足そうに笑った颯は振りに従って離れていく。
年上のお姉さんに弄ばれてる男子高校生。
涼真の顔を見て、俺はそんなことを思った。
お互いに割りきった肉体関係なら、俺も大人としてある程度目をつむる、又はちゃんと説得してやめさせることもできただろうけど、問題は涼真の方は純粋な愛を颯に抱いているということだ。
涼真の気持ちを弄ぶのはやめさせないと。
それに涼真に約束した手前、颯をぎゃふんと言わせるために頑張る義務が俺にはある。
「はぁ……」
決意と裏腹に、俺の口からは再びため息が出ていた。
練習が一区切りとなって、休憩に入る。
俺が床に座り込むと、翔太郎が練習後とは思えない軽やかなスキップで近づいてきた。
「ライ、外のコンビニにアイス買いに行こ」
「えぇ~俺疲れた。動けん」
「そんなこと言ってるとすぐ三十路になるよ」
「三十路には黙ってても勝手になるから」
動かないという意思表示のために床に寝そべると、翔太郎は「も~」と頬を膨らませた。いい歳した男のくせに、これが似合うのだからすごい。
「てかショータロお前、練習前にもアイス食ってなかった?」
「うん。でも僕、まだ食う」
翔太郎は片言気味に答えて、床に寝る俺の上に乗ってくる。マネージャーに買ってきてもらえばいいのに、翔太郎は何かと現場主義だった。
俺はスマホを弄り始めてみたが、俺の上で横揺れしている翔太郎には退く様子がない。これ以上拒否しても機嫌を損ねるだけだろうし、仕方ない一緒に行ってやるかと思ったとき、俺の目の前に白いアディダスのスニーカーが現れた。
「ライさん、ちょっと次の収録のことで相談したいことあるんだけど」
見上げるとタオルで顔の汗を拭う颯がいた。
汗で濡れた前髪がオスっぽさを増幅させていて、ファンが見たら騒ぎ立てるんだろうなと思った。
涼真も騒ぎ立てるのかもしれないけど。
俺の頭がまた無駄なことを考えているうちに、「聞いてる?」と颯が追い立ててくる。
「聞いてる聞いてる。ほら、ショータロ退いて。俺ハヤテと話すことあるから」
「えー仕方ないなぁ~。リョーマ!僕と一緒にアイス買いに行こ!」
翔太郎が俺の上から退いて、丈と話している涼真の方に駆け寄っていった。
「で、相談って?」
起き上がって床に座り直すと、颯は俺の腕を引いた。
「人がいないとこで話したい」
颯に見下ろされて、俺は得体の知れない緊張を覚えた。
1
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
王道学園なのに会長だけなんか違くない?
ばなな
BL
※更新遅め
この学園。柵野下学園の生徒会はよくある王道的なも
のだった。
…だが会長は違ったーー
この作品は王道の俺様会長では無い面倒くさがりな主人公とその周りの話です。
ちなみに会長総受け…になる予定?です。
ダメリーマンにダメにされちゃう高校生
タタミ
BL
高校3年生の古賀栄智は、同じシェアハウスに住む会社員・宮城旭に恋している。
ギャンブル好きで特定の恋人を作らないダメ男の旭に、栄智は実らない想いを募らせていくが──
ダメリーマンにダメにされる男子高校生の話。
病んでる僕は、
蒼紫
BL
『特に理由もなく、
この世界が嫌になった。
愛されたい
でも、縛られたくない
寂しいのも
めんどくさいのも
全部嫌なんだ。』
特に取り柄もなく、短気で、我儘で、それでいて臆病で繊細。
そんな少年が王道学園に転校してきた5月7日。
彼が転校してきて何もかもが、少しずつ変わっていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最初のみ三人称 その後は基本一人称です。
お知らせをお読みください。
エブリスタでも投稿してましたがこちらをメインで活動しようと思います。
(エブリスタには改訂前のものしか載せてません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる