31 / 43
31.ルシャナ
しおりを挟む
ルシャナは、ここ数日でもっとも心地の良い目覚めをした。
それもそのはずだ。愛する夫の腕の中で目覚めたのだから。まだマンフリートは眠っていたが、彼の片腕はルシャナの腰をがっちりと掴んでいる。
(あ、またヒゲが濃い。うふふ。胸毛って寝癖とかつくのかな?)
またもや胸毛にご執心なルシャナである。
気になって少し下に視線を這わせると、目的のもじゃもじゃが見つかる。普段はストレートの胸毛な気がしていたのだが、今見るとところどころカールしている部分もある。
(やっぱりこれは寝癖だよ~!)
少しくらいならわからないだろうと、こっそりと丸まった毛の束を摘まんでみる。するとすぐに手首を捕まれる。
「え~。狸寝入り…………っ、ふふっ」
「いたずらっ子に起こされた。おはよう、ルシャナ」
唇にチュッと軽いキスをくれた。お返しにルシャナもキスを返す。なんて蕩けそうに甘い朝なのだろう。とてもここが駐屯地とは思えない、快適な朝だ。
「マンフリート様。寂しかったです。でも、会えたからうれしいです」
ずっと昨日から言いたかった一言が言えて満足だ。
「ん。突然だったが俺もうれしかった。それから……本来こんな寝起きに言うことじゃないんだが、命を救ってくれてありがとう。本当に瀕死だったらしい」
昨日のことを思い出し、ルシャナの涙腺はたちまち崩壊してしまった。
「だ、って、鏡の中で、マンフリート様、が、倒れてて……」
「鏡? とはなんだ?」
説明をしたいのだが、泣きすぎて呼吸が苦しくてそれどころではなくなったので、一旦泣くだけ泣いてしまえと、マンフリートに背中をポンポンとやさしく叩かれる。その安心感からか、さらに涙が止め処なく出る。
ひとしきり泣いて落ち着いたころ、ようやく事情を話すことができた。
「ユージンのコレクションから鏡をもらったんだな……っ、わざとか? いやでも、そのタイミングだとまだ俺の報告書はユージンには届いていないはずなんだがな。たしかに昔から勘のするどい人だとは思っていたが、まさかな」
「それで一時間ごとに見ていたら、マンフリート様が倒れていたので、もうパニックになってしまって……そしたら鏡の中に吸い込まれて、気づいた時にはマンフリート様の目の前にいました」
正直、自分でも説明していて、なんという脈絡のない話だろうとは思ったが、すべて真実なのだ。
「ああ、嘘だなんて微塵も思っていない……やはり、伝説の力なのかもしれないな」
「え……っ、でも本当に僕はただの人間ですよ?」
いや、すでにただの人間ではないことを、まだ彼は知らない。寿命が消えかかったと思ったら三千年にも延びるし、これはすでに常識を越えている。
「こちらの世界にきて開花したのかもしれないぞ。昨日のがたまたまということはないだろう。例えば尋常ではない思いで俺を助けたのは奇跡だとしよう。しかしその後に駐屯地へ戻って隊長の怪我もあっという間に治しただろう? あれは奇跡ではなくて普通に治療だったと思うぞ。じゃあ、実験してみるか?」
何をしようというのだろう。でも、知りたい欲求のほうが強くて頷く。
するとマンフリートは、ベッドの支柱に引っかけていたベルトから短剣を取り出す。何をするのかとハラハラしていると、躊躇なく自分の腕を切りつける。
「きゃあ! な、何を!」
「ほら、落ち着け、実験だ。治療魔法を発動してくれ」
ハッとして、そうだこれは実験なんだと思いつつ、まさか実験のためにマンフリートが自らの腕を切りつけるとは思わなかった。安易に好奇心だけで頷いてしまった自分の思慮の足りなさに、愕然としたが、今は治療が先決だ。
どうやってやったのかも、呪文も知らない。
ただ頭の中で『治って』と念じるだけだ。
すると昨日と同じように手のひらが熱くなり、怪我したところに翳すだけで見事に消えてしまうのだ。
「傷が、消えてる……」
「やはり、夢でも何でもなくて、これは現実なんだ。しかし、すごい能力だな。他人の怪我をここまで完璧に治してしまうとは、まさに神の力に匹敵するのではないか……大げさではなくて、本当にそう思う」
ルシャナは信じられなかった。自分にそんな力があるのもそうだが、なぜ自分にそんな能力が現れたのかもさっぱりわからない。
生まれ持っていた能力で、こちらの世界で開花したのか、それともノースフィリアという魔法の国ゆえの相乗効果的に体が作り替えられてしまったのか。
一度死にそうになったのだし、それもあり得るかも知れない。
どちらにしても、結果は同じ。ルシャナには治療能力があるということだ。
「そういえば、ここにきたときはルシャナからは全く魔力を感じなかったが、今は計り知れない膨大な量の魔力を感じる。他にも能力があるのだろうか……」
「自分じゃないみたいで……怖いです」
するとマンフリートはおいでと言って抱きしめてくれた。そしてどんなに変化しようと俺の妻だと言ってくれた。
その言葉だけで十分幸せだと思った。
だからその幸せを守れるなら何でもしようと思っている。
たとえ、それが戦争に駆り出されることになっても、自分が必要で皆の役に立つならやるつもりだ。ただ黙って後ろに隠れている場合ではない、こうみえても一応男なのだ。
けしてマンフリートたちのように腕っ節に自信があるわけではない。目覚めたばかりの治療能力を必要としているならばとことん使おう、くらいの気持ちはある。
「一つだけ。窮屈だろうが、この部屋からはけして出ないでくれ」
「わかりました」
「これからまた、作戦会議だ。何か暇つぶしの道具を持ってこよう。何かやりたいことはあるか?」
「じゃあ……未使用のシーツを一枚使いたいです。それからハサミと糸と針を」
「何を作るんだ?」
「皆さん、ハンカチを持っていないのでしょうか。すぐ袖で顔とか拭くんですよ。だからハンカチを縫って差し上げようかと。差し出がましいかとは思うのですが、暇ですし。最近は縫い物が面白いんですよ」
大量に作ったお守り袋を使用人達に配ったところ大好評だったのだ。
「……いいことなのだろうが、なんとなく嫌だな。俺の妻が作ったものを、部下達が持っているのが、癪しゃくに障るというか何というか……。いや、単なる嫉妬だな。心が狭いな……っ、俺もまだまだ人間出来ていないな」
まさか、そんな嬉しいことを言ってくれるとは思わなかったので、顔がふにゃっと崩れるのがわかる。
「こら、何をそんなにニヤけているんだ」
「だって……、マンフリート様が、嫉妬するなんてうれしいことを言ってくれるから」
「なんだ……? 俺だって嫉妬くらいするぞ。こんなかわいい奥さんがいるんだ。誰にも見せたくなかったのにな。俺が怪我なんかしなければ」
怪我と聞いただけで、もはや涙腺が勝手に反応してしまい、またもや涙が出てきた。
「間に合って、よかったです……うっ」
「ああ、すまん、また思い出させてしまって、俺としたことが」
マンフリートの前だから、安心して泣けるのだ。
ルシャナが落ち着くのを待ってから、二人分の食事を部屋まで運んでもらい、仲良く一緒に食べた。
それからマンフリートは鍵を閉めて出ていった。黙々と布を切り終えたルシャナは、鼻歌交じりにハンカチを一枚ずつ縫っていると、いつのまにか昼食の時間になっていた。
マンフリートがまだ縫っていたのかと苦笑しながら、昼食を運んできたときは時間の経過の速さに、本気で驚いたものだ。
それからまた会議があるといって、部屋を出て行った。予想だと明日にはリチャードあたりが到着しそうだと言っていたので、それまで退屈を紛らわすためにハンカチ作りは暇つぶしにちょうどよい。
『奥様、いらっしゃいますか? 私は将軍の部下のヤンメルというものです』
切羽詰まった声でそう言われて、思わず手を止めてドアのところへ駆け寄り、そういえば鍵は開けるなと言われているのを思い出し、ドア越しに応対する。
「な、なんでしょうか?」
『大変なんです、すぐ来てもらえますか? 将軍が大怪我をなさって、どうしても奥様の力が必要なんです、お願いします!』
「ど、どうして怪我を? 今は会議に出席しているのですよ?」
『……はい、会議中ですが、息抜きにと部下達に稽古をつけていたら、突然部下が乱心して、制御不能になり、将軍に斬りかかって、別の部下を庇い怪我をしました。背中からざっくりと……』
みなまで言う前に、心配のあまりにドアを開けると、そこにはおよそ軍人とは言い難い背格好と身なりの、黒ずくめにフードを被った男二人が立っていた。
瞬時に罠だと悟り、ドアを閉めようとしたのだが、寸でのところで足を入れられてしまい、そのまま部屋に押し入られてしまったのだ。
「いいか、騒ぐなよ。おまえが声を出せばここは一瞬で火の海に変わる手筈だ」
そんなことをすれば、みんなに迷惑がかかってしまう。自分が騙されたばかりに……。
それはだめだ。
ここは大切な駐屯地で、大切な人がいて、大切な人の部下達がいて。あんなにいい人たちを危険に晒すわけにはいかない。
「わかったら、おとなしくして一言も口を聞くな、いいな?」
ルシャナは黙ってコクコクと頷く。本当は恐怖のあまりに叫び声をあげたいのを必死に我慢しているのだ。あれだけ、開けるなと言われていたのに、マンフリートが怪我したと言われて気が動転して開けてしまったのだ。
しかしもう後悔をしても遅い。厄を自らが手招いてしまったのだから。
「ここを出て、俺たちのアジトへ行くから、眠ってもらうぞ」
「いや!」
声を出すなと言っただろうと頬にビンタを食らう。
痛くて泣きそうになったのだが、もう一人の男が呪文を唱えた途端に急に眠気が襲ってきた。
そして直後にルシャナの意識はぷつりと途切れた。
それもそのはずだ。愛する夫の腕の中で目覚めたのだから。まだマンフリートは眠っていたが、彼の片腕はルシャナの腰をがっちりと掴んでいる。
(あ、またヒゲが濃い。うふふ。胸毛って寝癖とかつくのかな?)
またもや胸毛にご執心なルシャナである。
気になって少し下に視線を這わせると、目的のもじゃもじゃが見つかる。普段はストレートの胸毛な気がしていたのだが、今見るとところどころカールしている部分もある。
(やっぱりこれは寝癖だよ~!)
少しくらいならわからないだろうと、こっそりと丸まった毛の束を摘まんでみる。するとすぐに手首を捕まれる。
「え~。狸寝入り…………っ、ふふっ」
「いたずらっ子に起こされた。おはよう、ルシャナ」
唇にチュッと軽いキスをくれた。お返しにルシャナもキスを返す。なんて蕩けそうに甘い朝なのだろう。とてもここが駐屯地とは思えない、快適な朝だ。
「マンフリート様。寂しかったです。でも、会えたからうれしいです」
ずっと昨日から言いたかった一言が言えて満足だ。
「ん。突然だったが俺もうれしかった。それから……本来こんな寝起きに言うことじゃないんだが、命を救ってくれてありがとう。本当に瀕死だったらしい」
昨日のことを思い出し、ルシャナの涙腺はたちまち崩壊してしまった。
「だ、って、鏡の中で、マンフリート様、が、倒れてて……」
「鏡? とはなんだ?」
説明をしたいのだが、泣きすぎて呼吸が苦しくてそれどころではなくなったので、一旦泣くだけ泣いてしまえと、マンフリートに背中をポンポンとやさしく叩かれる。その安心感からか、さらに涙が止め処なく出る。
ひとしきり泣いて落ち着いたころ、ようやく事情を話すことができた。
「ユージンのコレクションから鏡をもらったんだな……っ、わざとか? いやでも、そのタイミングだとまだ俺の報告書はユージンには届いていないはずなんだがな。たしかに昔から勘のするどい人だとは思っていたが、まさかな」
「それで一時間ごとに見ていたら、マンフリート様が倒れていたので、もうパニックになってしまって……そしたら鏡の中に吸い込まれて、気づいた時にはマンフリート様の目の前にいました」
正直、自分でも説明していて、なんという脈絡のない話だろうとは思ったが、すべて真実なのだ。
「ああ、嘘だなんて微塵も思っていない……やはり、伝説の力なのかもしれないな」
「え……っ、でも本当に僕はただの人間ですよ?」
いや、すでにただの人間ではないことを、まだ彼は知らない。寿命が消えかかったと思ったら三千年にも延びるし、これはすでに常識を越えている。
「こちらの世界にきて開花したのかもしれないぞ。昨日のがたまたまということはないだろう。例えば尋常ではない思いで俺を助けたのは奇跡だとしよう。しかしその後に駐屯地へ戻って隊長の怪我もあっという間に治しただろう? あれは奇跡ではなくて普通に治療だったと思うぞ。じゃあ、実験してみるか?」
何をしようというのだろう。でも、知りたい欲求のほうが強くて頷く。
するとマンフリートは、ベッドの支柱に引っかけていたベルトから短剣を取り出す。何をするのかとハラハラしていると、躊躇なく自分の腕を切りつける。
「きゃあ! な、何を!」
「ほら、落ち着け、実験だ。治療魔法を発動してくれ」
ハッとして、そうだこれは実験なんだと思いつつ、まさか実験のためにマンフリートが自らの腕を切りつけるとは思わなかった。安易に好奇心だけで頷いてしまった自分の思慮の足りなさに、愕然としたが、今は治療が先決だ。
どうやってやったのかも、呪文も知らない。
ただ頭の中で『治って』と念じるだけだ。
すると昨日と同じように手のひらが熱くなり、怪我したところに翳すだけで見事に消えてしまうのだ。
「傷が、消えてる……」
「やはり、夢でも何でもなくて、これは現実なんだ。しかし、すごい能力だな。他人の怪我をここまで完璧に治してしまうとは、まさに神の力に匹敵するのではないか……大げさではなくて、本当にそう思う」
ルシャナは信じられなかった。自分にそんな力があるのもそうだが、なぜ自分にそんな能力が現れたのかもさっぱりわからない。
生まれ持っていた能力で、こちらの世界で開花したのか、それともノースフィリアという魔法の国ゆえの相乗効果的に体が作り替えられてしまったのか。
一度死にそうになったのだし、それもあり得るかも知れない。
どちらにしても、結果は同じ。ルシャナには治療能力があるということだ。
「そういえば、ここにきたときはルシャナからは全く魔力を感じなかったが、今は計り知れない膨大な量の魔力を感じる。他にも能力があるのだろうか……」
「自分じゃないみたいで……怖いです」
するとマンフリートはおいでと言って抱きしめてくれた。そしてどんなに変化しようと俺の妻だと言ってくれた。
その言葉だけで十分幸せだと思った。
だからその幸せを守れるなら何でもしようと思っている。
たとえ、それが戦争に駆り出されることになっても、自分が必要で皆の役に立つならやるつもりだ。ただ黙って後ろに隠れている場合ではない、こうみえても一応男なのだ。
けしてマンフリートたちのように腕っ節に自信があるわけではない。目覚めたばかりの治療能力を必要としているならばとことん使おう、くらいの気持ちはある。
「一つだけ。窮屈だろうが、この部屋からはけして出ないでくれ」
「わかりました」
「これからまた、作戦会議だ。何か暇つぶしの道具を持ってこよう。何かやりたいことはあるか?」
「じゃあ……未使用のシーツを一枚使いたいです。それからハサミと糸と針を」
「何を作るんだ?」
「皆さん、ハンカチを持っていないのでしょうか。すぐ袖で顔とか拭くんですよ。だからハンカチを縫って差し上げようかと。差し出がましいかとは思うのですが、暇ですし。最近は縫い物が面白いんですよ」
大量に作ったお守り袋を使用人達に配ったところ大好評だったのだ。
「……いいことなのだろうが、なんとなく嫌だな。俺の妻が作ったものを、部下達が持っているのが、癪しゃくに障るというか何というか……。いや、単なる嫉妬だな。心が狭いな……っ、俺もまだまだ人間出来ていないな」
まさか、そんな嬉しいことを言ってくれるとは思わなかったので、顔がふにゃっと崩れるのがわかる。
「こら、何をそんなにニヤけているんだ」
「だって……、マンフリート様が、嫉妬するなんてうれしいことを言ってくれるから」
「なんだ……? 俺だって嫉妬くらいするぞ。こんなかわいい奥さんがいるんだ。誰にも見せたくなかったのにな。俺が怪我なんかしなければ」
怪我と聞いただけで、もはや涙腺が勝手に反応してしまい、またもや涙が出てきた。
「間に合って、よかったです……うっ」
「ああ、すまん、また思い出させてしまって、俺としたことが」
マンフリートの前だから、安心して泣けるのだ。
ルシャナが落ち着くのを待ってから、二人分の食事を部屋まで運んでもらい、仲良く一緒に食べた。
それからマンフリートは鍵を閉めて出ていった。黙々と布を切り終えたルシャナは、鼻歌交じりにハンカチを一枚ずつ縫っていると、いつのまにか昼食の時間になっていた。
マンフリートがまだ縫っていたのかと苦笑しながら、昼食を運んできたときは時間の経過の速さに、本気で驚いたものだ。
それからまた会議があるといって、部屋を出て行った。予想だと明日にはリチャードあたりが到着しそうだと言っていたので、それまで退屈を紛らわすためにハンカチ作りは暇つぶしにちょうどよい。
『奥様、いらっしゃいますか? 私は将軍の部下のヤンメルというものです』
切羽詰まった声でそう言われて、思わず手を止めてドアのところへ駆け寄り、そういえば鍵は開けるなと言われているのを思い出し、ドア越しに応対する。
「な、なんでしょうか?」
『大変なんです、すぐ来てもらえますか? 将軍が大怪我をなさって、どうしても奥様の力が必要なんです、お願いします!』
「ど、どうして怪我を? 今は会議に出席しているのですよ?」
『……はい、会議中ですが、息抜きにと部下達に稽古をつけていたら、突然部下が乱心して、制御不能になり、将軍に斬りかかって、別の部下を庇い怪我をしました。背中からざっくりと……』
みなまで言う前に、心配のあまりにドアを開けると、そこにはおよそ軍人とは言い難い背格好と身なりの、黒ずくめにフードを被った男二人が立っていた。
瞬時に罠だと悟り、ドアを閉めようとしたのだが、寸でのところで足を入れられてしまい、そのまま部屋に押し入られてしまったのだ。
「いいか、騒ぐなよ。おまえが声を出せばここは一瞬で火の海に変わる手筈だ」
そんなことをすれば、みんなに迷惑がかかってしまう。自分が騙されたばかりに……。
それはだめだ。
ここは大切な駐屯地で、大切な人がいて、大切な人の部下達がいて。あんなにいい人たちを危険に晒すわけにはいかない。
「わかったら、おとなしくして一言も口を聞くな、いいな?」
ルシャナは黙ってコクコクと頷く。本当は恐怖のあまりに叫び声をあげたいのを必死に我慢しているのだ。あれだけ、開けるなと言われていたのに、マンフリートが怪我したと言われて気が動転して開けてしまったのだ。
しかしもう後悔をしても遅い。厄を自らが手招いてしまったのだから。
「ここを出て、俺たちのアジトへ行くから、眠ってもらうぞ」
「いや!」
声を出すなと言っただろうと頬にビンタを食らう。
痛くて泣きそうになったのだが、もう一人の男が呪文を唱えた途端に急に眠気が襲ってきた。
そして直後にルシャナの意識はぷつりと途切れた。
10
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説

負けず嫌いオメガは、幼なじみアルファの腕のなか
こたま
BL
お隣同士のベータ家庭に、同じ頃二人の男の子が産まれた。何でも一緒に競いあって育った二人だが、アルファとオメガであると診断され、関係が変わっていく。包容美形アルファ攻×頑張るかわいいオメガ受
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない
muku
BL
猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。
竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。
猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。
どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。
勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる