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25.マンフリート
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❃❃❃
「一日半で国境まで行くぞ」
マンフリートが全員に伝えると、同行する部下たちはギョッとした表情で、将軍を見る。
無茶は承知だが、できないことはない。マンフリートは本気でそう思っているが、部下はどうかはしらない。付いて来られない者は、あとからゆっくり来ればいいと言い置いて、馬に飛び乗った。
脇目も振らずにひた走り、それからちょうど一日半が経過しようとしていたとき、ようやく目的地の国境警備隊の駐屯地が見えてきた。後ろを振り向くと、なんと部下が誰一人ついてきていなかった。
いつのまにか、彼方後方へと置いてきてしまったようだ。部下はそのうち来るだろうと、苦笑しながら馬を降りる。中から門番係数名が駆け寄ってくる。
「バウムガルデン将軍! お、お一人ですか?」
「いや、あと三十人いるぞ。もう少ししたら到着するだろう。それで、警備隊長はいるか?」
マンフリートはまずは負傷した隊長の下へ向かうのを優先した。
「はい、ただいま救護室にいらっしゃいます」
「わかった。案内してくれ」
報告では、数名の兵士が軽い怪我をしたが、一番深く傷を負ったのは、先頭にいた隊長だという。命に別状はないということだし、もともと熊の本性を持つ者なので、自己再生能力に長けているのだ。
自己回復の魔法が追いつかないということは、相手は相当強い魔力を有する敵ということになる。
隊長が横たわっているベッド脇に立つと、彼は身を乗り出して、マンフリートに挨拶をしようとしたので、起き上がらないように制する。
「す、みません、バウムガルデン将軍」
報告書には突然の閃光を浴びると同時に、一瞬にしてその場にいた全員が切り裂かれたという。当然防御魔法は発動したというが、最前線にいた隊長だけまともに攻撃を受けてしまい、報告書は副隊長が急ぎ王城へ送ったという。
「無事でよかった。調子はどうだ?」
「大丈夫、です。肩と右手を負傷しましたが、みんなが怪我を負いながらも、私に癒しの力を分けてくれましたので、大事には至りませんでした」
「そうか。正体はわからなかったのだな? でなければ報告書にはきっちり書いておくだろうから。どういう感じだったとか、文章にしきれなかった部分を知りたくて飛んできたのだ。なんでもいいから、感覚的なことでもよいから、何か気づいたことはあるか?」
「なにやら禍々しい気配が漂っていて、普通の人間ではないなと思いました。実は切り裂かれたのではなく、鋭い光の矢だったのではと思います」
「報告書にはなかったな」
「おそらく、最前列にいた私しか気づかなかったのだと思います。瞬時に刺さった矢尻をポケットに突っ込みました」
枕元に置いてある袋から取り出し、手渡された。形や大きさはどこにでもある平凡な形だ。
「……これがその、相手が放った矢の矢尻か?」
「は、い。それを素手で掴むのが精一杯で」
それで極端に右手が壊死寸前なのだ。十人掛かりで一晩治療してもこの程度だ。それほど強力な魔法が掛けられたのだ。
「いったいどんな種類の魔法なんだ? 探知魔法が使える者はいなかったか?」
「いないですね……」
「とりあえず、搬送は、難しいだろうから、数日後には王直属の医術者が到着する。もう少しの辛抱だからな。よく証拠を集めてくれた」
「いえ。任務ですから」
傷口から漏れ出る異様な気は、数々の魔傷を見てきたマンフリートですら見たことがなく、微かに残る気配もいままでになかったものだ。しかもそれは簡単に扱えるような魔力ではない気がして、これはラウル王ではなければわからないかもしれない。
すぐに、王の下へ届けるよう手配した。
それから携わったすべての者からの報告を直接聞き終えたマンフリートは、今後の作戦について頭を張り巡らせていた。
「ラウル王の偵察魔法でも、あそこらへんは逆に何も見えないとおっしゃっていましたよね? というか何かが結界を張って見えないようにしている、ということなんですかね?」
副隊長は、隊長の代理で目下作戦会議中だ。
「総合すると、そうなるな。ここ一月ほどで急激に活発になったのか? 前触れもなかったのか?」
「はい、まったくありませんでした。どこからかやってきたのですかね。ナヴァエラ王国から何か情報らしきものはありますか? 」
「いや、今のところとくに何も情報はない。その件に関して、王に確認しておこう」
「それでは、捕らえたやつのところに行きましょう。自殺しないように何重にも結界を張り巡らせて、猿轡も噛ませてあります。まだ尋問も何もしていません」
駐屯地の地下には魔獣を捕獲して置く場所、犯人を拷問する場所、とにかく人目につかない案件を処理する部屋がいくつかある。
尋問部屋の前にくると、見張り兵が二人立っていた。
覗き窓から見ると、向こうからは見えないというのに、黒髪の男がじっとこちらを睨んでいる。
「一日半で国境まで行くぞ」
マンフリートが全員に伝えると、同行する部下たちはギョッとした表情で、将軍を見る。
無茶は承知だが、できないことはない。マンフリートは本気でそう思っているが、部下はどうかはしらない。付いて来られない者は、あとからゆっくり来ればいいと言い置いて、馬に飛び乗った。
脇目も振らずにひた走り、それからちょうど一日半が経過しようとしていたとき、ようやく目的地の国境警備隊の駐屯地が見えてきた。後ろを振り向くと、なんと部下が誰一人ついてきていなかった。
いつのまにか、彼方後方へと置いてきてしまったようだ。部下はそのうち来るだろうと、苦笑しながら馬を降りる。中から門番係数名が駆け寄ってくる。
「バウムガルデン将軍! お、お一人ですか?」
「いや、あと三十人いるぞ。もう少ししたら到着するだろう。それで、警備隊長はいるか?」
マンフリートはまずは負傷した隊長の下へ向かうのを優先した。
「はい、ただいま救護室にいらっしゃいます」
「わかった。案内してくれ」
報告では、数名の兵士が軽い怪我をしたが、一番深く傷を負ったのは、先頭にいた隊長だという。命に別状はないということだし、もともと熊の本性を持つ者なので、自己再生能力に長けているのだ。
自己回復の魔法が追いつかないということは、相手は相当強い魔力を有する敵ということになる。
隊長が横たわっているベッド脇に立つと、彼は身を乗り出して、マンフリートに挨拶をしようとしたので、起き上がらないように制する。
「す、みません、バウムガルデン将軍」
報告書には突然の閃光を浴びると同時に、一瞬にしてその場にいた全員が切り裂かれたという。当然防御魔法は発動したというが、最前線にいた隊長だけまともに攻撃を受けてしまい、報告書は副隊長が急ぎ王城へ送ったという。
「無事でよかった。調子はどうだ?」
「大丈夫、です。肩と右手を負傷しましたが、みんなが怪我を負いながらも、私に癒しの力を分けてくれましたので、大事には至りませんでした」
「そうか。正体はわからなかったのだな? でなければ報告書にはきっちり書いておくだろうから。どういう感じだったとか、文章にしきれなかった部分を知りたくて飛んできたのだ。なんでもいいから、感覚的なことでもよいから、何か気づいたことはあるか?」
「なにやら禍々しい気配が漂っていて、普通の人間ではないなと思いました。実は切り裂かれたのではなく、鋭い光の矢だったのではと思います」
「報告書にはなかったな」
「おそらく、最前列にいた私しか気づかなかったのだと思います。瞬時に刺さった矢尻をポケットに突っ込みました」
枕元に置いてある袋から取り出し、手渡された。形や大きさはどこにでもある平凡な形だ。
「……これがその、相手が放った矢の矢尻か?」
「は、い。それを素手で掴むのが精一杯で」
それで極端に右手が壊死寸前なのだ。十人掛かりで一晩治療してもこの程度だ。それほど強力な魔法が掛けられたのだ。
「いったいどんな種類の魔法なんだ? 探知魔法が使える者はいなかったか?」
「いないですね……」
「とりあえず、搬送は、難しいだろうから、数日後には王直属の医術者が到着する。もう少しの辛抱だからな。よく証拠を集めてくれた」
「いえ。任務ですから」
傷口から漏れ出る異様な気は、数々の魔傷を見てきたマンフリートですら見たことがなく、微かに残る気配もいままでになかったものだ。しかもそれは簡単に扱えるような魔力ではない気がして、これはラウル王ではなければわからないかもしれない。
すぐに、王の下へ届けるよう手配した。
それから携わったすべての者からの報告を直接聞き終えたマンフリートは、今後の作戦について頭を張り巡らせていた。
「ラウル王の偵察魔法でも、あそこらへんは逆に何も見えないとおっしゃっていましたよね? というか何かが結界を張って見えないようにしている、ということなんですかね?」
副隊長は、隊長の代理で目下作戦会議中だ。
「総合すると、そうなるな。ここ一月ほどで急激に活発になったのか? 前触れもなかったのか?」
「はい、まったくありませんでした。どこからかやってきたのですかね。ナヴァエラ王国から何か情報らしきものはありますか? 」
「いや、今のところとくに何も情報はない。その件に関して、王に確認しておこう」
「それでは、捕らえたやつのところに行きましょう。自殺しないように何重にも結界を張り巡らせて、猿轡も噛ませてあります。まだ尋問も何もしていません」
駐屯地の地下には魔獣を捕獲して置く場所、犯人を拷問する場所、とにかく人目につかない案件を処理する部屋がいくつかある。
尋問部屋の前にくると、見張り兵が二人立っていた。
覗き窓から見ると、向こうからは見えないというのに、黒髪の男がじっとこちらを睨んでいる。
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