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「俺はイズキだ。店の人手不足を解消するために、お前を三ツ木から買った。お前は従業員として、俺の命令に従う義務がある」
「……はい」
「買ったということは、どれだけ働こうが賃金は発生しないということだ。金持ちの性奴隷になるのを拒否したお前は、代わりに俺の店で24時間働く。お前がよっぽど使えないゴミでなければ、死なない程度の衣食住は与える。あと三ツ木への借金は、店でチップでも稼いで返済しろ」
「わ、わかりました……」
ジウも俺と同じ境遇なのだろうかとイズキから視線を移すと、ジウはそもそもずっと俺を見つめていたようで、ばっちり目が合う。その目がカラコンで淡いグリーンであることに気づいた。
「こいつは従業員じゃなく、ただの同居人のガキだ。気にするな」
イズキがジウを親指で示すと、ジウは下唇を突き出して「説明雑すぎ」と不満げな顔になった。
「俺はジウ。イズキさんと一緒に暮らしてて、ご飯作ったり色々雑用やってる。従業員ってわけじゃないけど、アンタもここに住むことになるしこれからよろしくね」
笑顔と共に名乗られ、イズキと対照的なジウの親しみやすさに多少心が落ち着く。
「お前の仕事内容は、俺の店──『エルムンド』というバーで、清掃から客の話し相手、喧嘩の仲裁まで、店が円滑に運営できるよう臨機応変に対応することだ」
つまりイズキはバーテンダーということなのか。
そんな堅気に通じる職業だとは思ってなくて、正直驚いた。
「今、俺がバーテンダーなら堅気なのかと思ったか」
「えっ、あ、はい」
「堅気のバーテンダーが人身売買で従業員を増やすわけないだろ」
言われて、その通り過ぎて俺は反射的に「すみません」と謝った。
「エルムンドは堅気の人間など来ない。いわゆる裏社会の人間しか利用しないバーだ。裏社会の意味はわかるか」
「あの、つまり、三ツ木さんみたいな人がいる世界、ですよね」
「三ツ木はグレーゾーンだな。やってることのレベルで言えば、三ツ木が店に来る人間のボーダーラインだ」
あの三ツ木さんでボーダーライン?
頬が三ツ木さんに撫でられたことを思い出して、鳥肌に覆われた。
「簡単に言えば、人を殺したことがあるくらいでは誰も驚かない。そういう客しか来ない。法から逸脱して生きてるやつらが集まるわけだ。するとどうなると思う」
イズキがバインダーを置いて俺を見て、俺は唾を飲んだ。何かすぐに答えないと、次の瞬間殴られるのではと思った。
「下手したら殺し合いになったり……とか」
「そうだ。無法者しかいない店では人を殴ろうが強姦しようが殺そうが、何の罪にもならない。店で喧嘩が発生したらそれはイコール殺し合いだ。そして店で喧嘩は頻発する」
否定してほしくて言ってみたことを肯定され、俺は返事もせずに呆然とした。
「喧嘩を仲裁しなければ他の客に迷惑がかかる。だから喧嘩を止めるのは店側、俺たちの仕事だ」
「それって、命の危険もある、わけですよね」
「ああ。元々エルムンドには5名の従業員がいた」
あっさり頷いたイズキは黒いバインダーを開くと、俺のほうへ滑らせた。
そこには体格のいい成人男性の写真が5枚並んでいた。
「……はい」
「買ったということは、どれだけ働こうが賃金は発生しないということだ。金持ちの性奴隷になるのを拒否したお前は、代わりに俺の店で24時間働く。お前がよっぽど使えないゴミでなければ、死なない程度の衣食住は与える。あと三ツ木への借金は、店でチップでも稼いで返済しろ」
「わ、わかりました……」
ジウも俺と同じ境遇なのだろうかとイズキから視線を移すと、ジウはそもそもずっと俺を見つめていたようで、ばっちり目が合う。その目がカラコンで淡いグリーンであることに気づいた。
「こいつは従業員じゃなく、ただの同居人のガキだ。気にするな」
イズキがジウを親指で示すと、ジウは下唇を突き出して「説明雑すぎ」と不満げな顔になった。
「俺はジウ。イズキさんと一緒に暮らしてて、ご飯作ったり色々雑用やってる。従業員ってわけじゃないけど、アンタもここに住むことになるしこれからよろしくね」
笑顔と共に名乗られ、イズキと対照的なジウの親しみやすさに多少心が落ち着く。
「お前の仕事内容は、俺の店──『エルムンド』というバーで、清掃から客の話し相手、喧嘩の仲裁まで、店が円滑に運営できるよう臨機応変に対応することだ」
つまりイズキはバーテンダーということなのか。
そんな堅気に通じる職業だとは思ってなくて、正直驚いた。
「今、俺がバーテンダーなら堅気なのかと思ったか」
「えっ、あ、はい」
「堅気のバーテンダーが人身売買で従業員を増やすわけないだろ」
言われて、その通り過ぎて俺は反射的に「すみません」と謝った。
「エルムンドは堅気の人間など来ない。いわゆる裏社会の人間しか利用しないバーだ。裏社会の意味はわかるか」
「あの、つまり、三ツ木さんみたいな人がいる世界、ですよね」
「三ツ木はグレーゾーンだな。やってることのレベルで言えば、三ツ木が店に来る人間のボーダーラインだ」
あの三ツ木さんでボーダーライン?
頬が三ツ木さんに撫でられたことを思い出して、鳥肌に覆われた。
「簡単に言えば、人を殺したことがあるくらいでは誰も驚かない。そういう客しか来ない。法から逸脱して生きてるやつらが集まるわけだ。するとどうなると思う」
イズキがバインダーを置いて俺を見て、俺は唾を飲んだ。何かすぐに答えないと、次の瞬間殴られるのではと思った。
「下手したら殺し合いになったり……とか」
「そうだ。無法者しかいない店では人を殴ろうが強姦しようが殺そうが、何の罪にもならない。店で喧嘩が発生したらそれはイコール殺し合いだ。そして店で喧嘩は頻発する」
否定してほしくて言ってみたことを肯定され、俺は返事もせずに呆然とした。
「喧嘩を仲裁しなければ他の客に迷惑がかかる。だから喧嘩を止めるのは店側、俺たちの仕事だ」
「それって、命の危険もある、わけですよね」
「ああ。元々エルムンドには5名の従業員がいた」
あっさり頷いたイズキは黒いバインダーを開くと、俺のほうへ滑らせた。
そこには体格のいい成人男性の写真が5枚並んでいた。
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