イタリアマフィアは殺しはできても恋愛不器用

タタミ

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バート

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 へらへらと緩んだ顔で、フィルは俺を見上げた。
 その顔には『バートさんの部屋に入れた』という喜びが滲み出ている。
 俺は少し前に、フィルから告白を受けていた。
 告白というのはもちろん好きだの付き合いたいだのという類いの告白だ。『自分に惚れているフィル』という存在をどう扱っていいのかわからないし、恋愛感情はもっとわからないし、色々考えるのが面倒で俺は関係の進退を放置していた。

「部屋なんか珍しくないだろ。お前マジでオレのこと好きだよな」
「うぇ、いきなり変なこと言わないでくださいよ……!」
「だってそうだろ」
「そう、ですけど……!普通はそういうことわざわざ言わないですから!」

 ついさっきまで早く出ていかないのかとフィルに思っていたのだが、首から頬にかけて赤く染めている姿が胸をざわつかせた。

「そういう反応すんなよ」
「え?ちょっ」

 俺はフィルの腕を掴むと、先程まで自分が寝ていたベッドに放り投げた。俺の力に対して軽すぎるフィルの身体は、想像よりも大袈裟な勢いでベッドに落ちる。
 何が起こったのか把握しきれていないフィルの顔を掴むと、今日も相変わらずつけているマスクを剥ぎ取った。

「バ、バートさん!いきなり何──」
「わかるだろ」

 それだけ言って、俺はフィルの唇を食べるかのように口付けた。瞬間フィルの身体がびくりと反応し、固まる。そのあと弱い力でシャツが掴まれた。
 俺はフィルの告白を放置していたが、告白されてから気が向くとフィルにキスをするようになっていた。
 最初の頃は「なんでこんなこと」とかいちいち言っていたフィルも、今では答えを貰えないことを学習して何も言わない。

「…………ん、……っ」

 キスを受け入れるのか拒否するのか、毎度悩むような舌の抵抗があったあと、結局いつもフィルは俺に舌を差し出した。
 フィルの舌を噛むのが好きだった。噛んだときの反応が好きだった。いたいけなぬいぐるみを握り潰したくなるのに近い感覚を、俺はフィルに抱いていた。

「ッ……!ぁ……ふ……」

 血が出ないように力加減をして噛むと、痛みにフィルの身体が震える。血が出るほど噛んでみたいという気持ちはあったが、そこまでやるのは弱い者いじめだという配慮は俺にもあった。

「っ、………は、ハァッ……バートさん……」

 痛みに耐える声を何度か聞いて唇を離すと、フィルは肩で息をしていた。俺のシャツを掴む力は少し強くなっている。
 ベッドに投げられて勝手にキスされて舌まで噛まれているのに、フィルは嬉しいような困ったような顔を赤くしたままで、それを見て俺は満足した。
 この顔を見ると胸の奥が満たされる。この満たされた感覚を味わいたくて、同意も得ずにフィルにキスをしていた。
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