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バート

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「勝手に告っといて、急に忘れろって言われてもなァ」

 少しだけ声を低くするとビクリと肩を震わせて、フィルは唇を噛んだ。
 命の危険を感じているのだろうと思って、同時に命の危険を感じるような相手を好きになるなんてコイツはおかしいとも思った。
 そこで不意に『フィルはバートさんとキスしたいしヤリたいわけですよね』というウォルトの発言が甦り、俺の何かが疼く。その原因はよくわからなかったが、気づけば俺はフィルの顔を掴んでいた。握りしめたら割れてしまうような顎だ。

「バ、バートさん……?」

 揺れる瞳を少し見つめてから、掴んだ顎を引き寄せた。

「お前、オレとキスしてえとか考えてんの」
「は、え……なんでそんなこと」
「考えてんのかって。言えよ」

 それでも言い淀むフィルに舌打ちをすると、「き、嫌われたくないんです」と口を震わせた。

「いいから言ってみろ。言わないならこのまま顎外すぞ」

 我ながら怪我人にする脅しじゃないと思ったが、苛立ちのままに掴む手に力が入ってしまうと、ガクガクと震えるようにフィルは頷いた。

「か、考えてますっ……すみません……!好きなんですっ……」

 涙目で、頬が赤くて、震える手で俺の腕をか弱く掴む姿は、心の疼きを増加させ、殺しのときに感じるものとはまた別のなにかを感じさせる。

「オレみたいな雑魚に好かれても困るのは分かってるん……っ」

 俺はもうフィルの話を聞いていなかった。
 代わりに薄い唇に口付けていた。
 なぜかはわからない。
 フィルに告白されてから、よくわからないことが多い。
 キスをして最初に思ったのは「こんなもんか」という感想だった。想像以上に不快ではない。

「……っ、んは、バートさん……!」

 少々雑に口内に舌を入れると、泣きそうな声で名前を呼ばれて、ぞくりとした。
嗜虐心を絶妙に煽られて、キスの合間に舌を噛むとフィルの背中がのけ反って、それでまた俺は煽られた。

「ん、っ、バートさ……やめ……!っ……」

 泣きそうな声が涙声になって、やっと俺は冷静さを取り戻した。
 さすがにこれでは弱いものいじめになっていると思い顔を離すと、フィルは半泣きどころかほぼ泣いていた。

「ぐっ……、ひどいっ……です……」
「あー……」

 どっちが告白したのかわからない構図に俺も混乱していた。好きでも嫌いでもない相手にこんなキスをするような男だったのかと自分でも驚いていた。

「……嫌ならもっと抵抗しろよ」
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