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「この前気に入ってくれたBURBERRYとPRADAを多めにしておいたよ」
「ああ」
イズキは総額ウン十万円になるであろう贈り物をしまむらの服かのように雑に見て、ドルガバの袋を指差した。
「これは好みじゃない」
「え~!こういうのも似合うよ。1回くらい着てみたらどうだい」
「着ない」
塩対応のキャバ嬢が客からぬいぐるみをもらってもここまで切り捨てないだろうと思って、俺の方が見ていてハラハラした。
せっかくプレゼントした高額商品がこんな言われ方をしては、ハナビも怒るのではと横を見るとハナビは肩をすくめるだけだった。
「はぁ、わかった。次はドルガバなしにする。でも気に入らなくても捨てずに、ちゃんとジウちゃんにあげてよね」
「須原。店閉めた後、これ全部地下に持って帰れ」
「は、はい!」
イズキはハイブラの袋を適当に開いて、ブランド関係なしに出した服をつっこんでいく。
「あの、イズキさんは、ブランドが好きなんですか」
一応イズキに聞いてみたつもりだったが、イズキは俺に目もくれず服をしまった袋を雑にカウンター下に投げ入れている。
「全然。イズキは服に興味がなさ過ぎて、私が贈ったものしか着ないんだ」
答えないイズキに代わって、ハナビがどこか誇らしげに言った。
イズキがBURBERRYのハンカチをただ道でぶつかっただけの見知らぬ俺に、雑に手渡した理由が判明した。
全部ハナビからの貢ぎ物で、イズキにとってはBURBERRYも100均の布巾も大差ないのだ。
(なんでこんな貢ぎがいのない男に、ハンサムな男が貢いでるんだ……)
このふたりの関係性はよくわからないが、深く知ると気苦労が増えそうなので聞かないことにした。
「じゃ、もう行くよ。次来たら裏社会レッスンするから、それまで死なないでね!須原くん」
ハナビは爽やかな笑顔で縁起でもないことを言って店を出て行った。
ハナビがいなくなると、店内には誰もいない──正確にはVIPルームにキョウコたちはいるが──ので、イズキとふたりきりになる。怒られる前に仕事をしようと、何かすることはあるかと聞こうと思ったら、電子音が鳴った。
「……はい。イズキです」
イズキに電話がかかってきたらしく、何やらスマホを相手に喋り始めた。
俺は指示待ちをやめて、自主的にハナビが飲んだグラスを片付けようとした。その時、ふとカウンターの下、奥のスツールのところに靴が転がっているのが見えた。
「え?」
確かめようと屈むと、下に押し込まれるようにして血まみれの男が死んでいた。
「!?マジ、ウソ!?」
「うるせえ。デカい声出すな」
「っでも、あの!しっ……っ死んでますよ!?」
「さっきハナビが殺した。雑魚の迷惑客だ。片付けておけ」
電話を終えたイズキが、グラスの片付けを指示するかのように俺に死体処理を命じた。
しかも死体のことも俺のことも見もせずに、何やらスマホを操作したままだ。
「ま、ま、待ってください!片付けろって、方法なんて知らないし……!」
「やり方を教えないとは言ってない。こっちに来い」
スマホを置いたイズキが顎をしゃくる。
俺は動揺したままカウンターの中に行くと、イズキはカウンターの奥、一番端に面した壁を指差した。その壁の下部には小さい扉があった。ペット用のドアのような、そんな扉だ。
「あれはこちら側から押すと開く。あそこに死体を頭から入れて下に落とせ」
「えっ落とすだけ、ですか……?」
てっきり埋めに行ったり細かく切断したり燃やしたりするのだと思っていた俺は、思わずイズキの顔を見た。
「死体の処理は落として終わりだ。こんなに簡単な処理は他にはない、感謝しろ。あとは血と汚れがなくなるまで掃除だ。エルムンドで人が死んだら、処理より掃除の方が大変だと覚えておけ」
そんなこと覚えておきたくはない。
まさか本当に人が死ぬとは。というか、死体処理の仕事がこんなにあっさり発生するとは。
色んな意味でショックで、でも俺に拒否権はなくやるしかないので一度深呼吸をした。
覚悟を決めて死体の元へ戻る。首をナイフか何かで刺されたのか出血がすごいが、分厚い赤い絨毯に血が吸われているらしく血だまりはなかった。
「あの、絨毯に血が染みてるんですけど、これは……」
「綺麗になるまで掃除に決まってるだろ」
無理じゃない?
血というのはなかなか落ちないし、時間が経って固まったらいよいよこびりついて取れない。人間が死ぬほどの出血量を吸い込んだ絨毯を、全部綺麗にするなんてどう考えても無理だ。
といっても、俺はそういうことをイズキに主張できる立場ではない。血が落ちなかったという結果を受けたイズキが俺にどんな罰を与えてくるのか、そんなことに思考を奪われながら死体の肩を掴む。
「うっ……!」
「ああ」
イズキは総額ウン十万円になるであろう贈り物をしまむらの服かのように雑に見て、ドルガバの袋を指差した。
「これは好みじゃない」
「え~!こういうのも似合うよ。1回くらい着てみたらどうだい」
「着ない」
塩対応のキャバ嬢が客からぬいぐるみをもらってもここまで切り捨てないだろうと思って、俺の方が見ていてハラハラした。
せっかくプレゼントした高額商品がこんな言われ方をしては、ハナビも怒るのではと横を見るとハナビは肩をすくめるだけだった。
「はぁ、わかった。次はドルガバなしにする。でも気に入らなくても捨てずに、ちゃんとジウちゃんにあげてよね」
「須原。店閉めた後、これ全部地下に持って帰れ」
「は、はい!」
イズキはハイブラの袋を適当に開いて、ブランド関係なしに出した服をつっこんでいく。
「あの、イズキさんは、ブランドが好きなんですか」
一応イズキに聞いてみたつもりだったが、イズキは俺に目もくれず服をしまった袋を雑にカウンター下に投げ入れている。
「全然。イズキは服に興味がなさ過ぎて、私が贈ったものしか着ないんだ」
答えないイズキに代わって、ハナビがどこか誇らしげに言った。
イズキがBURBERRYのハンカチをただ道でぶつかっただけの見知らぬ俺に、雑に手渡した理由が判明した。
全部ハナビからの貢ぎ物で、イズキにとってはBURBERRYも100均の布巾も大差ないのだ。
(なんでこんな貢ぎがいのない男に、ハンサムな男が貢いでるんだ……)
このふたりの関係性はよくわからないが、深く知ると気苦労が増えそうなので聞かないことにした。
「じゃ、もう行くよ。次来たら裏社会レッスンするから、それまで死なないでね!須原くん」
ハナビは爽やかな笑顔で縁起でもないことを言って店を出て行った。
ハナビがいなくなると、店内には誰もいない──正確にはVIPルームにキョウコたちはいるが──ので、イズキとふたりきりになる。怒られる前に仕事をしようと、何かすることはあるかと聞こうと思ったら、電子音が鳴った。
「……はい。イズキです」
イズキに電話がかかってきたらしく、何やらスマホを相手に喋り始めた。
俺は指示待ちをやめて、自主的にハナビが飲んだグラスを片付けようとした。その時、ふとカウンターの下、奥のスツールのところに靴が転がっているのが見えた。
「え?」
確かめようと屈むと、下に押し込まれるようにして血まみれの男が死んでいた。
「!?マジ、ウソ!?」
「うるせえ。デカい声出すな」
「っでも、あの!しっ……っ死んでますよ!?」
「さっきハナビが殺した。雑魚の迷惑客だ。片付けておけ」
電話を終えたイズキが、グラスの片付けを指示するかのように俺に死体処理を命じた。
しかも死体のことも俺のことも見もせずに、何やらスマホを操作したままだ。
「ま、ま、待ってください!片付けろって、方法なんて知らないし……!」
「やり方を教えないとは言ってない。こっちに来い」
スマホを置いたイズキが顎をしゃくる。
俺は動揺したままカウンターの中に行くと、イズキはカウンターの奥、一番端に面した壁を指差した。その壁の下部には小さい扉があった。ペット用のドアのような、そんな扉だ。
「あれはこちら側から押すと開く。あそこに死体を頭から入れて下に落とせ」
「えっ落とすだけ、ですか……?」
てっきり埋めに行ったり細かく切断したり燃やしたりするのだと思っていた俺は、思わずイズキの顔を見た。
「死体の処理は落として終わりだ。こんなに簡単な処理は他にはない、感謝しろ。あとは血と汚れがなくなるまで掃除だ。エルムンドで人が死んだら、処理より掃除の方が大変だと覚えておけ」
そんなこと覚えておきたくはない。
まさか本当に人が死ぬとは。というか、死体処理の仕事がこんなにあっさり発生するとは。
色んな意味でショックで、でも俺に拒否権はなくやるしかないので一度深呼吸をした。
覚悟を決めて死体の元へ戻る。首をナイフか何かで刺されたのか出血がすごいが、分厚い赤い絨毯に血が吸われているらしく血だまりはなかった。
「あの、絨毯に血が染みてるんですけど、これは……」
「綺麗になるまで掃除に決まってるだろ」
無理じゃない?
血というのはなかなか落ちないし、時間が経って固まったらいよいよこびりついて取れない。人間が死ぬほどの出血量を吸い込んだ絨毯を、全部綺麗にするなんてどう考えても無理だ。
といっても、俺はそういうことをイズキに主張できる立場ではない。血が落ちなかったという結果を受けたイズキが俺にどんな罰を与えてくるのか、そんなことに思考を奪われながら死体の肩を掴む。
「うっ……!」
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