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40.その後の話③『熊耳のキュンな話 前編』
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「ルシャナ様……。本当にそれをお付けになるのですか? そこまで気にしなくてもいいのに。第一それだと熊耳と人間の耳の二組になっちゃいますよ? アルトリート様にとても似合ってはいますけどねえ」
今日は跡継ぎのお披露目パーティー兼一族の集まり兼一族会議というものが催されている。
マンフリートは当主として当然すべてに顔を出さなければいけないので、朝からずっといない。
そんな中で午後に始まるお披露目のために、チャドラと共に、アルトリートに着せ替えをしている最中なのだ。
「可愛いなら、つけても大丈夫だよね」
「一応、マンフリート様に伺ってみたらどうです?」
本来ならば熊の本性を持つマンフリートの子には、本物の熊耳が付くはずで、それこそが一族の証なのだとルシャナは思っている。
「ん……いらないって、言うと思う……。やっぱり、これをつけたら侮辱だって、思われるかな?」
数日前から熊耳に似せた耳を毛糸で作り、リボンに縫い付けて熊耳を作ったのだ。かなり不恰好なのだが、寝ているアルトリートにそっとつけたとき、あまりの可愛さに、本来の目的を忘れて普通にアクセサリーとして着けようとしたほどだ。
「それはさすがにないと思いますが、伝説の人が奥様で、子供が伝説の人にそっくりとくれば、そちらのほうがみんな嬉しいに決まってます。我が一族に伝説の人が加わったって、皆口々に言ってますもん」
昨晩はお披露目のために、しばらく地方へ出張中だったマンフリートが帰ってきたのだ。うれしさのあまりに二人は久々の逢瀬に熱くなりすぎて、ついついそういった細かい打ち合わせをする暇がなかったのだ。
今も、集まった一族との意見交換会が行われていて、なかなか時間が合わず、現在に至るわけだ。
「じゃあ、これはやめとくね……かわいいけれど」
と言いつつこっそりポケットに押し込んだ。
まだ支えは必要だが、なんとか一人で座れるようになったので、ルシャナはできるだけ息子を可愛く着飾らせたいのだ。
すでにタンスの中には、着用しきれないほどのアルトリートの服が収納されている。
マンフリートは道中、子供服専門店を見つけては大量に購入してくるし、リチャードとチャドラ、それにルシャナもせっせと手作りをしているため、もはや収拾のつかない事態になっているのだ。
「マーマー」
「はいはい、もう少し我慢してね、アルトリート」
赤ちゃんの中ではかなり大人しいほうだというアルトリートだが、さすがに長時間の着せ替え人形に徹するのは無理というものだ。
「マーマー、ふぇぇん……」
目に涙を溜めて、嫌だとアピールしているのだ。
「ああ、飽きちゃったね。ごめんね、よしよし」
ルシャナは抱き上げてポンポンとあやす。すると、指を舐め始めたので、お腹も空いているのだろう。
「あ、もうこんな時間だ。お食事の時間だね」
チャドラが手早く衣装が汚れないようにタスキをかけて、アルトリートにもスタイを装着する。
いつもの連係プレイだ。ゴクゴクとしっかりとお乳を飲んでいる。
徐々に失速し、やがては目がとろーんとしてきたので、お腹が一杯になって眠くなってしまったのだろう。ゲップをさせて、腕の中で完全に寝入るまで抱っこを続ける。
『眠っちゃいましたね』
『そうだね。でも、まだみなさん会議中でしょ?』
『だと思います。何か先にお召し上がりになります?』
『んーん。みんなと一緒に食べるよ』
ぐっすり寝ている息子を見ながら、ルシャナはまだ頭の中で似合う衣装を探していた。
マンフリートは朝からずっと一族会議に出席していた。もちろん議題は、ルシャナのことについてだ。
「なぜ、我々に伝説の人の能力を明かさないのだ、マンフリートよ」
「叔父上、何度も言いましたが、これは私一個人の我儘ではなく、国家の最高機密で王命です」
「それがおかしいと言っているんだ! 何もルシャナ殿を疑っているわけではないぞ? 心から歓迎しているからこそ……寂しいではないか」
「今すぐには無理ですが、必ずお話しするとお約束致しますので、どうかしばらくは静観していてください」
それ以上はさすがに突っ込めないだろう。意地悪をしているのではないとわかってもらえて何よりだ。
行く先々でルシャナのことが話題に登るのは、しかたのないことだ。妻は本当に伝説の人だったのだから、興味もあるだろうし、真相も知りたいだろう。
マンフリートは出張中はけしてルシャナを誰にも会わせないようにしている。それは何も嫉妬からの制限ではなく、それこそが王命だからだ。
自分の留守中にルシャナとアルトリートが攫われでもしたら、正体のわからない敵に利用されてしまうかもしれない。
そうなればマンフリート一人だけの問題ではなくなるのだ。その事を話せない代わりに、こうしてアルトリートのお披露目と称して、ルシャナをみんなに紹介するのが今回の目的だ。
そんな血生臭い話とは縁遠いところにいてほしい……というのが切なる願いなのだ。リチャードにしっかりガードさせているので、一族のものが訪ねてきてもルシャナを目撃した者は今のところ皆無なのだ。
会議が終わり、いよいよ昼食会兼お披露目の開始だ。
叔父上その他血族は皆、ルシャナを一門に入れたことを誇りに思っており、まるでマンフリートが偉業を成し遂げた人物かのように祀まつり上げられているのだ。
「ルシャナ、いるか? そろそろ出番だが」
部屋に戻ったマンフリートは、妻と息子がお揃いの青空色の衣装に包まれており、一枚の絵画のように美しく、ルシャナの慈愛に満ちた微笑みに、しばし呼吸をするのも忘れたほど――見惚れてしまった。
「マンフリート様? これでどうですか?」
問われてハッと意識を元に戻す。
「い、いや。あまりにも美しすぎて言葉が出なかった」
途端にルシャナの頬が赤く染まり、何を言っているのですかと、テレているところが……またかわいい。
「ダアーーーッ!」
「おお、アルトリートもかわいいって思うよな?」
ふとした時に二人並んだ姿を思い出す。
それは仕事中だったり、遠征中の馬上だったり。
思い出し笑いが怖いと、よく部下に突っ込まれるが、今もまた旅先で二人に思いを馳せるための材料ができた。今のこの二人を心に刻みつけよう。
「ルシャナ様……。本当にそれをお付けになるのですか? そこまで気にしなくてもいいのに。第一それだと熊耳と人間の耳の二組になっちゃいますよ? アルトリート様にとても似合ってはいますけどねえ」
今日は跡継ぎのお披露目パーティー兼一族の集まり兼一族会議というものが催されている。
マンフリートは当主として当然すべてに顔を出さなければいけないので、朝からずっといない。
そんな中で午後に始まるお披露目のために、チャドラと共に、アルトリートに着せ替えをしている最中なのだ。
「可愛いなら、つけても大丈夫だよね」
「一応、マンフリート様に伺ってみたらどうです?」
本来ならば熊の本性を持つマンフリートの子には、本物の熊耳が付くはずで、それこそが一族の証なのだとルシャナは思っている。
「ん……いらないって、言うと思う……。やっぱり、これをつけたら侮辱だって、思われるかな?」
数日前から熊耳に似せた耳を毛糸で作り、リボンに縫い付けて熊耳を作ったのだ。かなり不恰好なのだが、寝ているアルトリートにそっとつけたとき、あまりの可愛さに、本来の目的を忘れて普通にアクセサリーとして着けようとしたほどだ。
「それはさすがにないと思いますが、伝説の人が奥様で、子供が伝説の人にそっくりとくれば、そちらのほうがみんな嬉しいに決まってます。我が一族に伝説の人が加わったって、皆口々に言ってますもん」
昨晩はお披露目のために、しばらく地方へ出張中だったマンフリートが帰ってきたのだ。うれしさのあまりに二人は久々の逢瀬に熱くなりすぎて、ついついそういった細かい打ち合わせをする暇がなかったのだ。
今も、集まった一族との意見交換会が行われていて、なかなか時間が合わず、現在に至るわけだ。
「じゃあ、これはやめとくね……かわいいけれど」
と言いつつこっそりポケットに押し込んだ。
まだ支えは必要だが、なんとか一人で座れるようになったので、ルシャナはできるだけ息子を可愛く着飾らせたいのだ。
すでにタンスの中には、着用しきれないほどのアルトリートの服が収納されている。
マンフリートは道中、子供服専門店を見つけては大量に購入してくるし、リチャードとチャドラ、それにルシャナもせっせと手作りをしているため、もはや収拾のつかない事態になっているのだ。
「マーマー」
「はいはい、もう少し我慢してね、アルトリート」
赤ちゃんの中ではかなり大人しいほうだというアルトリートだが、さすがに長時間の着せ替え人形に徹するのは無理というものだ。
「マーマー、ふぇぇん……」
目に涙を溜めて、嫌だとアピールしているのだ。
「ああ、飽きちゃったね。ごめんね、よしよし」
ルシャナは抱き上げてポンポンとあやす。すると、指を舐め始めたので、お腹も空いているのだろう。
「あ、もうこんな時間だ。お食事の時間だね」
チャドラが手早く衣装が汚れないようにタスキをかけて、アルトリートにもスタイを装着する。
いつもの連係プレイだ。ゴクゴクとしっかりとお乳を飲んでいる。
徐々に失速し、やがては目がとろーんとしてきたので、お腹が一杯になって眠くなってしまったのだろう。ゲップをさせて、腕の中で完全に寝入るまで抱っこを続ける。
『眠っちゃいましたね』
『そうだね。でも、まだみなさん会議中でしょ?』
『だと思います。何か先にお召し上がりになります?』
『んーん。みんなと一緒に食べるよ』
ぐっすり寝ている息子を見ながら、ルシャナはまだ頭の中で似合う衣装を探していた。
マンフリートは朝からずっと一族会議に出席していた。もちろん議題は、ルシャナのことについてだ。
「なぜ、我々に伝説の人の能力を明かさないのだ、マンフリートよ」
「叔父上、何度も言いましたが、これは私一個人の我儘ではなく、国家の最高機密で王命です」
「それがおかしいと言っているんだ! 何もルシャナ殿を疑っているわけではないぞ? 心から歓迎しているからこそ……寂しいではないか」
「今すぐには無理ですが、必ずお話しするとお約束致しますので、どうかしばらくは静観していてください」
それ以上はさすがに突っ込めないだろう。意地悪をしているのではないとわかってもらえて何よりだ。
行く先々でルシャナのことが話題に登るのは、しかたのないことだ。妻は本当に伝説の人だったのだから、興味もあるだろうし、真相も知りたいだろう。
マンフリートは出張中はけしてルシャナを誰にも会わせないようにしている。それは何も嫉妬からの制限ではなく、それこそが王命だからだ。
自分の留守中にルシャナとアルトリートが攫われでもしたら、正体のわからない敵に利用されてしまうかもしれない。
そうなればマンフリート一人だけの問題ではなくなるのだ。その事を話せない代わりに、こうしてアルトリートのお披露目と称して、ルシャナをみんなに紹介するのが今回の目的だ。
そんな血生臭い話とは縁遠いところにいてほしい……というのが切なる願いなのだ。リチャードにしっかりガードさせているので、一族のものが訪ねてきてもルシャナを目撃した者は今のところ皆無なのだ。
会議が終わり、いよいよ昼食会兼お披露目の開始だ。
叔父上その他血族は皆、ルシャナを一門に入れたことを誇りに思っており、まるでマンフリートが偉業を成し遂げた人物かのように祀まつり上げられているのだ。
「ルシャナ、いるか? そろそろ出番だが」
部屋に戻ったマンフリートは、妻と息子がお揃いの青空色の衣装に包まれており、一枚の絵画のように美しく、ルシャナの慈愛に満ちた微笑みに、しばし呼吸をするのも忘れたほど――見惚れてしまった。
「マンフリート様? これでどうですか?」
問われてハッと意識を元に戻す。
「い、いや。あまりにも美しすぎて言葉が出なかった」
途端にルシャナの頬が赤く染まり、何を言っているのですかと、テレているところが……またかわいい。
「ダアーーーッ!」
「おお、アルトリートもかわいいって思うよな?」
ふとした時に二人並んだ姿を思い出す。
それは仕事中だったり、遠征中の馬上だったり。
思い出し笑いが怖いと、よく部下に突っ込まれるが、今もまた旅先で二人に思いを馳せるための材料ができた。今のこの二人を心に刻みつけよう。
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