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    瀬戸と本当に恋人になった。
    そんな夢のような現実を与えられ、新坂は上手く眠れないまま天井を見ていた。セックスで汗ばんだ肌も今ではすっかり乾いて、寝苦しさはないはずなのにやはり眠くはならなかった。

(もしかして全部ドッキリだったりして)

    そんなわけはないのだがそんなことを思いながら、新坂は隣で寝る恋人を見た。瀬戸は新坂の肩に頬をくっつけて眠っている。先程まで新坂を求めていた男とは別人のような可愛らしい寝顔に、新坂はひとりで笑った。少し開いている唇に触れるとキスをしたくなってしまって、新坂は自分に正直に顔を寄せた。
    重なった唇は、前と違って新坂の心を満たしていく。

「……好きだよ、ユキトくん」

    あの夜言えなかった言葉を言って、新坂は幸せと照れ臭さを感じた。口元を緩ませたまま枕に頭を戻すと、

「寝てる俺にしかキスしてくれないんですか?」

    そう言う声と共に半身を起こした瀬戸が顔を覗き込んできた。


++
    微睡みの中で、唇に何かが触れる感覚があった。

「……好きだよ、ユキトくん」

    声がして、新坂にキスされたんだとわかって目を開けると、新坂が離れていくところだった。バレずにキスをした気でいる恋人に、瀬戸は笑いながら近づく。

「うわっ、起きてたの」
「途中で起きちゃったんですよ」

    これ前もそうでしたけど、と瀬戸が眉を上げると新坂は恥ずかしそうに毛布を口元まで引き上げる。可愛くて抱き締めたくなって、以前からあったこの感情が『愛』だとわかるまで長かったなと瀬戸は思った。
    元を正せば、潜在的に新坂を好きだったのだろうと思う。自分でもわからないほどに埋もれていた感情が、新坂と過ごすうちに芽を出して花を咲かせるまでになったという表現が近い。

「ちゃんと起きてる俺にもしてください」

    そして1度好きだとなれば、瀬戸は愛情表現に遠慮がなくなるタイプだった。緩む顔を隠さない瀬戸を、新坂の三白眼がジッと見つめてくる。

「……ドッキリじゃなさそう」
「何がですか」
「なんでもない」

    追及を塞ぐようにキスをされ、そっと頬を撫でられる。

「……好き、愛してる」
「俺も愛してます」

    新坂と額を合わせて、瀬戸は目を細めた。瀬戸からもキスをすると、新坂はクスクスと喉を鳴らしながら起き上がる。瀬戸の顎下を撫でて構ってから、新坂はサイドテーブルに置かれた花束に顔を向けた。

「これドライフラワーにできるかな」
「あ、俺ヒョンにもらったラベンダーでやったんでやり方わかりますよ」

    窓に飾ってあってと続けようとしたら「飾ってくれてたよね」と先に言われる。新坂が嬉しそうに見えて、気付いてくれていたことに瀬戸も嬉しくなった。

「俺もあとでお花、お返しするから。ドライフラワーいっぱい作ろ」

    新坂がぽんと頭に手を置いてきて、瀬戸の頭に欲しい花が浮かぶ。

「そしたら白い薔薇が欲しいです」
「いいよ。好きなの?」
「店で花選ぶときに告白するんですって伝えたら、店員さんが花言葉を色々教えてくれて」

    説明しながらスマホで検索を進めて、瀬戸は新坂に白い薔薇の花言葉を見せた。

「……『私は、あなたに相応しい』」
「いい花言葉でしょ。新坂さんからそんな言葉贈られたら最高だなって思って」

    新坂は照れたように唇を舐めてから、「相応しいとか言ってる俺、偉そうじゃない?」と眉を下げて笑う。

「でもユキトくんの希望なら叶えるよ。いっぱい贈らせて」
「俺も用意するから、白い薔薇贈り合いましょうね」
「え、それじゃお返しにならないよ」
「だって俺、あなたに相応しいから。世界中で競っても俺が勝ちます」

    新坂の分まで補うように瀬戸が堂々と言うと、新坂はパチパチと瞬きしてから「はは」と口元を緩めて感情を溢した。身体を寄せた新坂が瀬戸の肩にもたれて、体温が混ざる。

「……俺から、離れないでね」

    独り言のような言葉は、瀬戸の腕を弱く撫でる指先と一緒に伝えられた。

(あぁ、この人とずっと一緒にいたい)

    瀬戸はそう思って、新坂の手を取って指を絡める。

「離れたいって言われても、離しません」

    微笑むと、顔を上げた新坂は瀬戸の表情をなぞるように微笑んだ。2人は穏やかに見つめ合って、そのまま唇を重ねる。
    誓いの言葉も、指輪もないけど。それは紛れもなく、これからを約束する契りの口づけだった。

おわり
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