性奴隷を拒否したらバーの社畜になった話

タタミ

文字の大きさ
上 下
18 / 46

17

しおりを挟む
 キョウコって女じゃないのかよ。
 
 その感想をちゃんと思いつく前に、ジウが駆け寄ってきて俺の腕を引っ張った。

「キョウコさん!久しぶり~!」
「ジウ!!元気にしてたか?」

 俺ごと走り寄ったジウを、キョウコが抱きしめる。
 俺は邪魔にならないよう、ジウに腕を掴まれたまま極力遠くに立っていた。

「イズキに酷いことされてねえか」
「うーん……。実はちょっとだけ。でも全然大丈夫」
「隠すなよ。なにされたんだ」
「……さっきキョウコさんに買ってもらったスマホ壊されちゃった」
「なんだと?」

 ジウがわざとらしく眉を下げて伝えると、キョウコはわかりやすく口元を歪めた。

「イズキ、か弱いジウをイジメてんじゃねえぞ。男の片隅にも置けねえな」

 キョウコはジウの肩を抱くと、カウンターで腕を組んでいるイズキに近づいていく。
 ジウが腕を放してくれないので俺は引き摺られるように着いていくしかなかった。

「俺はガキを教育してるだけだ。危ないやつの見分けもつかねえんだから手がかかる」

 イズキはキョウコを見もせずに、背を向けて酒瓶を並べ替え始めた。

「ジウはもう18だ。ガキじゃねえし、俺は危ないやつでもねえ」
「そうだそうだ、俺は立派な大人だ」
「立派な大人はそんな言い返しはしない。キョウコ、お前は無駄口聞いてるだけなら店から出ていけ」
「気が短えな。一番高い酒注文してやるから寄越せ。ジウ、こんなバカ保護者ほっといてさっさとVIP行こうぜ」

 ジウって18歳なんだ、若。
 18歳でこんな裏社会に馴染んでいるなんて、俺よりまともな境遇じゃないんだろうな。
 感情合ってるかわからないけど、仲間を見つけたみたいでちょっと嬉しい。

 俺以外で会話が続いていくのに安心し始めて物思いに耽っていたら、グイっと腕を引かれた。

「キョウコさん、今日幸太も一緒でいい?」
「えっ。待って、一緒って──」
「なんだコイツ」

 突然話のメインに持っていかれキョドっていると、キョウコが至近距離でガンを付けてきて、俺は急いで愛想笑いをした。

「す、須原幸太と、申します」

 俺の名前に興味はないらしく、キョウコはすんすんと俺を嗅ぐ。

「くせぇな」
「す、すみません……!シャワーは浴びたんですけどっ」
「さっきまで幸太はノウリにボコられてたから、仕方ないよ」
「あのノウリに?」

 あの人、この界隈で有名なんだ。
 知らなくてよかったことを知ってしまい、思い出したかのようにノウリに付けられた傷が痛んだ。

「詳しくは知らないけど、欠損フェチ年増の性奴隷になれって言われて抵抗したから拷問されたんだって」
「なんでそんな奴が五体満足でここにいるんだ」
「殺されそうになった時に、たまたまイズキさんに買ってもらいまして……」
「へえ~」

 さっきまでゴミを見るようだったキョウコの目が、少し見開かれる。

「だからケガまみれで、こんな包帯巻いてんのか」

 そう言いながら、キョウコは俺の手を掴み、包帯の上から爪を押し込むように力を入れた。俺の爪は全部剥がされているので、当然激痛が走る。

「っ!?いッ!!」
「爪全部やられるみてえだな。可哀想に」
「今正気なのがすごいくらいには、全身やられてるよ」
「ノウリの拷問に耐えるなんて、冴えない見た目に反して面白え人生してそうだな。そうだろ?幸太」

 キョウコは昔から知っていたかのように俺の名前を呼んで、肩を組んでくる。
 なんだかわからないが、ジウの言っていた通り、キョウコに気に入られてしまったらしい。
 俺は堅気ではあったが普通の人生を歩んできたとは言えないので、痛みを我慢して無理やり笑って頷くとキョウコは呼応するようにニッコリと笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

『霧原村』~少女達の遊戯が幽から土地に纏わる怪異を起こす~転校生渉の怪異事変~

潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。 渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。 《主人公は和也(語り部)となります。ライトノベルズ風のホラー物語です》

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...