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「あのさ明樹。優成にどこまでされてる?」
リビングで優成が明樹を押し倒しキスしているのをばっちり見た仁は、優成に鉄拳を加えてから明樹だけを自室に連れ込んでいた。
「どこまでって……舌突っ込んだかとかそういう?」
ベッドに腰かけた明樹が訝しげにいやらしいことを言ってきて、仁の喉がつまる。
「っ、ちょっと違う。キス以上の関係を迫られたかってこと」
仁は言いながら、親友の生々しい話を知るのは思ったよりダメージがあるなと心臓を押さえる。
「やだな、キス以上なんて全然ないない。キスだってフツーのだし」
「ホントに?でも、キス自体は迫られてんだよね」
「あー、さっきのは俺からしようって言った」
「え、明樹から言ったの!?」
一瞬、こいつら付き合うことになったのかと淡い期待が仁の頭を過ったが、そしたらさっき優成に殴りかかったときに言われるはずだ。
「……優成と付き合ってる、とか?」
それでも期待を捨てきれなくて、仁は明樹に耳打ちした。
「なに言ってんだよ。違うよ」
おかしそうに笑う明樹を見て、わかっていたことだが仁は一旦項垂れた。それから、優成が明樹に迫ったという前提が崩れたことで、先程の優成への鉄拳が制裁ではなくただの暴力になってしまうことに気付き、後で謝らなければとこめかみをかいた。
「じゃなんで、優成とキスしてんの?」
「それは、したいから」
「いや、なんでしたいと思うの?」
明樹はきょとんと仁を見上げた。
そこまで深く考えたことなかった、という顔に仁はため息が出そうになる。明樹と優成がお互いに想い合っているのは周知の事実だ。正直、同じグループで長年仲良くやってきたメンバーからすれば、見ているだけで嫌でもわかるレベルだ。
なのにどうして、当事者ふたりが片想い状態にもなれないのか。
「普通、付き合ってもないのにキスしないでしょ」
「それは……まぁ」
好きなんだって、と言ってしまえば楽だが、そう教えてなお好意を自覚できない前例──もちろん優成のことだが──を知っている仁としては、明樹には自分の力で自分の気持ちに気付いてもらいたかった。
「なんで……だろ」
背中を丸めて考え出す明樹の隣に仁は静かに腰かけた。急かしても焦らせるだけなのは長年の付き合いでわかっている。
「……なんでっていう答えになってるかわかんないけど……俺、愛されたくて。というか、愛されてるって思いたい、みたいな願望があって。優成はそれを叶えてくれるっていうか……」
明樹の言葉に仁は一度開いた口を閉じた。
返すべき言葉を探したが、結局いつも通りの返答しか思い付けなかった。
「……明樹はみんなに愛されてるよ」
仁がそう言っても、明樹の心に響かないのもわかっていた。この美男は、ファンから惜しみ無い歓声を浴びせられメンバー全員から愛を注がれても、常に『愛されなくなること』への不安にかられている。ある意味職業病ではある。
愛されているという実感を直に得られて、不安を解消できる手段が優成とのキス、ということなのだろう。
『惚れているから』というとてもわかりやすいはずの気付きをすっ飛ばして、共依存のような関係に行き着くふたりに、仁は今度こそため息が出た。
「あ~でも、そうは言っても、キスとかあんましない方がいいか。しない方がいいよな、ごめん」
仁のため息を己への呆れだと思ったのか、明樹は唇を噛んで仁の顔色を伺う素振りを見せた。仁はそれを見て、こんなに魅惑的な造形で産まれても、人は満たされないものなのかと少し哲学的な気分になる。
「じゃあさ……愛されてると感じるためなら他の誰か──例えば、俺とのキスでもいいってこと?」
「え、仁と?」
「うん。それか他のメンバーとか、友達とかさ」
仁が続けると、明樹は黙り込んだ。
「……んー……他の人とはしようと思わない、かな」
「優成には思うのに?」
詰めるように顔を覗き込むと、明樹の目がわかりやすく泳いだ。
「俺や友達としたいと思わないのに、優成とキスしたいと思うのはなんで」
明樹の回答を待たずに仁が畳み掛けると、明樹は「えっいや、うーん」と仁を見たり壁を見たりして落ち着きを失う。気付きを促す、ということを意識するあまり、明樹の肩を掴む仁には隠せない圧があった。
「優成は特別ってこと?」
「え、ちょっと待って。えーっと……」
仁の詰めに気圧されながら、明樹は一生懸命な様子で腕を組んだ。明樹の頑張る姿は健気だが、ベッドサイドの時計を見れば仕事に向かうべき時間が迫っている。
仁はスプリングが軋む勢いでベッドから立ち上がり、明樹の前で手を叩いた。
「はい!ってことで今の質問の答えを考えるのが宿題な!解散!」
「ぇえっ?急になに。待ってよ、今考えてるから……!」
「待ちません!もう現場行く時間だから、明樹も準備!」
明樹が唇をムッとさせて上目で見てきたが、仁は「可愛い顔しても俺には効かんぞ」と追いやるようにベッドから立たせた。
リビングで優成が明樹を押し倒しキスしているのをばっちり見た仁は、優成に鉄拳を加えてから明樹だけを自室に連れ込んでいた。
「どこまでって……舌突っ込んだかとかそういう?」
ベッドに腰かけた明樹が訝しげにいやらしいことを言ってきて、仁の喉がつまる。
「っ、ちょっと違う。キス以上の関係を迫られたかってこと」
仁は言いながら、親友の生々しい話を知るのは思ったよりダメージがあるなと心臓を押さえる。
「やだな、キス以上なんて全然ないない。キスだってフツーのだし」
「ホントに?でも、キス自体は迫られてんだよね」
「あー、さっきのは俺からしようって言った」
「え、明樹から言ったの!?」
一瞬、こいつら付き合うことになったのかと淡い期待が仁の頭を過ったが、そしたらさっき優成に殴りかかったときに言われるはずだ。
「……優成と付き合ってる、とか?」
それでも期待を捨てきれなくて、仁は明樹に耳打ちした。
「なに言ってんだよ。違うよ」
おかしそうに笑う明樹を見て、わかっていたことだが仁は一旦項垂れた。それから、優成が明樹に迫ったという前提が崩れたことで、先程の優成への鉄拳が制裁ではなくただの暴力になってしまうことに気付き、後で謝らなければとこめかみをかいた。
「じゃなんで、優成とキスしてんの?」
「それは、したいから」
「いや、なんでしたいと思うの?」
明樹はきょとんと仁を見上げた。
そこまで深く考えたことなかった、という顔に仁はため息が出そうになる。明樹と優成がお互いに想い合っているのは周知の事実だ。正直、同じグループで長年仲良くやってきたメンバーからすれば、見ているだけで嫌でもわかるレベルだ。
なのにどうして、当事者ふたりが片想い状態にもなれないのか。
「普通、付き合ってもないのにキスしないでしょ」
「それは……まぁ」
好きなんだって、と言ってしまえば楽だが、そう教えてなお好意を自覚できない前例──もちろん優成のことだが──を知っている仁としては、明樹には自分の力で自分の気持ちに気付いてもらいたかった。
「なんで……だろ」
背中を丸めて考え出す明樹の隣に仁は静かに腰かけた。急かしても焦らせるだけなのは長年の付き合いでわかっている。
「……なんでっていう答えになってるかわかんないけど……俺、愛されたくて。というか、愛されてるって思いたい、みたいな願望があって。優成はそれを叶えてくれるっていうか……」
明樹の言葉に仁は一度開いた口を閉じた。
返すべき言葉を探したが、結局いつも通りの返答しか思い付けなかった。
「……明樹はみんなに愛されてるよ」
仁がそう言っても、明樹の心に響かないのもわかっていた。この美男は、ファンから惜しみ無い歓声を浴びせられメンバー全員から愛を注がれても、常に『愛されなくなること』への不安にかられている。ある意味職業病ではある。
愛されているという実感を直に得られて、不安を解消できる手段が優成とのキス、ということなのだろう。
『惚れているから』というとてもわかりやすいはずの気付きをすっ飛ばして、共依存のような関係に行き着くふたりに、仁は今度こそため息が出た。
「あ~でも、そうは言っても、キスとかあんましない方がいいか。しない方がいいよな、ごめん」
仁のため息を己への呆れだと思ったのか、明樹は唇を噛んで仁の顔色を伺う素振りを見せた。仁はそれを見て、こんなに魅惑的な造形で産まれても、人は満たされないものなのかと少し哲学的な気分になる。
「じゃあさ……愛されてると感じるためなら他の誰か──例えば、俺とのキスでもいいってこと?」
「え、仁と?」
「うん。それか他のメンバーとか、友達とかさ」
仁が続けると、明樹は黙り込んだ。
「……んー……他の人とはしようと思わない、かな」
「優成には思うのに?」
詰めるように顔を覗き込むと、明樹の目がわかりやすく泳いだ。
「俺や友達としたいと思わないのに、優成とキスしたいと思うのはなんで」
明樹の回答を待たずに仁が畳み掛けると、明樹は「えっいや、うーん」と仁を見たり壁を見たりして落ち着きを失う。気付きを促す、ということを意識するあまり、明樹の肩を掴む仁には隠せない圧があった。
「優成は特別ってこと?」
「え、ちょっと待って。えーっと……」
仁の詰めに気圧されながら、明樹は一生懸命な様子で腕を組んだ。明樹の頑張る姿は健気だが、ベッドサイドの時計を見れば仕事に向かうべき時間が迫っている。
仁はスプリングが軋む勢いでベッドから立ち上がり、明樹の前で手を叩いた。
「はい!ってことで今の質問の答えを考えるのが宿題な!解散!」
「ぇえっ?急になに。待ってよ、今考えてるから……!」
「待ちません!もう現場行く時間だから、明樹も準備!」
明樹が唇をムッとさせて上目で見てきたが、仁は「可愛い顔しても俺には効かんぞ」と追いやるようにベッドから立たせた。
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