性奴隷を拒否したらバーの社畜になった話

タタミ

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 ハナビのフリックスピードを追いかけて、やっと追いついたところで指が止まった。

「と、もうお開きか。早いな」

 ハナビの言葉にイズキと月見の卓を見やると、ふたりとも立ち上がっている。帰るようだ。
 月見が恐れるに値する人物というのは本当らしく、あのイズキが出口までエスコートして、当然のように受け入れた月見は会釈もなしに去って行った。

「人材提供の話しかしていませんが」
「その話をするのが目的だったんだろ。会話の冒頭、近くまで来たので寄りました、なんて言ってたがどう見てもウソだ」
「店はもう開きだ。お前らも帰れ」

 三ツ木さんとハナビが顔を寄せて話していると、月見を見送ったイズキがこちらに歩きながら口を挟んだ。仕事は終わったとばかりにネクタイを緩める姿を見て、店内を見渡すと他に客はいなかった。月見の来店で皆帰ってしまったのかもしれない。

「イズキ、本気で月見の人材提供受ける気?あれ絶対、月見が飽きた“ペット”を寄越してくる。ごみ捨て先にされた上に恩の押し売りだよ」
「勝手に話聞いてんじゃねえよ。タダで貰えていらなきゃ殺せばいいって条件なら、ペット崩れでも価値はある。それに月見は自身に歯向かうやつが大嫌いだ。提案を拒否すれば関係性がこじれて面倒くさい。下手すりゃ殺し合いだ」
「それはわかるけどさ。ペットはオススメできないよ、ホントに」
「そこの業者がまともな仕事をしてくれれば済む話だった。文句はそっちに言え」

 イズキが顎で三ツ木さんを指し、三ツ木さんは『困った』という取り繕いの表情をして冊子を取り出す。

「イズキ様の条件を完全に満たす人材を用意できず、心よりお詫び申し上げます。こちら、現在手配可能な商品一覧です。ご希望の7割程度は満たしているかと思いますのでぜひご一読ください」

 イズキは受け取る素振りも見せず返事もなしに腕を組んでいる。2秒ほど見つめ合ってから、差し出していた冊子をカウンターに置いて「どうぞご贔屓に」と三ツ木さんは言った。

「あの“ペット”っていうのは何なんですか」

 ピリついた空気を反射的に変えようとした俺は、誰かが答えてくれるだろうという問いかけをした。

「月見様が囲っている男たちの蔑称です。大きな檻に裸で入れ、人間性を削ぐのがお好きなようですよ。鎖につながれた従順な男たちは外野から“ペット”と呼ばれている、というわけですね」
「私には全然理解できない趣味だよ。今日の様子を見るに、イズキが月見に狙われていたらどうしようかと心配で仕方がない」
「くだらない心配をするな。俺に手を出そうとする特異な女なんてお前だけだ」
「キミはもっと自分の魅力を自覚すべきだ。本当に心配。心から愛しているから言ってるんだよ」
「流れで口説こうとしてんじゃねえ」

 しっしっと追い払うように手を振ったイズキは、三ツ木さんを顎でしゃくった。

「月見のペットはお前が仲介か」
「いえ、残念ながら私は月見様から依頼を受けたことはありません。私以上に人身売買を扱っている業者は日本にいないはずですから、海外か裏ルートで個人的に輸入しているのではないかと」

 この発言を誰も否定しなかったので三ツ木さんは自他共に認める日本一の人身売買屋だということになり、俺はまたなんて人間に金を借りてしまったんだと後悔した。人身売買でシェア日本一なのに闇金と風俗経営ではした金を積み上げる三ツ木さんは、本当に金の亡者なのだろう。しかし人身売買という高収入な本業のおかげで俺の返済に対してゆったりと構えているんだとすれば、俺はこの本業に多少なりとも救われてしまっているわけだ。

「月見はお気に入りなら手元に置き続ける。他人にあげるなら使い物にならなくなったヤバいやつだよ。薬中かキチガイか」
「なら殺すだけだ」

 あっさりと肩をすくめて、イズキはハナビと三ツ木さんに「いい加減帰れ」と言いながらタバコを咥えた。ハナビは諦めずにイズキに何やら耳打ちをし始めたが、三ツ木さんは現金をテーブルに置いて踵を返す。

「では、私はそろそろ。イズキ様、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、気に入った人材がおりましたらご連絡ください。月見様のペットよりは使えることを保証いたします」

 三ツ木さんは受け取られなかった冊子を指で示してから、無表情のイズキに笑顔を向けて店を出て行った。
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