悪役に壁ドンされたら思い出しました

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23.論破とタマヒュンと慈悲

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「エレン様?つかぬ事をお聞きしますが」

「なあに?」

「私のことは存じておりますでしょうか?」

 そう聞くと、失礼すぎるくらいにジロジロと眺めて鼻で笑った。

「はんっ!覚えがないわ。さてはアンタ平民にぇ?それとも名のない男爵かしら?」

 平民と言ってバカにする彼女自身が平民の地位なのを忘れているのだろうか?

何気に噛んでるのにドヤ顔をしているエレンをミアは不思議に思ったが、それがこのエレンなのだと納得して話を進める。

「いいえ。私はミアと申します。以前お顔をあわせたと思いますよ。伯爵家の令嬢、ミア・ウィンターです。」

「なっ・・・あの時コイツと一緒にいた地味モブ令嬢!?」

「地味モブという発言はなかったことにしますが・・・まさか気づいていなかったんですか?」

 思わず呆れた表情を隠せもしなかった。

鈍感なエレンでもそれは分かったようで、顔を赤くして逆ギレをする。

まあ、今のミアは丸メガネとモサ二つ結びというトレードマークがなくなっているのだ。

気が付かない者が多くても仕方がないだろう。

「こ、こんな・・・地味モブが・・・びしょ・・・だなんて聞いてない・・・」

何やらまたブツブツと呟いているエレン。

何を言っているのか微妙に聞き取れず、ミアは首を傾げた。

「垣間見えるっ・・・!垣間見えるうなじを隠せっ!!」

「イエスサー!今回だけは共同戦線よ!」

鼻血を抑えながらバッバッバッとミアの周囲を飛び交うグウィンとアリア。

(・・・?常識人の私には理解ができない・・・)

ミアとエレン二人の視野を邪魔し、おかしな言動をするグウィンとアリアにシラケた目を送る。

「まあ、あの時のミア・ウィンターです。先程エレン様は先日カフェで絡まれたと申しましたよね。」

「・・・!え、ええそうよ!」

「あのとき絡んできたのはエレン様とバカ四人組のうちのお二人・・・・・・・・・・・・・・・・・でしょう?」

「なっ・・・ぐううっ!貴様ァァァァ!」

冷たい眼差しでエレンを見やるミア。

そんなミアに唇を噛みブチギレるエレン。

きっとエレンは原作に囚われ、スゥイーツ店でグウィンの側にいたミアが大怪我をしたと思っていたのだろう。

だからこの会場で証言できる目撃者は、周囲で遠巻きに見ていた者のみ。もはや傍観者だから無関係。関わりたくないだろう。

そもそも王太子に異を唱える者がいないと思っていた。

・・・現実がどう考えても大幅に違うというのに、原作のストーリーを過信しすぎた結果だ。

そのせいでエレンはミアと対立し、ボロを出し始めている。

「そもそもですよ?この大馬鹿者のグウィン様は私にベッタリ人間なんですが?どこにエレン様に絡んだり虐めたりする時間が存在するのですか?」

「そ、存在するわよ!現に私はちょっかいかけられてたのよ!このたわわなたわわを舐めるように見つめてたのよ!筋肉の塊のアンタとは違うんだからっ!」

「ん?下を見ても同じことが言えるのでしょうか?」

ミアに言われた通り、下を見るエレン。

そこにはツルペタん。

「か・・・壁壁壁ェ!!!だとぉ・・・!?」

「WINNER~!」

ガクゥッ!と力尽きたエレンを尻目に、グウィンに手を掴まれ天高く腕を掲げたミアは勝利宣言をした。

「泣くなエレン!まだ成長期が来ていないだけだろう!」

「そんなエレンも愛おしい!」

「ほら、エレン立つんだ!ぎゃふんとやらを兄上にするんだろう!」

「奥ゆかしい君だからこその似合う壁だ!」

──一人だけなんとも残酷なことを言っているが、止められはしないだろう。

「マーティン様。貴方の兄君の無実は証明できました。お馬鹿ですか?」

 一応そう聞くと、マーティンは一瞬驚いた顔をしたがそのすぐあとにキリリと凛々しい表情で──

「馬鹿じゃない!脳筋だ!!!」

「自分で言うかァァァ!」

足の間を寸止めキックした。

「あふん」

タマヒュンしたのだろうマーティンは屈強な体格を縮こまらせ、へなへなと内股で床に崩れ落ちた。

そして他のそばで見ていた馬鹿三人も、急所を潰されるかもしれないという恐怖のせいか一拍遅れで床に崩れ落ちた。男はつらいよ。

「アイツらに対して優しさがあるお前が意外だよ・・・」

そっと股間を押さえ、遠い目をして言うグウィンに爽やかに笑いかけたミア。

それは誰に対し言っているのか・・・

「二度目はないですがね?」




次回
グウィン・ハフネス・・・死す──!!
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