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「オレンジダブルショットフラペチーノでございます」
デパ地下でクッキーやらお茶やら買った俺は、嘉指の金でスタバの新作を買っていた。
時刻は現在15時20分。
そろそろ店に戻るかと思いながらオレンジダブルショットフラペチーノに口を付けた時、嘉指から電話がかかってきた。
『おい!今どこにいる!?』
「今買い物終わって戻るとこ。なに慌ててんの?」
『タクシーで帰って来い!もう三ツ木さんが来ちまってんだよ!いいか、急げよ!』
言うだけ言って電話は切れた。
横暴な連絡にせよ、三ツ木さんにお茶も出せないのはさすがにマズイ。
タクシー乗り場に向かうために道を戻ろうと踵を返したら、目の前にデカイ人影があった。人影は止まることなく俺にぶつかり、俺は思いきり後ろに倒れ尻をアスファルトに叩きつけた。
「イッタぁ……!うわ冷た!」
まだ1口しか飲んでいないオレンジダブルショットフラペチーノを自分の胸にぶちまけていた。オレンジの風味が俺の黒いTシャツに染み込んでいき、通行人たちがちらちらと面白がるように視線を寄越してくる。
俺にぶつかった人影は、謝るでも立ち去るでもなく俺の前に突っ立っていた。見上げれば、グレーのシャツを着たゆうに180cmはある男が面倒臭そうに革のクラッチバックを開けている。
正直イラッとしたが、男の彫りの深い目元が俺を捉えると文句も何も出なかった。逆らわない方がいいと即座に思った。
「これ」
「は、え?」
無愛想に差し出された男の手には白いハンカチが握られていた。それは思い切り『BURBERRY』と刺繍されたハンカチで、俺は人生で初めてハンカチごときにバーバリーを選ぶ人間を目の前にしていた。
「さっさと拭かないと染みになる」
面倒そうな声音と共に、胸元にハンカチが押し付けられていた。慌ててシャツからハンカチを剥がしても、すっかりフラペチーノが染み込んでバーバリーはオレンジの斑模様へと変貌してしまった。
「拭いたら適当に捨てとけ」
「え?捨てるってそんなこと……」
俺が言葉を返す頃には男は歩き出していて、「ちょっと!」と呼んでも1度も振り返えらなかった。
仕方なしにもらったハンカチでTシャツを拭いて、オレンジ色のハンカチをズボンの後ろポケットにねじ込んだ時、再びスマホの着信音が鳴った。
どうせ嘉指だ。
転んだときに落としてしまったクッキー缶を拾いながら俺は番号も確認せずにスマホを耳に当てた。
『もしもし』
「あーはいはい分かったから!すぐ戻るって──」
『へえ、すぐ戻ってきていただけるんですね。嬉しい限りです』
電話口に面倒くさいという息を吐いたあとに、聞こえてきた声が嘉指じゃないと気付いた。
『お帰りが遅いので心配になってしまいまして。電話をかけさせていただきました』
「え?あの。み、三ツ木さん……?」
『ええ、そうですよ。お久しぶりですね須原くん』
耳触りの良い滑らかな声が俺の名前を呼んで、俺は胃を掴まれたような感覚になった。
デパ地下でクッキーやらお茶やら買った俺は、嘉指の金でスタバの新作を買っていた。
時刻は現在15時20分。
そろそろ店に戻るかと思いながらオレンジダブルショットフラペチーノに口を付けた時、嘉指から電話がかかってきた。
『おい!今どこにいる!?』
「今買い物終わって戻るとこ。なに慌ててんの?」
『タクシーで帰って来い!もう三ツ木さんが来ちまってんだよ!いいか、急げよ!』
言うだけ言って電話は切れた。
横暴な連絡にせよ、三ツ木さんにお茶も出せないのはさすがにマズイ。
タクシー乗り場に向かうために道を戻ろうと踵を返したら、目の前にデカイ人影があった。人影は止まることなく俺にぶつかり、俺は思いきり後ろに倒れ尻をアスファルトに叩きつけた。
「イッタぁ……!うわ冷た!」
まだ1口しか飲んでいないオレンジダブルショットフラペチーノを自分の胸にぶちまけていた。オレンジの風味が俺の黒いTシャツに染み込んでいき、通行人たちがちらちらと面白がるように視線を寄越してくる。
俺にぶつかった人影は、謝るでも立ち去るでもなく俺の前に突っ立っていた。見上げれば、グレーのシャツを着たゆうに180cmはある男が面倒臭そうに革のクラッチバックを開けている。
正直イラッとしたが、男の彫りの深い目元が俺を捉えると文句も何も出なかった。逆らわない方がいいと即座に思った。
「これ」
「は、え?」
無愛想に差し出された男の手には白いハンカチが握られていた。それは思い切り『BURBERRY』と刺繍されたハンカチで、俺は人生で初めてハンカチごときにバーバリーを選ぶ人間を目の前にしていた。
「さっさと拭かないと染みになる」
面倒そうな声音と共に、胸元にハンカチが押し付けられていた。慌ててシャツからハンカチを剥がしても、すっかりフラペチーノが染み込んでバーバリーはオレンジの斑模様へと変貌してしまった。
「拭いたら適当に捨てとけ」
「え?捨てるってそんなこと……」
俺が言葉を返す頃には男は歩き出していて、「ちょっと!」と呼んでも1度も振り返えらなかった。
仕方なしにもらったハンカチでTシャツを拭いて、オレンジ色のハンカチをズボンの後ろポケットにねじ込んだ時、再びスマホの着信音が鳴った。
どうせ嘉指だ。
転んだときに落としてしまったクッキー缶を拾いながら俺は番号も確認せずにスマホを耳に当てた。
『もしもし』
「あーはいはい分かったから!すぐ戻るって──」
『へえ、すぐ戻ってきていただけるんですね。嬉しい限りです』
電話口に面倒くさいという息を吐いたあとに、聞こえてきた声が嘉指じゃないと気付いた。
『お帰りが遅いので心配になってしまいまして。電話をかけさせていただきました』
「え?あの。み、三ツ木さん……?」
『ええ、そうですよ。お久しぶりですね須原くん』
耳触りの良い滑らかな声が俺の名前を呼んで、俺は胃を掴まれたような感覚になった。
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