強面な将軍は花嫁を愛でる

小町もなか

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30.マンフリート

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 駐屯地に戻ったマンフリートは、すぐに報告書の作成に取りかかった。


 今回の事件の詳細な報告とルシャナのことについてだ。もちろん、途中で奪われてもいいように、厳重なロックがかかっている書物だ。開けられるのはユージンただ一人だ。ラウル王とて開けられない書物だ。だから安心してルシャナの件を詳しく書けるのだ。


 今回の事件の経緯を文章化するにしても、いきなり冒頭部分から筆が止まる。それはいまいちなぜ自分が刺されたか覚えていないからだ。そのことももちろん書かなければならない。


 いつものように斥候せっこうを一人行かせていたのだが、まったく戻ってこないのだ。隊を休ませてもう一人斥候を先に行かせたのだが、しばらくして休憩場所に最初に行かせた斥候が戻ってきたのだ。


 なぜか顔には覇気はきがなく、どうしたのかと会話をした時、いきなり腹部に激痛が走ったと同時に、刺されたのだとようやく気づいた。


 なぜと思うまもなくその斥候は逃げだそうとして、異変に気づいた部下達に取り押さえられたのだが、抵抗がなかったので斥候を立たせようとしたら、彼はすでに死んでいたのだ。

 しかも目の前で一瞬にして彼は砂になり、跡形もなく消え去ってしまったのだそうだ。


(これが……闇魔法だというのか?)


 そこで初めて呪詛とは違う、もっと恐ろしい闇魔法という言葉が頭に浮かぶ。そのことも念のために報告書に記した。

 結局二人の斥候を失った。ルシャナが来てくれなければ、自分も同じ目に遭っていただろうと最後に締め括ったのだ。


 だから報告書にも自論を一言書き添えた。結局二人の斥候を失った。ルシャナが来てくれなければ、自分も同じ目に遭っていただろうと最後に締め括ったのだ。


 追記で、但し敵にルシャナの力を見られてしまった可能性ありと記した。

 書き終えたマンフリートは、王城へ早馬を出した。







 報告書を書き終えたマンフリートは気持ちが急く中、足早に食堂に向かう。

 戒厳令かいげんれいは敷いたのだが、当然この駐屯地内にはすでに全員に知れ渡っていることだ。つまり、ルシャナの正体が分かってしまったというわけだ。


 歓迎会を開くと料理人は張り切り、皆で会場作りをしていたので、止めようがなかった。それに、ルシャナの力を試そうと、重傷を負っていた隊長の傷も一瞬にして治してしまったのだ。


「ルシャナ様! こちらは我が地方の名物なんですよ。是非食べてみてください!」


「いや、こちらのほうがおそらくお口に合うかと思いますよ。一口サイズにカットしましたから」


 輪の中心にいるのは、もちろん愛する妻だ。

 野獣の中に花が一輪咲いている。誰にも見せたくはなかったのに……この歓待ぶりは少し異常な盛り上がりだと思ったのだが、むさ苦しい男所帯に、可憐な花があればみなが愛でたいと思うのは当然のことだ。 


 さらには全員の傷や怪我を治してしまったのだ。

 これ以上適任な人材はどこにもいない。だから尋常ではないテンションの高さなのだが、本当はさっさと連れ帰りたい、そんな衝動と戦っている最中である。


 狭量きょうりょうな男だと思われたくない一心で、マンフリートは努めて平静を装い、食堂に入る。


「将軍! こちらへどうぞ!」


 まるで披露宴か何かのようなひな壇の席に座らせられる。

 ルシャナはマンフリートの姿を認めてホッとした表情を浮かべる。


(ああ、なんてかわいい人なのだろうか。それだけじゃない。あんなに強力な治療魔法と呼ぶべきか、その力を持つ人は他に知らない。これこそがルシャナの、伝説の白き異界人の力に違いない)


 基本的にみな癒しの力は持っているが、それは自分を治療するためであり、他者のために使うには微弱なのだ。医術者も抜きんでているというわけではなく、彼らは薬草や調合で治癒するのであって、魔力を使うことはあまりない。


 ラウル王とて、他人を治すというのをマンフリートは一度も見たことがない。


 タペストリーにあった伝説の白き異界人は兵士の格好をし、兵士を先導して戦う様子が織り込まれていた。だが目の前にいる異界人の妻は、似ても似つかぬほど華奢だし、けして戦える人ではないのだが、もっとも重要な命に関する力を有しているのだ。


 これほどまでに強力な味方など存在しないだろう。


 ということはつまり、それだけ敵にとっては驚異であり、標的になりやすいということだ。何が何でも守り抜いて見せる。


「ルシャナ、ありがとう。おかげで助かった。ここにいる全員が感謝している」


 すると途端にルシャナは顔を赤くして、いえ、と首を横に振る。内気な妻は大勢の大男に囲まれて、かなり萎縮しているのだ。


 そんな中、宴会は始まったのだ。

 ルシャナはみんなの豪快な食事の量に目を丸くしていた。それに比べたらまるで彼の食べる量は、小鳥のえさ並みに少ない。ついばむ程度に小さくて可愛らしい口に食べ物を運ぶのだ。


 気づくと皆がボーッとルシャナを見上げているので、これは大変だと頭を抱えた。


 早急に城へ戻したいのだが、おそらくは機転を利かせたリチャードが、チャドラを伴ってすでにこちらへ向かっているかもしれないと予想している。


 その一団にユージンが混じっているような気がしないでもないが、とにかく数日はここで過ごしてもらうので、あとで注意をいくつか発令しなければと、マンフリートはため息をついた。


 名残惜しいと言いながらも宴は終わり、明日に備えて兵士たちは早々に部屋へ戻っていった。


「ルシャナ、もう少し会議があるから、それまで部屋で鍵をかけて、カーテンは締めて待っていてくれるか? 詳しい話をぜんぜん聞いていないからな」


 どうしてここに飛んできたのか、聞く暇がないままマンフリートはせわしなく仕事をしていたので、疲れているとは思うが、聞かなければならなかった。


「わかりました。部屋で待っています」


 ルシャナは笑顔で答えた。ああ、ここが駐屯地でなければ。将軍でなければ。今すぐに職務放棄をして妻の元にいたかったのだが……。甘ったるいことはすべてが終わってからだ。


 再び将軍の顔を取り戻し、マンフリートは自分を奮い立たせて会議室へ向かった。








「待ち伏せは全部で五人。指示通り全員殺しました。斥候の兵士ですが……近くで遺体が発見されました」


 本来ならば口を割らせるために一人残して置くのだが、今回はルシャナがいたので、それで正解だ。


「捕虜の男のところへ行く。今日あったことの見解を聞こう」


 伝令に行った者が帰ってきた。ユージンからの返信だ。急いで開封をする。マンフリートは急いでその文章を読み、驚愕に目を見開く。


「将軍、なんと書かれていたのです?」


 隊長に手紙を渡す。これは、いいのか悪いのか。なんという偶然。


「な、なんですか、これ!」


 ユージンからの推測と今後の作戦によると、敵の目的はもしかしたらルシャナではないかと言うのだ。


 それはラウル王がこの地がおかしいと言い出したのと、この駐屯地の周りが俄に活発になってきたらしい時期がまず一致する。そして敵らしき正体が露わになったのは、すべてルシャナがこの世界に現れてから起こっているのだ。


 ユージンはさらに、捕虜が放った言葉に引っかかりを覚えたのだそうだ。


『この世界にもたらされた恩恵』はまさにルシャナを表しており、続きの『まもなく手に入るだろう』というのはルシャナを誘拐する予定だと示唆しさしているのではと解釈できると、恐ろしいことを言ってのけた。


 どこから情報が漏れたのか、あるいはどこにスパイが潜んでいたのかはわからない。しかし、呪詛からも分かるように、彼らは闇魔法の使い手で間違いないだろう。


 呪詛よりもさらに恐ろしい闇魔法は痕跡が禍々しい。そして解除も回避も大変難しく、危険な魔法だ。それは捕虜の男の証言とマンフリートを刺した武器から闇魔法の残像であると確認した。


 ただ彼らの目的の真偽とルシャナの関係がまだ特定することができていない。我々にとっては突発的なことだが、それが表面化しただけで実はかなり以前から用意周到に準備された計画ではないか、とユージンは疑っているのだ。


 今回のように、正体不明のままこちらを嘲笑あざわらうかのような襲撃の仕方には、我々が思った以上に不穏分子たちの統率力を垣間見た気がした。


 王城にスパイがいるのか、それともバウムガルデン領にスパイが潜んでいるのか、それはわからない。いずれルシャナの正体は国中いや、ノースフィリア全土が知ることとなるだろうが、それはまだもっとずっと先のことだと思っていた。


 精神的に不安定なルシャナがようやく落ち着いてきた頃なのに、また問題が発生してしまったら彼の心が耐えられるのか心配になる。


「これは二人だけの胸の内に秘めて置いてくれ。ひとまず捕虜のところへ行くぞ」


 地下へ向かい、男のいる部屋へと入った。

 マンフリートは捕虜に、侵入者を捕らえたと鎌をかけたら、なんと驚愕の事実を知ることとなった。


 この駐屯地は彼らのアジトから裸同然の丸見えであり、すでに幾度となく侵入していたというのだ。


 さらに彼らは世界中にスパイを放ち、情報を得ること、情報操作を得意としているとさらに恐ろしい事実を明かされた。そして捕虜もそんなうちの一人だと言われ、その方法に関しても、マンフリートの予想を遥かに超えた事態が起こっていたのだ。


 闇魔法である変化へんげの術を使い、住人になりすましてそこで生活し、結婚し、子供を作るという恐ろしいことが行われていた。つまりは、一朝一夕にはできないのだ。いつかのときに、すでに数百年かけて準備してきたというのか。


 なんのために? ルシャナを捕獲するためにそんな長い間潜入していたというのか?


 彼らはルシャナがこの世界へやってくる前から、ルシャナのことを知っていたというのか?


 毒づきたくなるのを辛うじて押さえる。それが本当ならば今後は自分の領地に住む小国からの移民たちをも疑わなくてはならなくなってしまう。


 このサカディア王国は夜行性動物が本性ではないと、王都周辺の領地には長い間住めない。

 そう捕虜に問いかけると頷き、外見だけを变化させるだけなので、完全に中身までなりすますことはできない。王都でのスパイ活動はもっぱら行商人か旅人がメインだという。


 ただバウムガルデン領のように、十小国に近い領地には太陽が登るため、実際に人間が住み着いている。

 先日ルシャナを連れて行った町にも数家族の人間が住み着き、商売をしている。


(彼らは古くからの知り合いで、とてもいい人たちだが……それさえも疑わなくてはならないのか?)


 今の会話で不安要素しかなかったが、とる物もとりあえずマンフリートは急ぎ足で、ルシャナの下へ駆け戻った。


「いた…………」


 ルシャナの姿をこの目で確認し、マンフリートは心の底から安堵した。


 予想通りではあったが、今日はいろいろなことが一度に起こったのと、初めての魔力を使ったことで、本人は無自覚のまま相当消耗し切っていたのだろう。


 ぐっすりとベッドの上で上掛けも掛けずに眠っていた。というより待ちくたびれて寝てしまったというほうが正しいのだろう。


 起こさないように厚ぼったいローブとドレスを脱がせて、薄い下着一枚にしてから上掛けをかけてやる。そして自分も隣に潜り込む。


 すると、ルシャナは暖かいほうへ無意識なのか、すり寄ってくる。


(なんと、かわいらしい……。この小さな体にあんな力が宿っていたとは。いや、開花したのか? 寿命といい、驚きしかないな。俺は本当に、ルシャナに助けられたんだな……。瞬間移動をするとは、計り知れない能力があるな……)


 敵がどこまでルシャナの力を認識しているのかはわからない。


 腕の中で寝息を立て、安心しきって眠る妻に、この寝顔を絶対に守ってみせると誓った。
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