性奴隷を拒否したらバーの社畜になった話

タタミ

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 イズキの宣言通り、1時間後にきっちり店は閉店した。俺に対して高圧的な客たちもイズキには基本逆らわず、帰れという圧に従って大人しく退店していった。
 客がいなくなるとイズキは「届いた荷物を持ってこい」と言い、俺は再び白くて大きな箱と対峙していた。メッセージカードに書かれていたことが本当なら、この中に人材が入っているはずだが、生きた人間を運ぶ手段として箱詰めは意味がわからない。第一箱詰めにされたらもっと暴れるなり騒ぐなり何なりして、外に出してくれとアピールするもんじゃないのか。微動だにせず沈黙を続ける箱を前に、死体でも入っているのではと嫌な気持ちになりながら俺は箱を押した。

「っ……重すぎ……!」

 相変わらず重い箱は、確かに成人男性が入っていると言われれば納得の重さだ。全力で押してやっとドアのところに到達した時、急に箱が進んだ。

「あ!?」

 全体重をかけていた俺は、勢い余って床に倒れ込む。肘と膝を打ち付けて痛みに悶えていると、中まで進んだ箱が横倒しになったところにイズキが立っていた。

「お前、非力すぎだろ。こんなのも運べねえのか」
「す、すいません……」

 イズキが箱を引っ張っただけでこんなにあっさり事が済むなら、最初から手伝ってくれよという気持ちを飲み込んで起き上がる。

「ドア閉めろ」

 そう言ってイズキは、箱のふちにナイフを突き刺した。中に入っているであろう人間に刺さってもいいという勢いだ。
 ドアを閉めて箱に近づき恐る恐る覗き込むと、イズキが切れ目を入れた箱の側面を一気に引きはがした。そこには棺桶に入れられた死体のようなポーズをした、ひとりの男が横たわっていた。

(うわぁ、マジで人入ってる……生きてんのか……?)

 肌も髪も真っ白の裸体だ。口には猿ぐつわ、手首には縄が巻かれている。
 月見のペットは檻暮らしだと聞いていたから痩せた奴隷のようなのが来るかと思っていたが、俺よりずっと筋肉質だった。日々鍛えなければ達成しえない肉体だ。そしてどういう扱いを受けてきたのか示すように、身体中に傷跡があった。

「起き上がらせて拘束を解け」
「あの、危なくないですか?襲ってきたりとか……」
「危ないのはお前だけだ。さっさとやれ」

 イズキは平気でも俺は殺されるかもしれないし、俺が襲われて死んでもどうでもいいというのが滲み出た声音だった。
 心の中だけで嘆いて、俺は上体を起こそうと男の肩に手をかける。すると閉じられていた目が開き、赤い目が俺を見た。思わず手を離してしまうと、男は自らゆっくりと起き上がった。俺から目をそらしたがイズキに顔を向けるでもなく、ぼうっと虚空を見ているだけだ。大人しくしているうちに猿ぐつわと手の拘束を解き、距離をとって様子を窺うが男は微動だにしない。

「薬が盛られてる。抜かねえとダメだ。地下で処置するから運べ」

 イズキは箱の中に同封されていたらしい書類を見ながら俺に言った。いつ大暴れし始めるかもわからない裸の男を運ぶのはかなり嫌だったが、俺に選択肢はない。

「えっと……立てます?」

 とりあえず男に話しかけてみたが、無反応だった。仕方なく腕を持ち上げて肩にかけ、上に引き上げてみる。意外とあっさり立ち上がった男は、立ち上がってみれば俺よりも全然背が高かった。進みたい方向に体重をかけると、抵抗はない。言葉に反応はないが誘導すれば従ってくれるようだ。
 ひとまず巨体を無理やり運ぶ羽目にならずに安心しながらゆっくりと歩き出したところで、イズキが「おい」と言って俺の脚元に金属を投げた。

「いざとなったら首を刺せ」

 俺にナイフを投げ渡して、イズキは俺と男を置いてさっさと地下に降りていった。
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