性奴隷を拒否したらバーの社畜になった話

タタミ

文字の大きさ
上 下
17 / 46

16

しおりを挟む
「お前、キョウコのやつを呼んだのか」
「呼んでないよ。キョウコさんの方から『行くね♪』ってLINE来たわけ」

 ジウは引き続き勝ち誇った顔のまま、イズキにスマホの画面を見せる。
 イズキは目前に突き出された画面に目線を移すこともなく、デカい手でスマホを掴むとコンクリの壁に投げつけた。あっという間だった。
 ガガンッ!というモノが壊れる音と俺のか弱い悲鳴が響く。
 
 なんて暴力的な男なんだ!
 
 段差の上で力なく明滅しているバキバキのスマホを見ながら思った。無残な姿になんだか親近感を感じて、スマホに感情移入しそうになる。
 可哀そうなスマホをせめて拾ってやろうと思った瞬間、スマホはジウのスニーカーで踏まれて下に蹴られ一瞬で消えた。

「これで5台目だよ。キョウコさんと連絡取るたびにスマホ壊すのなに?性癖?」
「しつけだ。連絡取るなって命令を守らないお前へのな」

 ジウは怯えるでもキレるでもなく『はいはい』という様子で肩をすくめるだけで、イズキもスマホを壊しただけでそれ以上は何もせずに踵を返すと階段を上がり始める。
 スマホを壊すのは当たり前のようなテンションで会話がなされて、そして終わった。

 なんなんだよ、コイツら。

 イズキの後を慌てて追いながらそう思って、変であることをいちいち気にする相手ではないと思い直した。
 とにかく俺はこの妙な関係の2人と共同生活をしないといけないのだ。気に障らないように生きて、しっかり自分の命を守らなければならない。

「ね、幸太。あとでLINE教えて」

 人懐っこい笑顔でジウが肩を叩いた。
 今ジウのスマホはぶっ壊れたし、俺のスマホは三ツ木さんに没収されている。

「須原はスマホなんて持ってない」

 俺が答える前にイズキが補足した。
 俺はジウを振り返って頷く。

「なんだ。じゃキョウコさんに頼んであげるよ。たぶんキョウコさん、幸太みたいなの好きだし」
「さっきから出てくるキョウコさんって、いったい──」
「もう黙れ。店だ」

 俺の問いはイズキに消され、狭い階段の先にはベルベット調の場違いに豪華な扉が出現していた。

++
 扉の先は、窓のないバー──エルムンドだった。
 地下から階段を上がってもまだ地下のようだ。
 客は誰もいない。
 犯罪者しか来ないイカれた店だ。だから薄暗くて汚い店内だろうと思っていたけど、予想に反してとても綺麗な店内だった。
 足が沈むような絨毯、俺でもわかる高そうな家具。
 中央にはシャンデリアまで下がっていて、バーカウンターは磨かれきったグラスと瓶たちが並ぶ。
 俺が立場も忘れて店内を見まわしていると、イズキが黒い何かを投げつけてきて、顔でキャッチした。何かを広げてみると、腰エプロンだった。

「シャツは首までボタンをしめて、それを着て接客しろ」
「は、はい。その、今から何してたらいいですか」
「客が来るまではひたすらテーブルとグラス磨き。客が来たら席案内とオーダーを取る。喧嘩が起こったら仲裁。店を閉めたら今のこの状態になるまで掃除だ。以上」
「布巾とかカウンターの裏にあるから。掃除用具はあっち」

 喧嘩の仲裁だけ全うできる気がしないが、俺は指示を出すイズキと補足してくれるジウに向かって勢いよく頷いてカウンターの裏に置いてあった布巾を掴んだ。
 ガラス張りのテーブル──俺が拭くまでもなく輝くほど磨かれている──を拭き始めた時、アンティークのオルゴールから流れるような品のいいベルの音が鳴った。
 直後店の入り口と思われる扉が、蹴破るように開かれた。

「おいイズキ!ジウを出せ!」

 そう言いながら扉から現れたのは、毛皮をまとったデカい男だった。
 思わずイズキとジウを見ると、イズキは面倒くさそうに息を吐いてジウは「いらっしゃい!」と両手を毛皮男に向かって振っていた。

「静かに入店しろ、キョウコ」

 イズキは男をキョウコと呼んだ。
 後にジウから教えてもらうことになるが、この毛皮男がキョウコ──強い虎で『強虎』と書く、ジウのパトロンだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

『霧原村』~少女達の遊戯が幽から土地に纏わる怪異を起こす~転校生渉の怪異事変~

潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。 渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。 《主人公は和也(語り部)となります。ライトノベルズ風のホラー物語です》

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...