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42.SSおまけ 将軍といえど……

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     『強面な将軍は花嫁を愛でる』  おまけSS  



 敵の正体、目的が未だに解明されていない中、将軍である俺は第二小国の外れ、つまり第三小国との国境付近にある駐屯地へ再び訪れていた。もうここに来て一週間ほど経過している。


 いい加減帰宅しないと息子に顔を忘れられそうだ……などと言えば百人中百人が笑い転げるだろう。


 たったの一週間で忘れられるわけがないだろうと。まあ、実際にはそうなのだろうが、それだけ家族思いということだと、自負している。


 今回の訪問の目的は、敵の監視拠点を潰すための情報集めから始めることにある。ただ第三小国もいまやサカディア王国の国民である。


 自国民を傷つけたらまさに本末転倒であるため、慎重に調査が必要でなかなか思ったように進まず、先行きの見えない状態に、俺を含めた関係者が相当苛立っているのはたしかだ。


 体裁が整うまでは、しばらく逗留しなければならないが、それが終われば再び王城での指揮になるだろう。


 連日の偵察や会議が続く中、唯一の楽しみが……上着の内ポケットに入っている。顔が崩れる前に部下に後は任せて自室に戻る。


 ドアを閉めた途端、手早く髪を整え、ひげを剃る。


「まだ、あと十五分あるな」


 ここへ来る前に、市場でルシャナとお揃いで買った懐中時計。正確に時を刻む魔法をかけているので、狂う事はまずない。


 それから服を着替えて、定位置であるベッドに腰を掛ける。ここまでであと五分残っている。


「よし、それなら今晩は……これで、いいか」


 数枚の紙を広げて、時間になるのを今か今かと待っていた。


 手には……嫌がるユージンから、なんとかせしめてきた『鏡』が握られている。


「よし、時間ぴったりだ。おお~! ルシャナ、アルトリート!」


 鏡の向こうでは、笑顔の妻と眠たそうだがなんとか起きている愛息子アルトリートが、こちらに向かって手を振っているのだ。


「ルシャナ、愛してるぞ、アルトリート、かわいいな」


 と言っても当然相手に声が聞こえるわけではない。そこで用意した紙を手に取る。


『愛してる、ルシャナ。まだ帰れそうになくてすまないな』


 すると、鏡の向こうで、急にあたふたしたルシャナはとりあえず『大好き』『マンフリート!』と頭上に紙を掲げながら、もう片方で走り書きをしている。


『寂しいけれど、大丈夫! お仕事頑張って! 好き!』


 文章だとやけにキャラとは違う元気な返事が返ってきて、思わず笑ってしまうと、ルシャナの顔がプーッと膨らむ。


『悪かった』『かわいい』『愛してる』の紙を三連発で掲げる。


 いつまでも会話をしていたいが、五分というのはかなり短いと思う。今度ユージンに苦情を入れてせめて十分にしろと言ってみよう。単に呆れられて終わりそうではあるが。


 最後に愛する妻の笑顔と舟を漕いでいる息子を、プツリとだだの鏡に戻るまでの時間を堪能した。心がホクホクしている。


「今日も一日の疲れが一瞬で吹き飛んだな」


 それから、なんとなくまだ眠くないので、武器の手入れをしてみる。さらには、何度も読み返した不穏分子に関する資料もパラパラと捲ってみる。そして……懐中時計を開く。


 次の鏡の時間まで、まだ二十分もある。


「…………」


 とりあえず体を拭こうと、井戸に水を汲みに行くことにする。するとそこでは兵士数人が、まさに井戸端会議をしていた。


「……やっぱり? 俺も見た。将軍たまに自分の胸元を触ってニヤニヤしてるよな? あれかな? ルシャナ様の何か、が入っているんじゃないかと、俺は推測する!」


「なんだろな? ハンカチとか?」


「いや、ルシャナ様だぞ? きっと俺たちの想像を超える物を将軍に渡したと思うんだ。でも思いつかないな……」


 なんと! 兵士に気づかれていたとは……。将軍足る者、常に平常心を装い、けして部下に情けないところを見せるなかれ、それが俺の騎士道だったはずだが、まさかの痛恨のミス。


 踵を返して部屋に戻り、ポケットの中の懐中時計を見ると、あと五分で鏡が使える。少し凹んだが、今は忘れよう。


 そして鏡を取り出し、待つ事数分。


「ルシャナ・バウムガルデン」


 すると、ルシャナもまだ起きていてくれたのか、嬉しそうに手を振っている。まさに以心伝心とはこのことだな、などと乙女のように心が躍ったのは……内緒だ。

 どうやら一人のようだから、アルトリートは寝たのだろう。


 つまり――ここからは大人の時間というわけだ。


 俺は欲望に忠実になるべく、急いで走り書きをする。


 すると、ルシャナは顔を真っ赤にしながら、でも時間がないことを知っているので、テキパキと服を脱ぎ、少し躊躇いがちではあるが、乳首を両手で摘みだした――俺の指示通りに。


 ルシャナはすぐに息が乱れ、羞恥と快感にどこか恍惚とした表情を浮かべ、それがどこか背徳感を漂わせ、鏡越しの俺は思わずごくりと喉を鳴らす――なんて、色気だ、と。


『大事な部分に触れてごらん』


 さすがにそこまでは一人でできないのか、涙目になって首をイヤイヤと横に振る。泣かせるのはこの腕の中だけでたくさんだ。


『ごめん、すごく可愛かったからつい……ほら、泣き止んで』


 コクコクと頷いて服を元に戻すが、頬はまだ紅潮していて、薄く色付くピンク色に、思わず愛おしさが募る。


 こんなに可愛い妻に、自分はなんという痴態を……。


 と思いつつ、帰ったら今後はもっと離れていてもお互いが寂しくないように、肉体的にも精神的にもよい『鏡』の使用方法について考える。

 もう少し工夫する必要があるなと、少し頭のネジが違う方向へ行ってしまったその人は――――我が国が誇る軍の最高司令官、バウムガルデン将軍であった……。





                 【END 笑】



★★ どうしようもない将軍ですね(笑) 筆者談

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