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「お前、キョウコのやつを呼んだのか」
「呼んでないよ。キョウコさんの方から『行くね♪』ってLINE来たわけ」
ジウは引き続き勝ち誇った顔のまま、イズキにスマホの画面を見せる。
イズキは目前に突き出された画面に目線を移すこともなく、デカい手でスマホを掴むとコンクリの壁に投げつけた。あっという間だった。
ガガンッ!というモノが壊れる音と俺のか弱い悲鳴が響く。
なんて暴力的な男なんだ!
段差の上で力なく明滅しているバキバキのスマホを見ながら思った。無残な姿になんだか親近感を感じて、スマホに感情移入しそうになる。
可哀そうなスマホをせめて拾ってやろうと思った瞬間、スマホはジウのスニーカーで踏まれて下に蹴られ一瞬で消えた。
「これで5台目だよ。キョウコさんと連絡取るたびにスマホ壊すのなに?性癖?」
「しつけだ。連絡取るなって命令を守らないお前へのな」
ジウは怯えるでもキレるでもなく『はいはい』という様子で肩をすくめるだけで、イズキもスマホを壊しただけでそれ以上は何もせずに踵を返すと階段を上がり始める。
スマホを壊すのは当たり前のようなテンションで会話がなされて、そして終わった。
なんなんだよ、コイツら。
イズキの後を慌てて追いながらそう思って、変であることをいちいち気にする相手ではないと思い直した。
とにかく俺はこの妙な関係の2人と共同生活をしないといけないのだ。気に障らないように生きて、しっかり自分の命を守らなければならない。
「ね、幸太。あとでLINE教えて」
人懐っこい笑顔でジウが肩を叩いた。
今ジウのスマホはぶっ壊れたし、俺のスマホは三ツ木さんに没収されている。
「須原はスマホなんて持ってない」
俺が答える前にイズキが補足した。
俺はジウを振り返って頷く。
「なんだ。じゃキョウコさんに頼んであげるよ。たぶんキョウコさん、幸太みたいなの好きだし」
「さっきから出てくるキョウコさんって、いったい──」
「もう黙れ。店だ」
俺の問いはイズキに消され、狭い階段の先にはベルベット調の場違いに豪華な扉が出現していた。
++
扉の先は、窓のないバー──エルムンドだった。
地下から階段を上がってもまだ地下のようだ。
客は誰もいない。
犯罪者しか来ないイカれた店だ。だから薄暗くて汚い店内だろうと思っていたけど、予想に反してとても綺麗な店内だった。
足が沈むような絨毯、俺でもわかる高そうな家具。
中央にはシャンデリアまで下がっていて、バーカウンターは磨かれきったグラスと瓶たちが並ぶ。
俺が立場も忘れて店内を見まわしていると、イズキが黒い何かを投げつけてきて、顔でキャッチした。何かを広げてみると、腰エプロンだった。
「シャツは首までボタンをしめて、それを着て接客しろ」
「は、はい。その、今から何してたらいいですか」
「客が来るまではひたすらテーブルとグラス磨き。客が来たら席案内とオーダーを取る。喧嘩が起こったら仲裁。店を閉めたら今のこの状態になるまで掃除だ。以上」
「布巾とかカウンターの裏にあるから。掃除用具はあっち」
喧嘩の仲裁だけ全うできる気がしないが、俺は指示を出すイズキと補足してくれるジウに向かって勢いよく頷いてカウンターの裏に置いてあった布巾を掴んだ。
ガラス張りのテーブル──俺が拭くまでもなく輝くほど磨かれている──を拭き始めた時、アンティークのオルゴールから流れるような品のいいベルの音が鳴った。
直後店の入り口と思われる扉が、蹴破るように開かれた。
「おいイズキ!ジウを出せ!」
そう言いながら扉から現れたのは、毛皮をまとったデカい男だった。
思わずイズキとジウを見ると、イズキは面倒くさそうに息を吐いてジウは「いらっしゃい!」と両手を毛皮男に向かって振っていた。
「静かに入店しろ、キョウコ」
イズキは男をキョウコと呼んだ。
後にジウから教えてもらうことになるが、この毛皮男がキョウコ──強い虎で『強虎』と書く、ジウのパトロンだった。
「呼んでないよ。キョウコさんの方から『行くね♪』ってLINE来たわけ」
ジウは引き続き勝ち誇った顔のまま、イズキにスマホの画面を見せる。
イズキは目前に突き出された画面に目線を移すこともなく、デカい手でスマホを掴むとコンクリの壁に投げつけた。あっという間だった。
ガガンッ!というモノが壊れる音と俺のか弱い悲鳴が響く。
なんて暴力的な男なんだ!
段差の上で力なく明滅しているバキバキのスマホを見ながら思った。無残な姿になんだか親近感を感じて、スマホに感情移入しそうになる。
可哀そうなスマホをせめて拾ってやろうと思った瞬間、スマホはジウのスニーカーで踏まれて下に蹴られ一瞬で消えた。
「これで5台目だよ。キョウコさんと連絡取るたびにスマホ壊すのなに?性癖?」
「しつけだ。連絡取るなって命令を守らないお前へのな」
ジウは怯えるでもキレるでもなく『はいはい』という様子で肩をすくめるだけで、イズキもスマホを壊しただけでそれ以上は何もせずに踵を返すと階段を上がり始める。
スマホを壊すのは当たり前のようなテンションで会話がなされて、そして終わった。
なんなんだよ、コイツら。
イズキの後を慌てて追いながらそう思って、変であることをいちいち気にする相手ではないと思い直した。
とにかく俺はこの妙な関係の2人と共同生活をしないといけないのだ。気に障らないように生きて、しっかり自分の命を守らなければならない。
「ね、幸太。あとでLINE教えて」
人懐っこい笑顔でジウが肩を叩いた。
今ジウのスマホはぶっ壊れたし、俺のスマホは三ツ木さんに没収されている。
「須原はスマホなんて持ってない」
俺が答える前にイズキが補足した。
俺はジウを振り返って頷く。
「なんだ。じゃキョウコさんに頼んであげるよ。たぶんキョウコさん、幸太みたいなの好きだし」
「さっきから出てくるキョウコさんって、いったい──」
「もう黙れ。店だ」
俺の問いはイズキに消され、狭い階段の先にはベルベット調の場違いに豪華な扉が出現していた。
++
扉の先は、窓のないバー──エルムンドだった。
地下から階段を上がってもまだ地下のようだ。
客は誰もいない。
犯罪者しか来ないイカれた店だ。だから薄暗くて汚い店内だろうと思っていたけど、予想に反してとても綺麗な店内だった。
足が沈むような絨毯、俺でもわかる高そうな家具。
中央にはシャンデリアまで下がっていて、バーカウンターは磨かれきったグラスと瓶たちが並ぶ。
俺が立場も忘れて店内を見まわしていると、イズキが黒い何かを投げつけてきて、顔でキャッチした。何かを広げてみると、腰エプロンだった。
「シャツは首までボタンをしめて、それを着て接客しろ」
「は、はい。その、今から何してたらいいですか」
「客が来るまではひたすらテーブルとグラス磨き。客が来たら席案内とオーダーを取る。喧嘩が起こったら仲裁。店を閉めたら今のこの状態になるまで掃除だ。以上」
「布巾とかカウンターの裏にあるから。掃除用具はあっち」
喧嘩の仲裁だけ全うできる気がしないが、俺は指示を出すイズキと補足してくれるジウに向かって勢いよく頷いてカウンターの裏に置いてあった布巾を掴んだ。
ガラス張りのテーブル──俺が拭くまでもなく輝くほど磨かれている──を拭き始めた時、アンティークのオルゴールから流れるような品のいいベルの音が鳴った。
直後店の入り口と思われる扉が、蹴破るように開かれた。
「おいイズキ!ジウを出せ!」
そう言いながら扉から現れたのは、毛皮をまとったデカい男だった。
思わずイズキとジウを見ると、イズキは面倒くさそうに息を吐いてジウは「いらっしゃい!」と両手を毛皮男に向かって振っていた。
「静かに入店しろ、キョウコ」
イズキは男をキョウコと呼んだ。
後にジウから教えてもらうことになるが、この毛皮男がキョウコ──強い虎で『強虎』と書く、ジウのパトロンだった。
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