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33.マンフリート

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 王命という名目で、マンフリートたちは三日後にようやく居城に到着した。道中それなりに楽しく過ごせてルシャナは感激しながらはしゃいでいた。


 文字通りマンフリートは片時もルシャナを離すことはなかった。

 移動中は馬車ではなく、ずっと馬に、いやマンフリートの腕の中にいた。これにはルシャナ本人もずっと赤面していたほどだが、ずっとぬくもりを感じていたかったのだ。


 ルシャナを失うかもしれないという恐怖が、いまだに脳裏に焼き付いて離れないのだ。何とも情けないことだが、こればっかりはどうしようもない。心の安寧のために、ルシャナは勘付いて好きなようにさせてくれているのかもしれない。


 手を繋ぎ、抱き上げ、さすがの侍従たちも呆れたほどだ。ユージンの嫌味も気持ちよく耳を素通りしているくらいに、マンフリートは幸せだった。


 帰宅したその日のディナーはルシャナの好物ばかりが並べられていて、主よりも優遇されたことに大いに照れながらも、料理長に感謝していたのがなぜか嬉しかった。それはここを我が家のように、マンフリートの自慢の使用人たちを、大切に思ってくれているのが伝わってくるからだ。


 彼は人の顔色を伺うのが得意だといっていた。それは悲しい理由からではあったのだが、今ではそれが他人への気遣いという良い方に作用していると、マンフリートは思う。


 駐屯地では別れ際に、ルシャナは全員分のハンカチをチャドラとともに縫い上げ、あとで使ってくださいと置いてきたようだ。心遣いに誰もが彼に心酔していたほどだ。そんな優しいところがルシャナには過分にある。


 道中みんなを心配させたからと、城で働く使用人全員にルシャナは贈り物を買ったくらいだ。


 それは少し気を使いすぎだと言ったのだが、贈り物を選ぶルシャナの表情がいつになく楽しそうだったので、マンクリートはそれ以上何も言わず、一緒に買物を楽しんだ。


「ああ、帰ってきましたね! やはりここが一番落ち着きますね、ルシャナ様」


「うん。おかえりなさいって言われたときはすごくうれしかったし、ああ、ここはもう僕の住む場所なんだなって改めて歓迎されたことに感動したなあ」


「そうですよ、ここはもうルシャナ様の故郷なんですからね!」


 考えてみればルシャナはまだノースフィリアに来てからそれほど経っていないのに、あまりにも日々の出来事の内容が濃厚過ぎて、もう長いことここに住んでいるように思える。


「ルシャナ、疲れたろう。湯浴みでもするか?」


「はい、だいぶ汚れてますし、さっぱりしたいですね」


「では支度をしますね」


「……俺の部屋に湯を持ってきてくれ」


「!! かしこまりました! 湯を沸かしてまいります!」


 ルシャナは状況がわかっていないのか、首を傾げている。

 これからマンフリートが何をするのかわからないのだろう。疎いのがまた初々しくて、思わずにやりとしてしまうのを必死で奥歯を噛みしめて耐える。イヤラシいと思われたら最悪だ。


(なんだ、このスケベ親父みたいな思考は……ま、親父だけど……)


 年齢差がかなりあるのは自覚しているが、こちらの年齢に換算するとおおよそルシャナは80歳くらいだろう。寿命が延びたことでおそらく変換されているとは思うが。


(16歳と言っていたが、こちらで換算するとまだ3歳児くらいじゃないか……いや、頭で考えるな)


 所在なげにあたりをうろうろと歩き回るルシャナ。ハッと気づき、手招きする。


「ルシャナ。湯浴みが終わったら、一緒に昼寝をしよう。そして夕食を食べて、また一緒にこの部屋で寝よう。それから、明日はこっちの部屋に引っ越しだ。さすがにここは一人では広すぎて、使われていないタンスだらけだ」


 ほらと言って、マンフリートは部屋をすべてみせる勢いでひとつずつ扉やタンスを開けていく。

 饒舌になってきた頃、ルシャナの歩みは遅く、どことなく遠慮しているように思われて、どうしたのか気になって訊ねた。


「こ、ここに一緒に住むんですよね、朝も昼も夜も一緒に?」


「ああ、もちろんだ……いやか? だったら、以前と同じでも……」


 無理強いはよくないなと、先走りすぎた自分に呆れていると、ルシャナは激しく首を横に振る。


「すごく嬉しいのに、なんだか恥ずかしくて、でもこれからずっと一緒の部屋にいたら、僕はどうなっちゃうのかな、って……ああ、ごめんなさい、もう何を言ったらいいのか……と、とにかく、もう忍び込まなくていいんだ、とかいつ帰ってきたのかとか、耳をそばだてなくてもいいんだなって、ドキドキしていた日々も懐かしいなとか……支離滅裂ですね」


 その感情の起伏には覚えがある。最近までのマンフリートと同じだからだ。これが人を愛するということなのだろう。つまり、ルシャナが俺を深く愛してくれているという証拠をまた見つけた。


「いや、むしろ率直に言ってもらえてうれしいよ……ルシャナ、愛してるっ」


「僕も、です、あなたを心から……お慕いしています、マンフリート様」


 マンフリートはいてもたってもいられず、かぶりつくように、ルシャナの開いた口に舌を滑りこませる。


「ん……っ、ん」


 性急すぎるのはわかっているのだが、制御できない未熟な俺を許せと心の中で謝りつつ、深くルシャナの口内を舌で滑らせる。


 キスだけでこれだけ盛り上がれるのだ。その先はゆっくり進もうと思っている。


 マンフリートは、初めて強引に繋がったとき、ルシャナに痛みと恐怖を与えてしまったことが脳裏に焼きついてしまい、正直彼と繋がることに対してかなり及び腰なのだ。


 傷つけたくない、怖がらせたくない、大切にしたい。

 だから焦る必要はないと自分に言い聞かせ、でも我慢ができなくなって、せめてキスだけでもと、がっついてしまうのだ。


 彼がしたいと言ったら、そのときは応じようと思っているが、まだ心の準備ができていない。


 いい大人が聞いて呆れる。小狡こずるいということもわかっている。すべての判断をルシャナに委ねるなど、どこまで自分は臆病なのかと思うが、それは直前で拒まれることを恐れているからだ。


 マンフリートは足腰がふにゃふにゃになってしまったルシャナを横抱きにして、ソファに深く沈み込む。焦点が合っていないルシャナの頬にもう一度キスをする。再びキスをしたい衝動に駆られたとき、ノックをする音が耳に届く。


『マンフリート様、お湯とたらいをお持ちしました。入ってもよろしいですか?』


 そうだったと思い出し、どうぞと言う。ルシャナは少しモゾモゾして離れようとしたのを封じ込めて抱きしめたまま、ドアが開くのを待った。


「失礼します、今、お湯を……っ! た、たらいに入れますね!」


 チャドラの声が裏返る。まあ、これからこういう場面もちょくちょくあるだろうし、慣れてもらわなければと、少々いたずらな気分にもなる。


 ルシャナははずかしいのだろう、目を合わせられないのか、逆にマンフリートの胸に顔を埋めているが、ちらりと見ると首が真っ赤に染まっている。


(色白だと、実に反応が素直に見られて、いいな……)


 無意識に首筋に唇を這わせると、ぴくりと体が反応して、これはこれでうれしいのだが、あとで怒られそうだと、これ以上いたずらをするのは止めにした。


 チャドラが出て行ったので、マンフリートはルシャナの服をゆっくりと脱がせる。


 今のところ大人しくされるがままだが、体全体が緊張のため、硬直しているのがわかる。最後の一枚を脱がせて全裸になったところで抱き上げてたらいに座らせる。


 髪の毛を無造作に革紐で括り付けると、細い腰、華奢な背中、気品あふれる首筋が露わになる。どこをとっても極上な妻の裸体に、一度だけだがあんなに体を蹂躙じゅうりんしたというのに、まるで初めて裸を見た時のような新鮮な気持ちになる。


 沈黙が流れる中、柔らかな布を浸してまずは背中から拭いていく。ときどきぴくりと反応するが、それは生理現象として、純粋に綺麗にしてやることだけに集中する。


 いよいよ正面だ。腕まくりをしてまずは顔を拭いてやり、それから首、肩を過ぎ、薄くて薄いピンクの花びらのような二つの胸飾りを拭いてやると、なぜか吐息が漏れて、口をキュッと強く引き結んだ。


(ずいぶんと、敏感な肌なのだな。たったこれだけで、反応するとは)


 再びごくりと喉を鳴らし、これは単なる湯浴みだと自分に何度も言い聞かせる。


「足を洗うから立ってくれるか?」


 おそらく普段チャドラに手伝ってもらうときは、当然ここまではしないだろう。せいぜい背中を擦るくらいだと思われる。


 まあここまでやらせていたとしたら、チャドラには悪いが今後湯浴みは一人でするように禁止しなければならないところだ。狭量だと思われたくなくて、実際にはそんな質問すらするつもりはないが。


 そんなことを考えながら、足の甲から始め、徐々に上へと拭いていくと、否応にも目の前にルシャナの可憐で控えめなものが目に入ってきて、マンフリートの理性の限界を試してくるのだ。


(挿入はまだ早いと思うが、入れなければいいのではないか?)


 独断重視で自分勝手な基準のくせに、本人は至極まともなことを考えていると思っている事に、たちの悪さを覚える。将軍と言えども、そこらへんにいる男となんら代わりはないのだ。


(ルシャナも少しは期待して、こうしてすべてを見せてくれているのかも知れない。彼には彼なりの覚悟ができているかもしれないのに、俺は……なんて不甲斐ないんだ)


 性的に感じさせないように、太腿ふとももの内側を布で拭くと、ぴくりと体が反応したかと思うと、ルシャナのものが僅かに立ちあがったのだ。


 おそらくはどこもかしこも、体中が性感帯に変化しているに違いない。


 それでも彼は仁王立ちして、どこか覚悟を決めたようにも思える。これは性的な前戯ではなくて単なる湯浴みだ。硬くなり始めたものを普通に布で擦ったのだが、その刺激でついに完全に立ちあがってしまい、さらにはそれはマンフリートのちょうど口元に突き出されたのだ。


 思わず、無意識に、自然に、ルシャナのものを口に含み、舌先で転がしたり鈴口を突いたり、筋を舐めたり……好き勝手していたため、


「あぁ! だめ、です! あぁぁ……ああっ!」


 あっけなくマンフリートの口の中に勢いよく苦味を噴射した。


 頭上では息も絶え絶えになったルシャナは、いまにも崩れ落ちそうになったので、タオルで包み込み、横抱きにしてベッドに連れて行こうとして、まともに目が合った。


 目は潤み、息は艶めかしい声を時折含み、熱い。


 思わずマンフリートはそのまま深いキスをする。いつからこんなにキス魔になったのか分からず、欲望に突き動かされるまま、ルシャナの口内を犯す。


「好き……」


 愛し愛されることのすばらしさ、自分の貪欲さに驚きつつも、マンフリートもまた幸せを噛みしめていた。


 結局ルシャナに服を着せてやり、彼がベッドの上から見ているのを意識しつつもマンフリートも全裸になる。

 さっと体を拭いてさっぱりしてからベッドに滑り込み、二人は日光に照らされた暖かな部屋で微睡み、うとうとしながら互いの体温を感じ、いつしか眠っていた。

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