悪役に壁ドンされたら思い出しました

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1.ミアとグウィン

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 社交界で底辺の噂の主、お酒くさいグウィン・ハフネス侯爵に絡まれた。

絡まれた本人である、ミア・ウィンターは心底面倒くさそうな表情をしているだけだ。

「おい、せっかくだ。お前みたいな色気のない女に手を出すつもりはなかったけど、どうせ寂しいだろう?こっちに来いよ。」

「いえいえ侯爵様。私のような丸メガネには貴方様は相応しくありませんのでどうかお帰りください。」

 ひたすら棒読みでお帰りくださいと言っているのに、拒絶に気が付かないグウィン。

(この人、名前なんだっけ・・・?たしか社交界で最悪だって言われてる侯爵様だったのは分かるけど・・・)

 伯爵令嬢であるミアは、できるだけ温厚に、そして平和にやり過ごそうとする。

「だからその俺が良いって言ってるんだよ。気にすんなっ!」

急に、肩を組んでいた腕を放し、ミアの腕をキツく掴んだ。

「えっ」

グイッと路地裏に引き込まれてグウィン侯爵に壁へと押し込められる。

「あの・・・侯爵様?」

「仕方ねえな。もさい令嬢だし、チョロいと思ったのにこんなに頑なだとは思わなかった。ちょっと怖い目に遭わないと分からないかもな~?」

(これは──壁ドン)

 ギラギラとした目を向けて、ミアを見つめている侯爵を気にする訳ではなく、その行動に気を取られていた。

(・・・あっ、この人グウィン・ハフネスだ。)

 なぜ思い出したのかは分からない。

ただ、壁ドンをされたら思い出したのだ。

彼女の名はミア・ウィンター。

けれど前世の記憶がよみがえったよう。

(壁ドンされて前世の記憶思い出したら、みんな苦労しないと思うけどな・・・)

はぁ、とため息をついて目の前のグウィン侯爵を見つめ返す。

端正な顔立ち。綺麗な肌。

清潔感のある髪型で、前髪はオールバックにして、一部オシャレに下ろしている。

ただ残念なのがその目つきの悪い鋭い目と意地悪に歪めた口元だった。

明らかに悪いやつの顔をしている。

「侯爵様はとても端正な顔立ちをされていますね。」

「えっ、あっ、うん。」

 唐突に見つめ返され、大真面目な顔で照れもせずに褒め言葉を言われたグウィンは、なぜだか熱が冷めていく。

「ですが、この腕をどけてくださいませんか?」

「・・・やっぱり虐めてやらないと自分の立場が分からないみたいだな。」

 少しだけ、少しだけ萎えていたが、半ば意地になっていたグウィンは引かない。

「そうですか。では正当防衛ということで。」

「えっ?」

バッシーーーーーンという、とてもとても痛そうな音が夜の路地裏に、いや、むしろ帝国中に響いた。

「ぐはっ・・・」

視界が反転して、体が吹っ飛ぶグウィン。

それを見つめながら、冷たい声でミアは言った。

「誘惑する相手は、選んだ方がいいですよ。グウィン侯爵」

 せめてもの優しさで、気を失っているグウィン侯爵の体を人通りの多いところまで運んでおいた。

「変な人だったなあ。」

 もぐもぐと買った焼き芋を食べ歩きしながらミアは思った。
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