性奴隷を拒否したらバーの社畜になった話

タタミ

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「終わってないよ。気短いな」

 ジウという名前らしい青年は、イズキに答えながら俺の足首を掴む。そしてピンセットで残っていた俺の爪を剥いだ。

「アッ、うっ!!ッ」
「あ、こら!手当てすんだから大人しく!」

 忘れかけていた痛みが容赦なく身体を走って、体が勝手に動く。
 ジウは脚で俺の身体を抑え込んで、爪を剥いでいく。手当てだという言葉を信じたいが、暴れるなと言われてもそんなのは無理だった。
 イズキは「終わったら風呂に入れろ」とジウに指示して、足元に落ちていた俺のズボンを拾うと部屋から出ていこうとした。その時、ズボンの後ろポケットからオレンジ色の布が落ちた。布を拾うイズキを見て、その布がフラペチーノを拭いたハンカチだったと思い出す。

 スタバの新作、1口しか飲めなかったな。

 足の痛みから意識をそらすべく、そんなことをわざわざ思い出した。
 今日の出来事のはずなのにもう何年も前のことのようだ。
 そう思って途端に、イズキに感じていた既視感が明確な記憶と重なった。

 あの彫りの深い目元。

「バ、バーバリー男っ……?」
「は?」

 俺のかすれた声に、イズキとジウの両者が動きを止めた。

「それ、そのバーバリーのハンカチ、今日俺にぶつかった男が渡してきた、やつでッ……」

 指差しながら伝えるとイズキはハンカチを広げて眉を上げた。

「お前あのガキか」
「なに、2人知り合いなの?」

 ジウは興味ありそうに俺とイズキを交互に見たが、イズキはもう興味を失っているようで、ハンカチを握りしめると鉄の扉を開けた。

「いいからさっさとやれ、ジウ」

 そう言って今度こそ部屋から出ていった。

++
 ジウの手当てに耐えきった俺は、次いで部屋に併設された風呂に入り傷口にしみるお湯に耐えた。風呂は身体中が痛んだが、お湯の温かさに触れてやっと生きられている実感を得て、俺は気づけば泣いていた。
 脱衣所に出ると白シャツとスラックスがバスタオルと共に置かれ、『着替えたら部屋の扉から出ろ』というメモが鏡に貼ってあった。
 メモに従って着替え、鉄の扉の前に立つ。
 ノブを回して重い扉を開けると、俺がいた部屋と同じくコンクリ打ちっぱなしの空間が広がっていた。違うのは簡易なキッチンと鉄脚のテーブルセットがあることで、その冷たそうなテーブルセットにイズキとジウが座っていた。
 俺に気づいたジウがスマホから顔を上げて、軽く手を挙げた。恐る恐る近づくとイズキが「座れ」と椅子を顎で示した。

「飲め」

 椅子に座るとイズキが水のペットボトルを投げてよこす。
 俺は十数時間ぶりの水分を前にして、手を震わせながらキャップを外し一気に飲み干した。軽くむせながら空になったペットボトルをテーブルに置くと、イズキは黒と白のバインダー2つをテーブルに出す。

「お前の名前は?」
「す、須原幸太です」
「性別、年齢、国籍は?」
「男、20歳、日本人……です」
「自己認識は正常だな」

 イズキは白のバインダーを見ながら何やら頷いて、オールバックの髪を撫でつける。
 面接でも始まるのかと、俺は今までと違う緊張を感じていた。
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