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3.残夜、その背後にて
8(昂遠の過去話になります)
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昂遠自身、最初から悪霊や浮遊霊を相手に何かをしていたわけではない。
妖怪や悪鬼の類は、気が付けばいつもそこら辺をウロウロしていたので特に気にも留めなかった。
もしこれが幽霊や悪霊であったとしても、きっと同じだろうと彼はずっと考えて来たのだ。
それは、昂遠が村を離れて三年後の事だった。
その頃の彼は適当に日銭を稼ぎ、十分貯まったらまた別の地へと移る生活を送っていたので、今回もそうしようと思っていたのだ。
すると、いつもなら気にならないのに今日はやけに木の立て札ばかり目について気になってしょうがない。
見たとしてもお尋ね者の賞金についての告知だろう。
気にせず通り過ぎようかとも思ったが、やはり気になってしまい、とりあえず何の告知が張られているのか見に行くことにした。
ザワザワと騒がしい人の群れをかき分けながら、どんなに前に進んでも見えるのは人の頭と背中だけで一向に辿り着けない。これは困ったぞと思った昂遠は隣に立っていた人に問いかけてみることにした。
「すみません」
「ん?」
腕を組みながら張り紙を見るその男は昂遠よりも背が高く、体つきもがっちりとしていて逞しい。
昂遠は棒のようにひょろ長い自分の腕にちらりと視線を向けようとしたが、いやいや考えないようにしようと思い、男性を見上げたまま問いかけた。
「これはなんです?」
「ああ。何でも兵が必要なんだとよ」
「へえぇぇ」
「兄さん。あんたいくつだい?」
「俺か?十六だ」
「十六か」
男は昂遠を頭から足のつま先まで眺めると、ふうむと唸っている。
まるで今にも倒れそうだからやめておけよとでも言いたそうな表情だ。
余計なお世話だと言いたくなる気持ちをグッと抑えながら、彼は男から目を逸らそうとした。
「でもちょっと前に戦があったばかりじゃねえか」
(ん・・・?)
「いくら何でもやりすぎだろぉ」
「うちの王は何考えてんだか、さっぱり分らんな」
「それよりも賊を何とかしてほしいよなあ」
「ああ、あれだろ?先日も西の方の村が襲われたらしいじゃねえか」
「本当か?俺は東って聞いたぞ?」
「賊の討伐に行くってんなら、まあ分かるがなあ」
「そもそもその賊って言ったって、狼国から来てるらしいじゃねえか」
「ああ、あそこは厄介だよなあ」
あちこちから聞こえてくる声を耳にして「やっぱり、日銭を稼ぐ方が儲かるな」と思った昂遠はひっそりとその場から離れようとした。
その時だ。
どこからか「ここに入ったら、飯が食えるみたいだぞ」との声に、去りかけた足が止まり、彼は再び立て札へと視線を向けた。
「ねえ。兄さん」
「あ?」
「ここに入ったら、飯が食えるの?」
男を見上げる昂遠の表情は真剣で、一点の曇りも見られない。
男はジッと昂遠を見下ろすと「ああ。そうみたいだな」と告げた。
妖怪や悪鬼の類は、気が付けばいつもそこら辺をウロウロしていたので特に気にも留めなかった。
もしこれが幽霊や悪霊であったとしても、きっと同じだろうと彼はずっと考えて来たのだ。
それは、昂遠が村を離れて三年後の事だった。
その頃の彼は適当に日銭を稼ぎ、十分貯まったらまた別の地へと移る生活を送っていたので、今回もそうしようと思っていたのだ。
すると、いつもなら気にならないのに今日はやけに木の立て札ばかり目について気になってしょうがない。
見たとしてもお尋ね者の賞金についての告知だろう。
気にせず通り過ぎようかとも思ったが、やはり気になってしまい、とりあえず何の告知が張られているのか見に行くことにした。
ザワザワと騒がしい人の群れをかき分けながら、どんなに前に進んでも見えるのは人の頭と背中だけで一向に辿り着けない。これは困ったぞと思った昂遠は隣に立っていた人に問いかけてみることにした。
「すみません」
「ん?」
腕を組みながら張り紙を見るその男は昂遠よりも背が高く、体つきもがっちりとしていて逞しい。
昂遠は棒のようにひょろ長い自分の腕にちらりと視線を向けようとしたが、いやいや考えないようにしようと思い、男性を見上げたまま問いかけた。
「これはなんです?」
「ああ。何でも兵が必要なんだとよ」
「へえぇぇ」
「兄さん。あんたいくつだい?」
「俺か?十六だ」
「十六か」
男は昂遠を頭から足のつま先まで眺めると、ふうむと唸っている。
まるで今にも倒れそうだからやめておけよとでも言いたそうな表情だ。
余計なお世話だと言いたくなる気持ちをグッと抑えながら、彼は男から目を逸らそうとした。
「でもちょっと前に戦があったばかりじゃねえか」
(ん・・・?)
「いくら何でもやりすぎだろぉ」
「うちの王は何考えてんだか、さっぱり分らんな」
「それよりも賊を何とかしてほしいよなあ」
「ああ、あれだろ?先日も西の方の村が襲われたらしいじゃねえか」
「本当か?俺は東って聞いたぞ?」
「賊の討伐に行くってんなら、まあ分かるがなあ」
「そもそもその賊って言ったって、狼国から来てるらしいじゃねえか」
「ああ、あそこは厄介だよなあ」
あちこちから聞こえてくる声を耳にして「やっぱり、日銭を稼ぐ方が儲かるな」と思った昂遠はひっそりとその場から離れようとした。
その時だ。
どこからか「ここに入ったら、飯が食えるみたいだぞ」との声に、去りかけた足が止まり、彼は再び立て札へと視線を向けた。
「ねえ。兄さん」
「あ?」
「ここに入ったら、飯が食えるの?」
男を見上げる昂遠の表情は真剣で、一点の曇りも見られない。
男はジッと昂遠を見下ろすと「ああ。そうみたいだな」と告げた。
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