上 下
20 / 46
第一章 ミズガルズの層

第二十話 80層フロアボスを撃破しよう  ~ロキの過去の件~

しおりを挟む
 ディシデリーズの塔100層の最終フロアボス『餓鬼(ガキ)』について。
 そして、過去イズン師匠、ロキ、シギュン、ダイアナが、その餓鬼に挑んだ時のこと。
 イズン師匠が話をしてくれることになった。

 80層フロアボスを撃破するための訓練も終えた。
 俺以外のパーティーメンバー、フレイヤ、ノル、アイラもホームへと集まった。
 イズン師匠の家は相変わらずお城のようにデカく集まったリビングのような場所も王室の晩餐会でも開かれそうな立派なテーブルに椅子が並んでいる。

「さっそくだけど100層のフロアボス餓鬼にも関わることだし話をしておくわさ」

 イズン師匠の話によると、
 100層フロアボス餓鬼はRPそのものやRPから派生したもの、
 要するに全ての物を食らうらしい。
 
 餓鬼を上回る大出力のRPをぶつけることで撃破しようと考えたようだ。
 そしてロキとイズン師匠で考え出した方法が魔物を武器へ定着させる方法。
 生成した武器に魔物の意思を宿らせることで、その魔物の特性が武器へと反映される。
 それにRPを注げば注ぐほど魔物が吸収し成長する予定だった。

 最初は小さなネズミ1体で実験し成功。
 次に強力な魔物であるドラゴン3体で成功。
 最後にこの世界で最も強力だった5体の異世界から来た巨人の実験へと進んだ時にその事件は起きた。

 小さなネズミの宿った黒いナイフが一本。
 ドラゴンの宿った黒い剣が三本。
 異世界から来た巨人の宿った斧が五本。
 ここまでは順調だった。

 しかし、計八本だけで餓鬼の食うRP以上の出力を出せるか?
 という不安と、
 前代未聞の実験の成功によるロキさんとイズン師匠の高揚が更なる挑戦へと導いた。
 やっつの武器に更にRPを注ぎ限界まで、その力を高めようとしたのだ。
 ただ一人シギュンは止めたらしい。
 危険だからと。

 結果、武器は魔獣へと姿が戻り暴走を始めた。
 暴れ狂う魔獣をシギュンの転送魔法とイズン師匠とロキ、ダイアナの力で作った白い祠(ほこら)に閉じ込めることに成功。
 だが、巨人五体を白い祠(ほこら)へ転送する時、そのあまりに巨大な力にシギュンが自身のRP最大出力以上の転送魔法を発動させた。
 そして、巨人五体とシギュンは跡形もなく消えた。
 これが暴走した魔獣の生まれた理由とロキが武器を作らなくなった原因らしい。

「シギュンさん。その場から消えただけなんですよね?」

 話によると巨人五体と共にその場から消えたらしい。
 それならどこかに転移されてる可能性があるんじゃないか?
 思わずイズン師匠に聞いた。

「ロキはこの世界を数年ずっと探してたわさ。
 どこにも手掛かりも無かったわさ」

 イズン師匠がは普段見せることのない悲しい表情を見せた。

「100層を突破した世界はどうでしょうか?」

 先に何があるかわからない。
 もし現実世界なら向こうは騒ぎになってるだろうな……。

「可能性が無いわけじゃあ無いわさ。
 ただ、餓鬼を倒す事はあたし達では不可能だった。
 だから、アルス、それにノル、アイラ、フレイヤ。
 あんた達に期待してることもあるわさ」

「ロキさんの恋人。100層を越えて見つけてあげましょう」

 フレイヤが何かを決したように口を開いた。

「ワタシも賛成です。現実世界に戻る目的もある」

 アイラも両手の拳を合わせながら言った。

「ノルもニャ!」

 たぶん、ノルは二人の勢いに乗ってるだけだ。
 俺は元々フレイヤを現実世界に戻すためディシデリーズの塔を攻略するつもりだ。
 空気的にも俺も乗らざるを得ない。
 責任とは無関係の人生を歩んできた俺に取って、なんだか他人の責任を負うというのは気が引けてしまう。
 しかし、フレイヤを戻す目的とやることは同じわけだし、この俺の莫大なRPを持つ者としての責任もあるだろう。
 こんなことなら無職が楽だったな。
 なんて思う。
 いや、今も無職なんだけどさ。

「やろうぜ! みんな!」

 自分の心の迷いを振り切るために叫んだ。


---


 80層フロアボス『スライム』。
 赤や青、緑、茶、色々な色のスライムが数百体は居るだろうか?

「スライムと言ってもあの赤いのはブロブ。
 赤い色の通り炎耐性があり、水に弱いわさ」

 イズン師匠も今回から参戦しパーティー全員で戦う。
 
「アイラは青いスライムを。
 ノルちゃんは緑のスライムを。
 フレイヤは茶色のスライムを。
 赤い色はあたしが」

 イズン師匠は的確に指示を出した。

「承知!」
「はいニャ!」
「はい!」
「イズン師匠俺は!」
「あんたはRPをみんなに供給して、RPが尽きかけたら共有を繰り返すの」
「まかせて下さい!」

 俺だけ出番無しかとあせった。
 フレイヤと共闘した時のようにRPの供給に努める。

「行くわよ!」


---


 二時間ほどは経っただろうか?
 まだまだ俺のRPに余裕はあるもののスライムの数が一向に減らない。

「まずいわさ。
 ここのフロアボス、おそらくパーティーメンバーのRP合計値に対して出現しているかもしれないわさ。
 前回攻略時にはわからなかった事だわさ」
「つまり俺が居ることでスライムの数が上がってると言う事ですか?」
「そうだわさ。このペースだとスライム発生ペースが上回って、いずれ全滅の可能性もあるわさ」

 まさかここに来て巨大なRPを持つ俺が足手まといになるとは。
 何か方法は無いか?
 フレイヤと共闘した時は二人で一体となるイメージでフレイヤが俺のRPを自在に使えるようになった。
 今回は俺以外にイズン師匠、フレイヤ、アイラ、ノルの四人。
 フレイヤの時みたいに全員が俺のRPを使えるようにする方法は無いだろうか?

「きゃあ!」

 フレイヤの攻撃が追いつかずスライムに攻撃を受けた。
 スライムは攻撃する瞬間に一部を硬質化させ打撃を加えてくる。

「ぐわっ!」

 アイラも数体のスライムの突撃を受けた。

「きゃうん!」
「ノル大丈夫か!」

 ノルが攻撃を受けてふっ飛ばされた。
 かばいながら襲い来るスライムに全力で拳を叩き込む。
 炸裂した。
 のも一瞬、散り散りになったスライムは一箇所に集まるとすぐに復元した。

「ま、まかせなさい!」

 イズン師匠が全系統の魔法を使いながら赤いリンゴをみんなに配り肉体的ダメージの回復もサポートする。
 
「さ、流石に厳しいわね」

 イズン師匠が息を切らしながら攻撃を繰り返している。
 何とか今俺に出来ることは無いか?
 この巨大なRPを全員に渡すことが出来れば。
 フレイヤが突然抱きついて来た時。
 フレイヤの体温や体の柔らかさが俺に伝わってきて一体となるイメージが出来た。

 そうだ。
 イメージなんだ。
 何も実際にふれたりする必要は無い。
 俺がみんなと一体となるイメージが出来ればいい。
 これまでのイズン師匠との思い出。
 フレイヤとの思い出。
 ノルとの思い出。
 アイラとの思い出。

 それは俺の経験でもありイズン師匠の経験でもある。
 俺の経験でもありフレイヤの経験でもある。
 俺の経験でもありノルの経験でもある。
 俺の経験でもありアイラの経験でもある。

 その時、俺の中で過去現在未来、全ての空間と一体化するイメージが閃いた。

「イズン師匠! フレイヤ! ノル! アイラ! 受け取れ!」

 俺のRPが全員に均等に分けられるイメージ!

「す、すごいあの時と同じ力があふれてくるわ」

 フレイヤから青い光が垂直に立ち上がっている。
 あふれるRPが漏れ出しているようだ。

「アルス殿! かたじけない! うおおおおおおお! 力が溢れる!」

 アイラは雄叫びをあげた。

「すごいニャアアアアアアアアアアア!」

 ノルはあたりを物凄いスピードでかけまわっている。

「アルス! これよ! 一人ではなく全員で協力するんだわさ。
 あたし達と同じ道を歩まないためにも」

 イズン師匠は目に涙を浮かべている。

「全員RPは100万以上! いくわさ!」
「行くぞおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 イズン師匠の号令に合わせて俺も叫んだ!
 フレイヤの風系統の魔法の連発。茶色いスライムを切り刻む。
 ノルの地系統の魔法の連発。緑色のスたイムを粉砕する。
 アイラの炎系統の魔法の連発。水色のスライムを焼き尽くす。
 イズン師匠の氷系統の魔法の連発。赤色のスたイムを凍らせ砕け散らす。
 襲いかかってくるスライムが次から次へと消滅してゆく。
 
「よし! 一気に仕上げるぞ!」

 俺の中に残るRPを一気に全員に配るイメージ!
 全員の攻撃が一気に加速した!
 スライムが次々と消えていく!

 そして、ついにスライムは一匹残らず消滅した。
 初めて全員で戦って勝った。
 これがパーティーってやつなのか。
 現実世界でもこんな風に全員で何かを協力して成し遂げたことは無かった気がする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生先が森って神様そりゃないよ~チート使ってほのぼの生活目指します~

紫紺
ファンタジー
前世社畜のOLは死後いきなり現れた神様に異世界に飛ばされる。ここでへこたれないのが社畜OL!森の中でも何のそのチートと知識で乗り越えます! 「っていうか、体小さくね?」 あらあら~頑張れ~ ちょっ!仕事してください!! やるぶんはしっかりやってるわよ~ そういうことじゃないっ!! 「騒がしいなもう。って、誰だよっ」 そのチート幼女はのんびりライフをおくることはできるのか 無理じゃない? 無理だと思う。 無理でしょw あーもう!締まらないなあ この幼女のは無自覚に無双する!! 周りを巻き込み、困難も何のその!!かなりのお人よしで自覚なし!!ドタバタファンタジーをお楽しみくださいな♪

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟
ファンタジー
 なんかよくわからないけど、神さまの不手際で転生する世界を間違えられてしまった僕は、好きなものに生まれ変われることになった。  そのついでに、さまざまなチート能力を提示されるが、どれもチートすぎて、人生が面白く無くなりそうだ。そもそも、人間であることには先の人生で飽きている。  だから、僕は神さまに願った。犬になりたいと。犬になって、犬達と楽しい暮らしをしたい。  チート能力を無理やり授けられ、犬(獣人)になった僕は、世界の運命に、飲み込まれていく。  犬も人間もいない世界で、僕はどうすればいいのだろう……まあ、なんとかなるか……犬がいないのは残念極まりないけど

ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori
ファンタジー
転移したのはざまあ~された後にあぽ~んした王子のなか、神様ひどくない「君が気の毒だから」って転移させてくれたんだよね、今の俺も気の毒だと思う。どうせなら村人Aがよかったよ。 王子はこの世界でどのようにして幸せを掴むのか? 元28歳、財閥の御曹司の古代と中世の入り混じった異世界での物語り。 これはピカレスク小説、主人公が悪漢です。苦手な方はご注意ください。

処理中です...