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第四話 声のする方へ
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扉の中へ入ると、円形の小さな部屋は薄暗く不気味な雰囲気を醸し出していた。
中央にイスに座っている女性の後ろ姿が見えた。
腰ほどまでサラリと伸びた黒い髪は、マミの後ろ姿を思い出させた。
「マミ……」
思わず声が出てしまい呟くように呼びかけた。
イスに座っている女性がゆっくりとこちらを向いた。
美しい女性の顔が見えたと思ったのもつかの間……。
みるみる容姿は変貌し、先程まで戦っていた半魚人の醜い顔と化した。
「キィヤアアアアアアアアア」
甲高い叫び声とも金切り声とも言えない不快な高音を発っしている。
座った状態から一気にジャンプしこちらへと向かってくる。
なんとなくわかっていた。
この世界を探索して最後の最後に訪れた場所に都合よくマミが居るなんて現実はそんなに甘くない。
半魚人の爪が背中に食い込み、半魚人に噛みつかれた右肩からはリアルな赤色の血液と生暖かい血液の流れる感触が伝わってきた。
不思議なことに痛みは全く無い。
生命維持の指標でもあるRPは5000を切り視界の右下には急激に減っていくRPが表示されている。
ピーッ、ピーッと言う警報が鳴り響きこの世界でのゲームオーバーが近いことを知らせている。
4800……
4700……
4600……
ゲームオーバーが近いからと言って意識が薄らいでいくことも無い。
しかし、薄々感じてたとは言え最後の希望も無くなってしまった絶望感から全てがどうでも良くなり、何も考えられなくなって来た……。
---
VRマシン体験は最初に与えられたミッションをこなして、その後は自由に30分の探索時間が与えられている。
僕はミッションをこなした後マミとこの世界の街中を歩いて探索しようと決めていた。
もちろん、ただ探索するだけでは無く僕のミッションをコンプリートする予定だ。
与えられたミッションでは現実世界で手に持った高精度な温度計を持ち、VRの世界でも同じように手に持った状態からスタートする。
そして3パターンの行動を試す。
1.温度計を街外れに置いて、炎系の魔法で温度計を燃やす。
2.温度計をスタートした部屋の外に置いて、炎系の魔法で燃やす。
3.温度計を手に持ったまま、炎系の魔法で燃やす。
温度計は、いずれも現実世界では僕が手に持った状態のため炎系の魔法で燃やす場所によって、現実世界とVR世界での温度計の距離が異なるのだ。
温度計は、テニスのラケットのような大きさと形をしていて燃やす部分は丸く大きい部分。
ここが温度を感知するようになっているらしい。
手元に近い部分の小さな液晶画面を見ると温度計は室温と同じ25℃が表示されていた。
作業的なミッションのため僕は淡々と任務をこなした。
炎系の魔法を放つと温度計の先端は一気に消し炭となった。
炎は数千度、数万度という火力なのだろうか?
「ありがとうございます。ミッションはこれで完了です」
職員の方のアナウンスが頭の中に響いた。
現実世界からVR世界への伝達は、まるで神様がテレパシーで話かけてくるような感覚だ。
1. 25.05℃
2. 25.46℃
3. 26.73℃
現実世界とVR世界でまったく同じ位置に物体が存在した方がVR世界での現実へ与える影響が大きいらしい。
しかし、温度計が一気に消し炭になるほどの火力で燃やしたのに思ったよりも影響が無いように思える。
(まあ、ダイレクトに影響が出るようなら危険で仕方がないか……)
ミッションは、ひととおりこなしたので、次はいよいよ僕のミッション。
マミとの初手繋ぎミッションだ。
「カタン」
棚か何かがぶつかる音がしたかと思うと一瞬揺れたように感じた。
「地震?」
職員の方からアナウンスも無く特に誰もあわてている様子も無いようだ。
(僕の勘違いかな?)
気を取り直すと僕は隣の部屋のマミの所へ向かおうとした。
一歩足を踏み出そうとしたその時。
一瞬、目の前が真っ白になったかと思うと次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
頭に重さを感じる。
視界が効かないので顔のあたりを触ってみるとゴーグルを被っているのがわかった。
現実に戻った?
「おい! こっちの高校生は息があるぞ!」
「女の子の方は!」
「わかりません!!」
けたたましいサイレンの音が鳴り響き、
職員と思われる男性や女性、怒号や泣きそうな声が飛び交っていた。
---
2800……
2700……
2600……
RPが減りゆく中、いつもの時間を迎えた。
マミの声が聞こえる。
「ソウ君。待ってるから」
「頑張って。」
「……」
全てがどうでもよくなっていた僕の心にこみ上げて来るものがあった。
「まだ、終われない。こんな所で」
「うわああああああああああああああああああ」
肩に食らいつく半魚人をふりほどくと数十回の斬撃を叩き込んだ。
半魚人は結晶が砕けるように青い光の粒子へと変わり空中に霧散した。
残りRP 34
ゲームオーバー、ギリギリの所で、この塔を制覇した。
ドロップアイテム『世界の全て』を手に入れた。
アイテムスキャンでアイテムの詳細を確認する。
「世界の全てを制覇した者に与えられる称号。名誉のみで特に効果は無い」
ゲームにありがちな、やりこんだ末に手に入る名誉だけのアイテムだ。
小さなメダル状のそれを握りしめると、マミがこの世界に居ない証明のような気がして絶望感が襲ってきた。
「この世界にマミは居ない?」
「ログアウト」
寝る時と食べる時以外ログインする生活を繰り返していた。
この1年と10ヶ月、僕は、ただひたすらVR世界でマミを探した。
何の疑問も持たずに。
初デートの時、ライブ会場に居るはずだと探し回ったが、まったく別の場所に居たマミ。
もしかすると今回も、僕はとんでもない間違えを犯しているんじゃないだろうか?
久しぶりに『アース』の設置されている施設から外へと出ることにした。
中央にイスに座っている女性の後ろ姿が見えた。
腰ほどまでサラリと伸びた黒い髪は、マミの後ろ姿を思い出させた。
「マミ……」
思わず声が出てしまい呟くように呼びかけた。
イスに座っている女性がゆっくりとこちらを向いた。
美しい女性の顔が見えたと思ったのもつかの間……。
みるみる容姿は変貌し、先程まで戦っていた半魚人の醜い顔と化した。
「キィヤアアアアアアアアア」
甲高い叫び声とも金切り声とも言えない不快な高音を発っしている。
座った状態から一気にジャンプしこちらへと向かってくる。
なんとなくわかっていた。
この世界を探索して最後の最後に訪れた場所に都合よくマミが居るなんて現実はそんなに甘くない。
半魚人の爪が背中に食い込み、半魚人に噛みつかれた右肩からはリアルな赤色の血液と生暖かい血液の流れる感触が伝わってきた。
不思議なことに痛みは全く無い。
生命維持の指標でもあるRPは5000を切り視界の右下には急激に減っていくRPが表示されている。
ピーッ、ピーッと言う警報が鳴り響きこの世界でのゲームオーバーが近いことを知らせている。
4800……
4700……
4600……
ゲームオーバーが近いからと言って意識が薄らいでいくことも無い。
しかし、薄々感じてたとは言え最後の希望も無くなってしまった絶望感から全てがどうでも良くなり、何も考えられなくなって来た……。
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VRマシン体験は最初に与えられたミッションをこなして、その後は自由に30分の探索時間が与えられている。
僕はミッションをこなした後マミとこの世界の街中を歩いて探索しようと決めていた。
もちろん、ただ探索するだけでは無く僕のミッションをコンプリートする予定だ。
与えられたミッションでは現実世界で手に持った高精度な温度計を持ち、VRの世界でも同じように手に持った状態からスタートする。
そして3パターンの行動を試す。
1.温度計を街外れに置いて、炎系の魔法で温度計を燃やす。
2.温度計をスタートした部屋の外に置いて、炎系の魔法で燃やす。
3.温度計を手に持ったまま、炎系の魔法で燃やす。
温度計は、いずれも現実世界では僕が手に持った状態のため炎系の魔法で燃やす場所によって、現実世界とVR世界での温度計の距離が異なるのだ。
温度計は、テニスのラケットのような大きさと形をしていて燃やす部分は丸く大きい部分。
ここが温度を感知するようになっているらしい。
手元に近い部分の小さな液晶画面を見ると温度計は室温と同じ25℃が表示されていた。
作業的なミッションのため僕は淡々と任務をこなした。
炎系の魔法を放つと温度計の先端は一気に消し炭となった。
炎は数千度、数万度という火力なのだろうか?
「ありがとうございます。ミッションはこれで完了です」
職員の方のアナウンスが頭の中に響いた。
現実世界からVR世界への伝達は、まるで神様がテレパシーで話かけてくるような感覚だ。
1. 25.05℃
2. 25.46℃
3. 26.73℃
現実世界とVR世界でまったく同じ位置に物体が存在した方がVR世界での現実へ与える影響が大きいらしい。
しかし、温度計が一気に消し炭になるほどの火力で燃やしたのに思ったよりも影響が無いように思える。
(まあ、ダイレクトに影響が出るようなら危険で仕方がないか……)
ミッションは、ひととおりこなしたので、次はいよいよ僕のミッション。
マミとの初手繋ぎミッションだ。
「カタン」
棚か何かがぶつかる音がしたかと思うと一瞬揺れたように感じた。
「地震?」
職員の方からアナウンスも無く特に誰もあわてている様子も無いようだ。
(僕の勘違いかな?)
気を取り直すと僕は隣の部屋のマミの所へ向かおうとした。
一歩足を踏み出そうとしたその時。
一瞬、目の前が真っ白になったかと思うと次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
頭に重さを感じる。
視界が効かないので顔のあたりを触ってみるとゴーグルを被っているのがわかった。
現実に戻った?
「おい! こっちの高校生は息があるぞ!」
「女の子の方は!」
「わかりません!!」
けたたましいサイレンの音が鳴り響き、
職員と思われる男性や女性、怒号や泣きそうな声が飛び交っていた。
---
2800……
2700……
2600……
RPが減りゆく中、いつもの時間を迎えた。
マミの声が聞こえる。
「ソウ君。待ってるから」
「頑張って。」
「……」
全てがどうでもよくなっていた僕の心にこみ上げて来るものがあった。
「まだ、終われない。こんな所で」
「うわああああああああああああああああああ」
肩に食らいつく半魚人をふりほどくと数十回の斬撃を叩き込んだ。
半魚人は結晶が砕けるように青い光の粒子へと変わり空中に霧散した。
残りRP 34
ゲームオーバー、ギリギリの所で、この塔を制覇した。
ドロップアイテム『世界の全て』を手に入れた。
アイテムスキャンでアイテムの詳細を確認する。
「世界の全てを制覇した者に与えられる称号。名誉のみで特に効果は無い」
ゲームにありがちな、やりこんだ末に手に入る名誉だけのアイテムだ。
小さなメダル状のそれを握りしめると、マミがこの世界に居ない証明のような気がして絶望感が襲ってきた。
「この世界にマミは居ない?」
「ログアウト」
寝る時と食べる時以外ログインする生活を繰り返していた。
この1年と10ヶ月、僕は、ただひたすらVR世界でマミを探した。
何の疑問も持たずに。
初デートの時、ライブ会場に居るはずだと探し回ったが、まったく別の場所に居たマミ。
もしかすると今回も、僕はとんでもない間違えを犯しているんじゃないだろうか?
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