悪役に壁ドンされたら思い出しました

ライン

文字の大きさ
上 下
2 / 24

2.モサモサ令嬢から筋肉ダルマに進化しました

しおりを挟む
「おはようございます、母様、父様。」

 眠たい目を擦りながら、ミアは父と母のいるホールへと入った。

ふさふさとした髭を蓄えた父は、新聞を読んでいた手を止めて声を返す。

「おはよう、ミア。」

「母様はどこでしょうか?珍しいですね、お寝坊?」

「そういえば、ママは何か慌てて外に行っていたねえ。」

のほほんと返す父。

慌ててたならどうしたのか聞けばいいのに・・・さてはこの父、ペットのミーちゃんを構い倒してそれどころではなかったな?

ミアはジト目でそう思ったが、当の本人は素知らぬ顔で新聞を読んでいるので、聞いても答えないだろうと食卓についた。

 平和にのんきに、美味しい朝食を食べていたら滅多に足音を響かせない母が顔を真っ青にして走ってきた。

「ミア!あなたグウィン侯爵になにをしたの!?」

「え?なにを・・・ですか?」

 思い当たらなかったせいで、首を傾げてしまう。

母は深く長いため息をつきながら、迫力のない眼力でミアを睨みつける。

「昨晩のこと、許さないぞって頬に手形をつけながらカンっカンに怒っていたわよ!早く顔を出して何とかしなさい!」

「え・・・えええ。昨晩・・・?」

 ふと、絡まれたことを思い出す。

確かあの時、壁ドンをして脅してきたから平手打ちをしたのだ。

「ああ・・・あれか。」

(あれほどの衝撃的な出来事を忘れてたなんて・・・記憶が戻って動揺してたのかしら?)

 そもそもミアは、グウィンに毛ほどの興味もなかったため、覚えていなかっただけだ。

そうでなければ記憶が戻るきっかけとなった彼を忘れることなどないだろう。

彼女にとっては壁ドン=記憶が戻ったであって、その目の前にいたはずのグウィンはジャガイモと同列扱いなのだ。いや、そこらの石ころだろう。

だから覚えていなかった。

「やっぱり心当たりがあるのね!?はやく出て対処してちょうだい!話が見えなくて困ってるのよ!」

「はあ・・・気が乗りませんが、わかりました。」

 面倒くさいなと思いつつ、侍女に身だしなみを整えてもらう。

「ああ、髪は櫛を通すだけで大丈夫です。わざわざそんな結ばないでも・・・」

 あのセクハラ侯爵にそんな時間をかけずとも良いやと思い、そう言った。

そしてふわふわした髪の毛を背中まで下ろしたまま、玄関へ向かう。


「やっと来たな!この筋肉ダルマ令嬢!!」

「あら?私の認識がいつのまにかモサモサした令嬢から筋肉ダルマ令嬢に変わってますね・・」

 頬を腫らしたグウィンが、ミアに掴みかかる。

が、圧倒的力のせいかビクともしないのを見てグウィンは舌打ちをした。

「き、昨日は俺に恥をかかせやがって・・・!お前の家がどうなってもいいのか!?」

「大丈夫ですよ。頬の腫れくらいたまにはありますって。それに正当防衛ですし、仕方なかったんです。」

「それを本人の前で言うかっ・・・」

(自覚はあるのか・・・)

 シラケた目になってしまったが、それに気が付かないグウィン。

なぜかミアをジロジロと見ている。

「なんです?」

「・・・いつも髪を二つにもさく結んでたからな。下ろしてる姿は初めて見た。」

「はあ・・・」

 急に大人しくなった侯爵に面倒くさいとまた思いながら、話を締めることにする。

「あなたは私を脅して壁に追い込んだし、私は力の加減も考えずに過剰にはたいてしまいました。
まあ、お互い悪かったということでこの話は終わりにしませんか?」

「・・・くそ。仕方がない。そうしてやる」

 渋々だが引き下がったグウィンに、安堵の息をつく。

「では。」

「いや、だが待てえっ!」

「まだあるんですか!?」

 逃さん、とばかりに腕を昨日みたいに掴まれる。

ポーカーフェイスはもう隠せなくなる。

声も顔も面倒くさい早く要件終わらせろとグウィンに全力でビシビシ伝えてくる。

「俺が逃した女は誰一人いない。だから逃げられると思うなよ。」

(・・・噂では女性に避けられまくったり、手を出しても途中で上手いこと逃げられたりって話しか聞いたことないけど?)

 可哀想(笑)なので何も言わないでおくことにする。

「言っている内容を振り返ってみてください。男として人間として気持ち悪がられるものですよ。」

ハッキリキッパリそう告げたら、グウィンは唖然とした顔で固まった。

ミアは、お得意の怪力でグウィンを持ち上げて、行きに使ったのだと分かる馬車に放り込んで帰らせた。

「任務完了」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

処理中です...