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31.ルシャナ
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ルシャナは、ここ数日でもっとも心地の良い目覚めをした。
それもそのはずだ。愛する夫の腕の中で目覚めたのだから。まだマンフリートは眠っていたが、彼の片腕はルシャナの腰をがっちりと掴んでいる。
(あ、またヒゲが濃い。うふふ。胸毛って寝癖とかつくのかな?)
またもや胸毛にご執心なルシャナである。
気になって少し下に視線を這わせると、目的のもじゃもじゃが見つかる。普段はストレートの胸毛な気がしていたのだが、今見るとところどころカールしている部分もある。
(やっぱりこれは寝癖だよ~!)
少しくらいならわからないだろうと、こっそりと丸まった毛の束を摘まんでみる。するとすぐに手首を捕まれる。
「え~。狸寝入り…………っ、ふふっ」
「いたずらっ子に起こされた。おはよう、ルシャナ」
唇にチュッと軽いキスをくれた。お返しにルシャナもキスを返す。なんて蕩けそうに甘い朝なのだろう。とてもここが駐屯地とは思えない、快適な朝だ。
「マンフリート様。寂しかったです。でも、会えたからうれしいです」
ずっと昨日から言いたかった一言が言えて満足だ。
「ん。突然だったが俺もうれしかった。それから……本来こんな寝起きに言うことじゃないんだが、命を救ってくれてありがとう。本当に瀕死だったらしい」
昨日のことを思い出し、ルシャナの涙腺はたちまち崩壊してしまった。
「だ、って、鏡の中で、マンフリート様、が、倒れてて……」
「鏡? とはなんだ?」
説明をしたいのだが、泣きすぎて呼吸が苦しくてそれどころではなくなったので、一旦泣くだけ泣いてしまえと、マンフリートに背中をポンポンとやさしく叩かれる。その安心感からか、さらに涙が止め処なく出る。
ひとしきり泣いて落ち着いたころ、ようやく事情を話すことができた。
「ユージンのコレクションから鏡をもらったんだな……っ、わざとか? いやでも、そのタイミングだとまだ俺の報告書はユージンには届いていないはずなんだがな。たしかに昔から勘のするどい人だとは思っていたが、まさかな」
「それで一時間ごとに見ていたら、マンフリート様が倒れていたので、もうパニックになってしまって……そしたら鏡の中に吸い込まれて、気づいた時にはマンフリート様の目の前にいました」
正直、自分でも説明していて、なんという脈絡のない話だろうとは思ったが、すべて真実なのだ。
「ああ、嘘だなんて微塵も思っていない……やはり、伝説の力なのかもしれないな」
「え……っ、でも本当に僕はただの人間ですよ?」
いや、すでにただの人間ではないことを、まだ彼は知らない。寿命が消えかかったと思ったら三千年にも延びるし、これはすでに常識を越えている。
「こちらの世界にきて開花したのかもしれないぞ。昨日のがたまたまということはないだろう。例えば尋常ではない思いで俺を助けたのは奇跡だとしよう。しかしその後に駐屯地へ戻って隊長の怪我もあっという間に治しただろう? あれは奇跡ではなくて普通に治療だったと思うぞ。じゃあ、実験してみるか?」
何をしようというのだろう。でも、知りたい欲求のほうが強くて頷く。
するとマンフリートは、ベッドの支柱に引っかけていたベルトから短剣を取り出す。何をするのかとハラハラしていると、躊躇なく自分の腕を切りつける。
「きゃあ! な、何を!」
「ほら、落ち着け、実験だ。治療魔法を発動してくれ」
ハッとして、そうだこれは実験なんだと思いつつ、まさか実験のためにマンフリートが自らの腕を切りつけるとは思わなかった。安易に好奇心だけで頷いてしまった自分の思慮の足りなさに、愕然としたが、今は治療が先決だ。
どうやってやったのかも、呪文も知らない。
ただ頭の中で『治って』と念じるだけだ。
すると昨日と同じように手のひらが熱くなり、怪我したところに翳すだけで見事に消えてしまうのだ。
「傷が、消えてる……」
「やはり、夢でも何でもなくて、これは現実なんだ。しかし、すごい能力だな。他人の怪我をここまで完璧に治してしまうとは、まさに神の力に匹敵するのではないか……大げさではなくて、本当にそう思う」
ルシャナは信じられなかった。自分にそんな力があるのもそうだが、なぜ自分にそんな能力が現れたのかもさっぱりわからない。
生まれ持っていた能力で、こちらの世界で開花したのか、それともノースフィリアという魔法の国ゆえの相乗効果的に体が作り替えられてしまったのか。
一度死にそうになったのだし、それもあり得るかも知れない。
どちらにしても、結果は同じ。ルシャナには治療能力があるということだ。
「そういえば、ここにきたときはルシャナからは全く魔力を感じなかったが、今は計り知れない膨大な量の魔力を感じる。他にも能力があるのだろうか……」
「自分じゃないみたいで……怖いです」
するとマンフリートはおいでと言って抱きしめてくれた。そしてどんなに変化しようと俺の妻だと言ってくれた。
その言葉だけで十分幸せだと思った。
だからその幸せを守れるなら何でもしようと思っている。
たとえ、それが戦争に駆り出されることになっても、自分が必要で皆の役に立つならやるつもりだ。ただ黙って後ろに隠れている場合ではない、こうみえても一応男なのだ。
けしてマンフリートたちのように腕っ節に自信があるわけではない。目覚めたばかりの治療能力を必要としているならばとことん使おう、くらいの気持ちはある。
「一つだけ。窮屈だろうが、この部屋からはけして出ないでくれ」
「わかりました」
「これからまた、作戦会議だ。何か暇つぶしの道具を持ってこよう。何かやりたいことはあるか?」
「じゃあ……未使用のシーツを一枚使いたいです。それからハサミと糸と針を」
「何を作るんだ?」
「皆さん、ハンカチを持っていないのでしょうか。すぐ袖で顔とか拭くんですよ。だからハンカチを縫って差し上げようかと。差し出がましいかとは思うのですが、暇ですし。最近は縫い物が面白いんですよ」
大量に作ったお守り袋を使用人達に配ったところ大好評だったのだ。
「……いいことなのだろうが、なんとなく嫌だな。俺の妻が作ったものを、部下達が持っているのが、癪しゃくに障るというか何というか……。いや、単なる嫉妬だな。心が狭いな……っ、俺もまだまだ人間出来ていないな」
まさか、そんな嬉しいことを言ってくれるとは思わなかったので、顔がふにゃっと崩れるのがわかる。
「こら、何をそんなにニヤけているんだ」
「だって……、マンフリート様が、嫉妬するなんてうれしいことを言ってくれるから」
「なんだ……? 俺だって嫉妬くらいするぞ。こんなかわいい奥さんがいるんだ。誰にも見せたくなかったのにな。俺が怪我なんかしなければ」
怪我と聞いただけで、もはや涙腺が勝手に反応してしまい、またもや涙が出てきた。
「間に合って、よかったです……うっ」
「ああ、すまん、また思い出させてしまって、俺としたことが」
マンフリートの前だから、安心して泣けるのだ。
ルシャナが落ち着くのを待ってから、二人分の食事を部屋まで運んでもらい、仲良く一緒に食べた。
それからマンフリートは鍵を閉めて出ていった。黙々と布を切り終えたルシャナは、鼻歌交じりにハンカチを一枚ずつ縫っていると、いつのまにか昼食の時間になっていた。
マンフリートがまだ縫っていたのかと苦笑しながら、昼食を運んできたときは時間の経過の速さに、本気で驚いたものだ。
それからまた会議があるといって、部屋を出て行った。予想だと明日にはリチャードあたりが到着しそうだと言っていたので、それまで退屈を紛らわすためにハンカチ作りは暇つぶしにちょうどよい。
『奥様、いらっしゃいますか? 私は将軍の部下のヤンメルというものです』
切羽詰まった声でそう言われて、思わず手を止めてドアのところへ駆け寄り、そういえば鍵は開けるなと言われているのを思い出し、ドア越しに応対する。
「な、なんでしょうか?」
『大変なんです、すぐ来てもらえますか? 将軍が大怪我をなさって、どうしても奥様の力が必要なんです、お願いします!』
「ど、どうして怪我を? 今は会議に出席しているのですよ?」
『……はい、会議中ですが、息抜きにと部下達に稽古をつけていたら、突然部下が乱心して、制御不能になり、将軍に斬りかかって、別の部下を庇い怪我をしました。背中からざっくりと……』
みなまで言う前に、心配のあまりにドアを開けると、そこにはおよそ軍人とは言い難い背格好と身なりの、黒ずくめにフードを被った男二人が立っていた。
瞬時に罠だと悟り、ドアを閉めようとしたのだが、寸でのところで足を入れられてしまい、そのまま部屋に押し入られてしまったのだ。
「いいか、騒ぐなよ。おまえが声を出せばここは一瞬で火の海に変わる手筈だ」
そんなことをすれば、みんなに迷惑がかかってしまう。自分が騙されたばかりに……。
それはだめだ。
ここは大切な駐屯地で、大切な人がいて、大切な人の部下達がいて。あんなにいい人たちを危険に晒すわけにはいかない。
「わかったら、おとなしくして一言も口を聞くな、いいな?」
ルシャナは黙ってコクコクと頷く。本当は恐怖のあまりに叫び声をあげたいのを必死に我慢しているのだ。あれだけ、開けるなと言われていたのに、マンフリートが怪我したと言われて気が動転して開けてしまったのだ。
しかしもう後悔をしても遅い。厄を自らが手招いてしまったのだから。
「ここを出て、俺たちのアジトへ行くから、眠ってもらうぞ」
「いや!」
声を出すなと言っただろうと頬にビンタを食らう。
痛くて泣きそうになったのだが、もう一人の男が呪文を唱えた途端に急に眠気が襲ってきた。
そして直後にルシャナの意識はぷつりと途切れた。
それもそのはずだ。愛する夫の腕の中で目覚めたのだから。まだマンフリートは眠っていたが、彼の片腕はルシャナの腰をがっちりと掴んでいる。
(あ、またヒゲが濃い。うふふ。胸毛って寝癖とかつくのかな?)
またもや胸毛にご執心なルシャナである。
気になって少し下に視線を這わせると、目的のもじゃもじゃが見つかる。普段はストレートの胸毛な気がしていたのだが、今見るとところどころカールしている部分もある。
(やっぱりこれは寝癖だよ~!)
少しくらいならわからないだろうと、こっそりと丸まった毛の束を摘まんでみる。するとすぐに手首を捕まれる。
「え~。狸寝入り…………っ、ふふっ」
「いたずらっ子に起こされた。おはよう、ルシャナ」
唇にチュッと軽いキスをくれた。お返しにルシャナもキスを返す。なんて蕩けそうに甘い朝なのだろう。とてもここが駐屯地とは思えない、快適な朝だ。
「マンフリート様。寂しかったです。でも、会えたからうれしいです」
ずっと昨日から言いたかった一言が言えて満足だ。
「ん。突然だったが俺もうれしかった。それから……本来こんな寝起きに言うことじゃないんだが、命を救ってくれてありがとう。本当に瀕死だったらしい」
昨日のことを思い出し、ルシャナの涙腺はたちまち崩壊してしまった。
「だ、って、鏡の中で、マンフリート様、が、倒れてて……」
「鏡? とはなんだ?」
説明をしたいのだが、泣きすぎて呼吸が苦しくてそれどころではなくなったので、一旦泣くだけ泣いてしまえと、マンフリートに背中をポンポンとやさしく叩かれる。その安心感からか、さらに涙が止め処なく出る。
ひとしきり泣いて落ち着いたころ、ようやく事情を話すことができた。
「ユージンのコレクションから鏡をもらったんだな……っ、わざとか? いやでも、そのタイミングだとまだ俺の報告書はユージンには届いていないはずなんだがな。たしかに昔から勘のするどい人だとは思っていたが、まさかな」
「それで一時間ごとに見ていたら、マンフリート様が倒れていたので、もうパニックになってしまって……そしたら鏡の中に吸い込まれて、気づいた時にはマンフリート様の目の前にいました」
正直、自分でも説明していて、なんという脈絡のない話だろうとは思ったが、すべて真実なのだ。
「ああ、嘘だなんて微塵も思っていない……やはり、伝説の力なのかもしれないな」
「え……っ、でも本当に僕はただの人間ですよ?」
いや、すでにただの人間ではないことを、まだ彼は知らない。寿命が消えかかったと思ったら三千年にも延びるし、これはすでに常識を越えている。
「こちらの世界にきて開花したのかもしれないぞ。昨日のがたまたまということはないだろう。例えば尋常ではない思いで俺を助けたのは奇跡だとしよう。しかしその後に駐屯地へ戻って隊長の怪我もあっという間に治しただろう? あれは奇跡ではなくて普通に治療だったと思うぞ。じゃあ、実験してみるか?」
何をしようというのだろう。でも、知りたい欲求のほうが強くて頷く。
するとマンフリートは、ベッドの支柱に引っかけていたベルトから短剣を取り出す。何をするのかとハラハラしていると、躊躇なく自分の腕を切りつける。
「きゃあ! な、何を!」
「ほら、落ち着け、実験だ。治療魔法を発動してくれ」
ハッとして、そうだこれは実験なんだと思いつつ、まさか実験のためにマンフリートが自らの腕を切りつけるとは思わなかった。安易に好奇心だけで頷いてしまった自分の思慮の足りなさに、愕然としたが、今は治療が先決だ。
どうやってやったのかも、呪文も知らない。
ただ頭の中で『治って』と念じるだけだ。
すると昨日と同じように手のひらが熱くなり、怪我したところに翳すだけで見事に消えてしまうのだ。
「傷が、消えてる……」
「やはり、夢でも何でもなくて、これは現実なんだ。しかし、すごい能力だな。他人の怪我をここまで完璧に治してしまうとは、まさに神の力に匹敵するのではないか……大げさではなくて、本当にそう思う」
ルシャナは信じられなかった。自分にそんな力があるのもそうだが、なぜ自分にそんな能力が現れたのかもさっぱりわからない。
生まれ持っていた能力で、こちらの世界で開花したのか、それともノースフィリアという魔法の国ゆえの相乗効果的に体が作り替えられてしまったのか。
一度死にそうになったのだし、それもあり得るかも知れない。
どちらにしても、結果は同じ。ルシャナには治療能力があるということだ。
「そういえば、ここにきたときはルシャナからは全く魔力を感じなかったが、今は計り知れない膨大な量の魔力を感じる。他にも能力があるのだろうか……」
「自分じゃないみたいで……怖いです」
するとマンフリートはおいでと言って抱きしめてくれた。そしてどんなに変化しようと俺の妻だと言ってくれた。
その言葉だけで十分幸せだと思った。
だからその幸せを守れるなら何でもしようと思っている。
たとえ、それが戦争に駆り出されることになっても、自分が必要で皆の役に立つならやるつもりだ。ただ黙って後ろに隠れている場合ではない、こうみえても一応男なのだ。
けしてマンフリートたちのように腕っ節に自信があるわけではない。目覚めたばかりの治療能力を必要としているならばとことん使おう、くらいの気持ちはある。
「一つだけ。窮屈だろうが、この部屋からはけして出ないでくれ」
「わかりました」
「これからまた、作戦会議だ。何か暇つぶしの道具を持ってこよう。何かやりたいことはあるか?」
「じゃあ……未使用のシーツを一枚使いたいです。それからハサミと糸と針を」
「何を作るんだ?」
「皆さん、ハンカチを持っていないのでしょうか。すぐ袖で顔とか拭くんですよ。だからハンカチを縫って差し上げようかと。差し出がましいかとは思うのですが、暇ですし。最近は縫い物が面白いんですよ」
大量に作ったお守り袋を使用人達に配ったところ大好評だったのだ。
「……いいことなのだろうが、なんとなく嫌だな。俺の妻が作ったものを、部下達が持っているのが、癪しゃくに障るというか何というか……。いや、単なる嫉妬だな。心が狭いな……っ、俺もまだまだ人間出来ていないな」
まさか、そんな嬉しいことを言ってくれるとは思わなかったので、顔がふにゃっと崩れるのがわかる。
「こら、何をそんなにニヤけているんだ」
「だって……、マンフリート様が、嫉妬するなんてうれしいことを言ってくれるから」
「なんだ……? 俺だって嫉妬くらいするぞ。こんなかわいい奥さんがいるんだ。誰にも見せたくなかったのにな。俺が怪我なんかしなければ」
怪我と聞いただけで、もはや涙腺が勝手に反応してしまい、またもや涙が出てきた。
「間に合って、よかったです……うっ」
「ああ、すまん、また思い出させてしまって、俺としたことが」
マンフリートの前だから、安心して泣けるのだ。
ルシャナが落ち着くのを待ってから、二人分の食事を部屋まで運んでもらい、仲良く一緒に食べた。
それからマンフリートは鍵を閉めて出ていった。黙々と布を切り終えたルシャナは、鼻歌交じりにハンカチを一枚ずつ縫っていると、いつのまにか昼食の時間になっていた。
マンフリートがまだ縫っていたのかと苦笑しながら、昼食を運んできたときは時間の経過の速さに、本気で驚いたものだ。
それからまた会議があるといって、部屋を出て行った。予想だと明日にはリチャードあたりが到着しそうだと言っていたので、それまで退屈を紛らわすためにハンカチ作りは暇つぶしにちょうどよい。
『奥様、いらっしゃいますか? 私は将軍の部下のヤンメルというものです』
切羽詰まった声でそう言われて、思わず手を止めてドアのところへ駆け寄り、そういえば鍵は開けるなと言われているのを思い出し、ドア越しに応対する。
「な、なんでしょうか?」
『大変なんです、すぐ来てもらえますか? 将軍が大怪我をなさって、どうしても奥様の力が必要なんです、お願いします!』
「ど、どうして怪我を? 今は会議に出席しているのですよ?」
『……はい、会議中ですが、息抜きにと部下達に稽古をつけていたら、突然部下が乱心して、制御不能になり、将軍に斬りかかって、別の部下を庇い怪我をしました。背中からざっくりと……』
みなまで言う前に、心配のあまりにドアを開けると、そこにはおよそ軍人とは言い難い背格好と身なりの、黒ずくめにフードを被った男二人が立っていた。
瞬時に罠だと悟り、ドアを閉めようとしたのだが、寸でのところで足を入れられてしまい、そのまま部屋に押し入られてしまったのだ。
「いいか、騒ぐなよ。おまえが声を出せばここは一瞬で火の海に変わる手筈だ」
そんなことをすれば、みんなに迷惑がかかってしまう。自分が騙されたばかりに……。
それはだめだ。
ここは大切な駐屯地で、大切な人がいて、大切な人の部下達がいて。あんなにいい人たちを危険に晒すわけにはいかない。
「わかったら、おとなしくして一言も口を聞くな、いいな?」
ルシャナは黙ってコクコクと頷く。本当は恐怖のあまりに叫び声をあげたいのを必死に我慢しているのだ。あれだけ、開けるなと言われていたのに、マンフリートが怪我したと言われて気が動転して開けてしまったのだ。
しかしもう後悔をしても遅い。厄を自らが手招いてしまったのだから。
「ここを出て、俺たちのアジトへ行くから、眠ってもらうぞ」
「いや!」
声を出すなと言っただろうと頬にビンタを食らう。
痛くて泣きそうになったのだが、もう一人の男が呪文を唱えた途端に急に眠気が襲ってきた。
そして直後にルシャナの意識はぷつりと途切れた。
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