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キョウコって女じゃないのかよ。
その感想をちゃんと思いつく前に、ジウが駆け寄ってきて俺の腕を引っ張った。
「キョウコさん!久しぶり~!」
「ジウ!!元気にしてたか?」
俺ごと走り寄ったジウを、キョウコが抱きしめる。
俺は邪魔にならないよう、ジウに腕を掴まれたまま極力遠くに立っていた。
「イズキに酷いことされてねえか」
「うーん……。実はちょっとだけ。でも全然大丈夫」
「隠すなよ。なにされたんだ」
「……さっきキョウコさんに買ってもらったスマホ壊されちゃった」
「なんだと?」
ジウがわざとらしく眉を下げて伝えると、キョウコはわかりやすく口元を歪めた。
「イズキ、か弱いジウをイジメてんじゃねえぞ。男の片隅にも置けねえな」
キョウコはジウの肩を抱くと、カウンターで腕を組んでいるイズキに近づいていく。
ジウが腕を放してくれないので俺は引き摺られるように着いていくしかなかった。
「俺はガキを教育してるだけだ。危ないやつの見分けもつかねえんだから手がかかる」
イズキはキョウコを見もせずに、背を向けて酒瓶を並べ替え始めた。
「ジウはもう18だ。ガキじゃねえし、俺は危ないやつでもねえ」
「そうだそうだ、俺は立派な大人だ」
「立派な大人はそんな言い返しはしない。キョウコ、お前は無駄口聞いてるだけなら店から出ていけ」
「気が短えな。一番高い酒注文してやるから寄越せ。ジウ、こんなバカ保護者ほっといてさっさとVIP行こうぜ」
ジウって18歳なんだ、若。
18歳でこんな裏社会に馴染んでいるなんて、俺よりまともな境遇じゃないんだろうな。
感情合ってるかわからないけど、仲間を見つけたみたいでちょっと嬉しい。
俺以外で会話が続いていくのに安心し始めて物思いに耽っていたら、グイっと腕を引かれた。
「キョウコさん、今日幸太も一緒でいい?」
「えっ。待って、一緒って──」
「なんだコイツ」
突然話のメインに持っていかれキョドっていると、キョウコが至近距離でガンを付けてきて、俺は急いで愛想笑いをした。
「す、須原幸太と、申します」
俺の名前に興味はないらしく、キョウコはすんすんと俺を嗅ぐ。
「くせぇな」
「す、すみません……!シャワーは浴びたんですけどっ」
「さっきまで幸太はノウリにボコられてたから、仕方ないよ」
「あのノウリに?」
あの人、この界隈で有名なんだ。
知らなくてよかったことを知ってしまい、思い出したかのようにノウリに付けられた傷が痛んだ。
「詳しくは知らないけど、欠損フェチ年増の性奴隷になれって言われて抵抗したから拷問されたんだって」
「なんでそんな奴が五体満足でここにいるんだ」
「殺されそうになった時に、たまたまイズキさんに買ってもらいまして……」
「へえ~」
さっきまでゴミを見るようだったキョウコの目が、少し見開かれる。
「だからケガまみれで、こんな包帯巻いてんのか」
そう言いながら、キョウコは俺の手を掴み、包帯の上から爪を押し込むように力を入れた。俺の爪は全部剥がされているので、当然激痛が走る。
「っ!?いッ!!」
「爪全部やられるみてえだな。可哀想に」
「今正気なのがすごいくらいには、全身やられてるよ」
「ノウリの拷問に耐えるなんて、冴えない見た目に反して面白え人生してそうだな。そうだろ?幸太」
キョウコは昔から知っていたかのように俺の名前を呼んで、肩を組んでくる。
なんだかわからないが、ジウの言っていた通り、キョウコに気に入られてしまったらしい。
俺は堅気ではあったが普通の人生を歩んできたとは言えないので、痛みを我慢して無理やり笑って頷くとキョウコは呼応するようにニッコリと笑った。
その感想をちゃんと思いつく前に、ジウが駆け寄ってきて俺の腕を引っ張った。
「キョウコさん!久しぶり~!」
「ジウ!!元気にしてたか?」
俺ごと走り寄ったジウを、キョウコが抱きしめる。
俺は邪魔にならないよう、ジウに腕を掴まれたまま極力遠くに立っていた。
「イズキに酷いことされてねえか」
「うーん……。実はちょっとだけ。でも全然大丈夫」
「隠すなよ。なにされたんだ」
「……さっきキョウコさんに買ってもらったスマホ壊されちゃった」
「なんだと?」
ジウがわざとらしく眉を下げて伝えると、キョウコはわかりやすく口元を歪めた。
「イズキ、か弱いジウをイジメてんじゃねえぞ。男の片隅にも置けねえな」
キョウコはジウの肩を抱くと、カウンターで腕を組んでいるイズキに近づいていく。
ジウが腕を放してくれないので俺は引き摺られるように着いていくしかなかった。
「俺はガキを教育してるだけだ。危ないやつの見分けもつかねえんだから手がかかる」
イズキはキョウコを見もせずに、背を向けて酒瓶を並べ替え始めた。
「ジウはもう18だ。ガキじゃねえし、俺は危ないやつでもねえ」
「そうだそうだ、俺は立派な大人だ」
「立派な大人はそんな言い返しはしない。キョウコ、お前は無駄口聞いてるだけなら店から出ていけ」
「気が短えな。一番高い酒注文してやるから寄越せ。ジウ、こんなバカ保護者ほっといてさっさとVIP行こうぜ」
ジウって18歳なんだ、若。
18歳でこんな裏社会に馴染んでいるなんて、俺よりまともな境遇じゃないんだろうな。
感情合ってるかわからないけど、仲間を見つけたみたいでちょっと嬉しい。
俺以外で会話が続いていくのに安心し始めて物思いに耽っていたら、グイっと腕を引かれた。
「キョウコさん、今日幸太も一緒でいい?」
「えっ。待って、一緒って──」
「なんだコイツ」
突然話のメインに持っていかれキョドっていると、キョウコが至近距離でガンを付けてきて、俺は急いで愛想笑いをした。
「す、須原幸太と、申します」
俺の名前に興味はないらしく、キョウコはすんすんと俺を嗅ぐ。
「くせぇな」
「す、すみません……!シャワーは浴びたんですけどっ」
「さっきまで幸太はノウリにボコられてたから、仕方ないよ」
「あのノウリに?」
あの人、この界隈で有名なんだ。
知らなくてよかったことを知ってしまい、思い出したかのようにノウリに付けられた傷が痛んだ。
「詳しくは知らないけど、欠損フェチ年増の性奴隷になれって言われて抵抗したから拷問されたんだって」
「なんでそんな奴が五体満足でここにいるんだ」
「殺されそうになった時に、たまたまイズキさんに買ってもらいまして……」
「へえ~」
さっきまでゴミを見るようだったキョウコの目が、少し見開かれる。
「だからケガまみれで、こんな包帯巻いてんのか」
そう言いながら、キョウコは俺の手を掴み、包帯の上から爪を押し込むように力を入れた。俺の爪は全部剥がされているので、当然激痛が走る。
「っ!?いッ!!」
「爪全部やられるみてえだな。可哀想に」
「今正気なのがすごいくらいには、全身やられてるよ」
「ノウリの拷問に耐えるなんて、冴えない見た目に反して面白え人生してそうだな。そうだろ?幸太」
キョウコは昔から知っていたかのように俺の名前を呼んで、肩を組んでくる。
なんだかわからないが、ジウの言っていた通り、キョウコに気に入られてしまったらしい。
俺は堅気ではあったが普通の人生を歩んできたとは言えないので、痛みを我慢して無理やり笑って頷くとキョウコは呼応するようにニッコリと笑った。
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