14 / 46
13
しおりを挟む
「終わってないよ。気短いな」
ジウという名前らしい青年は、イズキに答えながら俺の足首を掴む。そしてピンセットで残っていた俺の爪を剥いだ。
「アッ、うっ!!ッ」
「あ、こら!手当てすんだから大人しく!」
忘れかけていた痛みが容赦なく身体を走って、体が勝手に動く。
ジウは脚で俺の身体を抑え込んで、爪を剥いでいく。手当てだという言葉を信じたいが、暴れるなと言われてもそんなのは無理だった。
イズキは「終わったら風呂に入れろ」とジウに指示して、足元に落ちていた俺のズボンを拾うと部屋から出ていこうとした。その時、ズボンの後ろポケットからオレンジ色の布が落ちた。布を拾うイズキを見て、その布がフラペチーノを拭いたハンカチだったと思い出す。
スタバの新作、1口しか飲めなかったな。
足の痛みから意識をそらすべく、そんなことをわざわざ思い出した。
今日の出来事のはずなのにもう何年も前のことのようだ。
そう思って途端に、イズキに感じていた既視感が明確な記憶と重なった。
あの彫りの深い目元。
「バ、バーバリー男っ……?」
「は?」
俺のかすれた声に、イズキとジウの両者が動きを止めた。
「それ、そのバーバリーのハンカチ、今日俺にぶつかった男が渡してきた、やつでッ……」
指差しながら伝えるとイズキはハンカチを広げて眉を上げた。
「お前あのガキか」
「なに、2人知り合いなの?」
ジウは興味ありそうに俺とイズキを交互に見たが、イズキはもう興味を失っているようで、ハンカチを握りしめると鉄の扉を開けた。
「いいからさっさとやれ、ジウ」
そう言って今度こそ部屋から出ていった。
++
ジウの手当てに耐えきった俺は、次いで部屋に併設された風呂に入り傷口にしみるお湯に耐えた。風呂は身体中が痛んだが、お湯の温かさに触れてやっと生きられている実感を得て、俺は気づけば泣いていた。
脱衣所に出ると白シャツとスラックスがバスタオルと共に置かれ、『着替えたら部屋の扉から出ろ』というメモが鏡に貼ってあった。
メモに従って着替え、鉄の扉の前に立つ。
ノブを回して重い扉を開けると、俺がいた部屋と同じくコンクリ打ちっぱなしの空間が広がっていた。違うのは簡易なキッチンと鉄脚のテーブルセットがあることで、その冷たそうなテーブルセットにイズキとジウが座っていた。
俺に気づいたジウがスマホから顔を上げて、軽く手を挙げた。恐る恐る近づくとイズキが「座れ」と椅子を顎で示した。
「飲め」
椅子に座るとイズキが水のペットボトルを投げてよこす。
俺は十数時間ぶりの水分を前にして、手を震わせながらキャップを外し一気に飲み干した。軽くむせながら空になったペットボトルをテーブルに置くと、イズキは黒と白のバインダー2つをテーブルに出す。
「お前の名前は?」
「す、須原幸太です」
「性別、年齢、国籍は?」
「男、20歳、日本人……です」
「自己認識は正常だな」
イズキは白のバインダーを見ながら何やら頷いて、オールバックの髪を撫でつける。
面接でも始まるのかと、俺は今までと違う緊張を感じていた。
ジウという名前らしい青年は、イズキに答えながら俺の足首を掴む。そしてピンセットで残っていた俺の爪を剥いだ。
「アッ、うっ!!ッ」
「あ、こら!手当てすんだから大人しく!」
忘れかけていた痛みが容赦なく身体を走って、体が勝手に動く。
ジウは脚で俺の身体を抑え込んで、爪を剥いでいく。手当てだという言葉を信じたいが、暴れるなと言われてもそんなのは無理だった。
イズキは「終わったら風呂に入れろ」とジウに指示して、足元に落ちていた俺のズボンを拾うと部屋から出ていこうとした。その時、ズボンの後ろポケットからオレンジ色の布が落ちた。布を拾うイズキを見て、その布がフラペチーノを拭いたハンカチだったと思い出す。
スタバの新作、1口しか飲めなかったな。
足の痛みから意識をそらすべく、そんなことをわざわざ思い出した。
今日の出来事のはずなのにもう何年も前のことのようだ。
そう思って途端に、イズキに感じていた既視感が明確な記憶と重なった。
あの彫りの深い目元。
「バ、バーバリー男っ……?」
「は?」
俺のかすれた声に、イズキとジウの両者が動きを止めた。
「それ、そのバーバリーのハンカチ、今日俺にぶつかった男が渡してきた、やつでッ……」
指差しながら伝えるとイズキはハンカチを広げて眉を上げた。
「お前あのガキか」
「なに、2人知り合いなの?」
ジウは興味ありそうに俺とイズキを交互に見たが、イズキはもう興味を失っているようで、ハンカチを握りしめると鉄の扉を開けた。
「いいからさっさとやれ、ジウ」
そう言って今度こそ部屋から出ていった。
++
ジウの手当てに耐えきった俺は、次いで部屋に併設された風呂に入り傷口にしみるお湯に耐えた。風呂は身体中が痛んだが、お湯の温かさに触れてやっと生きられている実感を得て、俺は気づけば泣いていた。
脱衣所に出ると白シャツとスラックスがバスタオルと共に置かれ、『着替えたら部屋の扉から出ろ』というメモが鏡に貼ってあった。
メモに従って着替え、鉄の扉の前に立つ。
ノブを回して重い扉を開けると、俺がいた部屋と同じくコンクリ打ちっぱなしの空間が広がっていた。違うのは簡易なキッチンと鉄脚のテーブルセットがあることで、その冷たそうなテーブルセットにイズキとジウが座っていた。
俺に気づいたジウがスマホから顔を上げて、軽く手を挙げた。恐る恐る近づくとイズキが「座れ」と椅子を顎で示した。
「飲め」
椅子に座るとイズキが水のペットボトルを投げてよこす。
俺は十数時間ぶりの水分を前にして、手を震わせながらキャップを外し一気に飲み干した。軽くむせながら空になったペットボトルをテーブルに置くと、イズキは黒と白のバインダー2つをテーブルに出す。
「お前の名前は?」
「す、須原幸太です」
「性別、年齢、国籍は?」
「男、20歳、日本人……です」
「自己認識は正常だな」
イズキは白のバインダーを見ながら何やら頷いて、オールバックの髪を撫でつける。
面接でも始まるのかと、俺は今までと違う緊張を感じていた。
10
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
『霧原村』~少女達の遊戯が幽から土地に纏わる怪異を起こす~転校生渉の怪異事変~
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は和也(語り部)となります。ライトノベルズ風のホラー物語です》



久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる