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「……三ツ木さんが俺に、なんの用でしょうか?」
『ふふ、そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ。誕生日だったでしょう、先週。おめでとうございます。何歳になりましたか?』
「ありがとうございます。20歳……です」
『まぁ、すっかり大人ですね、出会った頃は中学生くらいだったのに。昔はピアノを弾くのが好きでしたよね。今でも弾くんですか』
「いえ、寮にピアノないので」
4畳のクソ狭い部屋しかない事故物件に『社員寮』と名付けた張本人が何を聞いてるんだ。
『ああ、そうでしたっけ。それじゃピアノのある生活が出来るくらい、人生に余裕が出るといいですよね』
「あの、待ってください。俺と世間話をするために電話をしてるんですか?」
『いえいえ、もちろん違います。実は須原くんに相談したいことがあって電話しました。今日店に来たのも、半分は須原くんと話したいからだったんですが、帰ってくるのが待ちきれなくて』
三ツ木さんが持ちかける『相談』。
死体洗いのバイト、かもしれないと思った。1度やって懲りたんだよなとか、まだ呑気に構えていた。
『人材斡旋業の方で昔からお付き合いのあるお客様に、須原くんが欲しいという方がいらっしゃいまして』
「人材斡旋業?派遣会社みたいなことですか?」
『そうですね、ただ派遣社員と違って買い切りです』
「買い切り?」
『分かりやすく言えば、そのお客様の持ち家で暮らす愛人になっていただきたいです』
買い切りで愛人になっていただきたい?
『相談』が想像だにしない方向のもので、俺は意味もなくご機嫌を取るための笑顔を浮かべていた。
三ツ木さんが持ってきた話だ。どう考えても一般的な愛人をやればいいわけがなかった。
「え、ちょっと待ってください、それって」
『いきなりで驚きますよね。でも今より確実に良い生活が保証されます。給料を私に吸収されるどころかそもそも働く必要もなく、お客様のお金で死ぬまで暮らせます。本当は須原くんだって学校に行きたかったでしょう?そういったことも叶えていただけますよ』
「いや、あの、でも買い切りの愛人ってなにを──」
『本来なら須原くんに悩む時間を与えたいところなのですが、お得意様というのもあって少々お待たせしにくい案件なんです。なにより大変須原くんを気に入っておられて、断るのも難しくてですね』
全く俺の言葉を聞く気がない。断る気はない、ということだ。
断る気がないということは、俺はどっかの金持ちに売られてしまうということだった。
ただの愛人契約の仕事なら、三ツ木さんがわざわざ店に来るはずがない。俺を売ると大きな利益がある取引だからわざわざ店にまで来ているんだろう、とクッキー缶を指でいじりながら考える。そうしないと落ち着いていられなかった。
「……俺の買い取り金額、俺の借金以上だったりしますか」
『ふふ、そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ。誕生日だったでしょう、先週。おめでとうございます。何歳になりましたか?』
「ありがとうございます。20歳……です」
『まぁ、すっかり大人ですね、出会った頃は中学生くらいだったのに。昔はピアノを弾くのが好きでしたよね。今でも弾くんですか』
「いえ、寮にピアノないので」
4畳のクソ狭い部屋しかない事故物件に『社員寮』と名付けた張本人が何を聞いてるんだ。
『ああ、そうでしたっけ。それじゃピアノのある生活が出来るくらい、人生に余裕が出るといいですよね』
「あの、待ってください。俺と世間話をするために電話をしてるんですか?」
『いえいえ、もちろん違います。実は須原くんに相談したいことがあって電話しました。今日店に来たのも、半分は須原くんと話したいからだったんですが、帰ってくるのが待ちきれなくて』
三ツ木さんが持ちかける『相談』。
死体洗いのバイト、かもしれないと思った。1度やって懲りたんだよなとか、まだ呑気に構えていた。
『人材斡旋業の方で昔からお付き合いのあるお客様に、須原くんが欲しいという方がいらっしゃいまして』
「人材斡旋業?派遣会社みたいなことですか?」
『そうですね、ただ派遣社員と違って買い切りです』
「買い切り?」
『分かりやすく言えば、そのお客様の持ち家で暮らす愛人になっていただきたいです』
買い切りで愛人になっていただきたい?
『相談』が想像だにしない方向のもので、俺は意味もなくご機嫌を取るための笑顔を浮かべていた。
三ツ木さんが持ってきた話だ。どう考えても一般的な愛人をやればいいわけがなかった。
「え、ちょっと待ってください、それって」
『いきなりで驚きますよね。でも今より確実に良い生活が保証されます。給料を私に吸収されるどころかそもそも働く必要もなく、お客様のお金で死ぬまで暮らせます。本当は須原くんだって学校に行きたかったでしょう?そういったことも叶えていただけますよ』
「いや、あの、でも買い切りの愛人ってなにを──」
『本来なら須原くんに悩む時間を与えたいところなのですが、お得意様というのもあって少々お待たせしにくい案件なんです。なにより大変須原くんを気に入っておられて、断るのも難しくてですね』
全く俺の言葉を聞く気がない。断る気はない、ということだ。
断る気がないということは、俺はどっかの金持ちに売られてしまうということだった。
ただの愛人契約の仕事なら、三ツ木さんがわざわざ店に来るはずがない。俺を売ると大きな利益がある取引だからわざわざ店にまで来ているんだろう、とクッキー缶を指でいじりながら考える。そうしないと落ち着いていられなかった。
「……俺の買い取り金額、俺の借金以上だったりしますか」
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