イタリアマフィアは殺しはできても恋愛不器用

タタミ

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 麺とスープを早々に飲み込んだウォルトは、初めてカマキリを見た小学生みたいなテンションで俺を見た。いや、初めてラブレターを見た男子のテンションかもしれない。なんにせよ、ウォルトも俺と同レベルで真面目な恋愛に関しては素人もいいところだった。

「なんも言ってねえ。答える前に逃げられた」
「えっー!フィルってマジで意気地無しっすね!告白までしたくせに」
「まぁ、答える言葉もねーけどな」

 俺は今までフィルのことを『好きか嫌いか』で考えたことがない。どこか哀れで、邪魔しないなら殺さないでいいかくらいの存在だった。

「それは答えてやったほうがいいんじゃないですか?」
「なんで」
「例えばオレがバートさんに『ブロンドの女と黒髪の女どっちが好きか』聞いて、無視されたら寂しいし」
「あー……?とりあえずその答えは『気の強い方が好き』だな」

 おそらくそういう類いの話ではないと思うが、俺は後輩の問いに答えた。

「強い女好きっすよね~。あ、フィルと付き合うことになってもオレと会う時間は減らさないでくださいね」
「くだらねえこと心配すんな。ほら行くぞ」

 ウォルトの無邪気な視線を感じながら、俺は車のドアを開けた。

◆◇
 仕事を終えてドンの屋敷に戻り、血に汚れたまま腹減ったななどとウォルトに話しかけたとき、ウォルトが「あれ!」と大きい声を上げた。
 ウォルトの指した方向の廊下には何かがうずくまっているようだ。

「フィルじゃないですか?」
「マジかよ」

 目を細めると、確かに廊下にうずくまった影がフィルに見えた。その周辺に広がる赤い染みは廊下の模様ではないようで、それに気付いたウォルトが駆け出した。

「フィル!」

 ウォルトが駆け寄り身体を起こすと、わずかに睫毛が震えて、フィルはかすれた息を吐いた。

「うぉると……さん」
「大丈夫かよ!今手当てしてやるから」

 近寄ってみれば、フィルは死んでいてもおかしくないくらいに出血していた。ウォルトがいるから大丈夫──ウォルトは今では人殺しを生業にしているが、外科医を目指した過去を持つ異端児だ──だろうが、帰ってくるのが少し遅かったら死んでいただろう。

「おい、どういうことだ」

 見下ろして問うと、フィルはウォルトの肩越しにキョトンと俺の顔を見上げるだけで黙っている。

「シカトしてんじゃねえぞ」
「あ、今叩いたら死んじゃいますよ」

 手際よく手当てをするウォルトにそう言われて殴ろうと上げた手を仕方なく下げると、フィルは「へへへ」と腑抜けた笑顔を俺に向けた。

「バートさん……の、幻覚が……」
「幻覚じゃねえって」
「あれ、気絶しやがった」

 ウォルトの腕に支えられながらガクリと首を傾けたフィルは、死んだのかと思わせるほど穏やかに笑っていて、俺は複雑な気持ちをため息と一緒に吐いた。
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