37 / 46
3.残夜、その背後にて
3
しおりを挟む
「気味が悪い・・・?」
梠の口が無意識に動く。
昂遠に最初に話しかけられた時、最初は何も思わなかった。
観光地に住んでいると、何故か人族から話しかけられることが度々ある為、今回も道を問う観光客だろうと軽く考えていたのだ。
だが、昂遠の顔を見た瞬間、彼は言葉を失ってしまった。
一体何処からやって来たのか。
今年は例年とは異なり、九の月を過ぎても未だ暑い日が続いているとはいえ、その日は朝から気温が下がっていたように思う。だからではないが、道行く皆の服装も軽装とはいえ、予め用意していた防寒着を持って市場に来ている者が殆どだったし、かくゆう自身もそうだった。
しかし、この男だけは違っていた。
僧侶のような形をしているとはいえ、手荷物は殆ど無く、防寒着すら手にしていない。
身に纏っていた衣服は泥にまみれ、目元は落ちくぼんでいる。
頬は痩せこけ、声にも張りが無く、フラフラと彷徨う姿は何処から見ても浮浪者のようだ。
このままほっとけば足元から崩れ落ちてしまうのではないかと思う程に、出会った時の彼は心底疲れ切っており、お世辞にも健康的とは言い難い様相をしていた。
これだけでも、どんな生活をしていたんだと問いたくなるが、それ以上に気になったのは、昂遠の周りから漂う妙な気配だった。
恐らく本人は無自覚なのだろう。しかし、昂遠の全身を包むそれは何処か不気味で近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
人族の姿をした妖怪かと思ったがそうではなく、何かに取り憑かれているわけでもない。
始終、のんびりした口調で話す為、気にならなくなっていたが・・・。
「ふむ」
「あっ、そういえば昂遠って猪国に居たって言ってたじゃない?でも、民札を作る時に出身は豚国って書いてたんだよね」
匝が長い尻尾をユラユラと動かしながら唇を尖らせている。
「ああ、そういやそうだったな」
「農民だったのかなぁ?でも、農民が猪国に行くかな?あの国って、武芸を磨く人が行く国でしょ?昂遠ってお坊さんだよね?」
口元に手を当てたまま匝が呟く。
「いや、どう考えても違うだろ?考えてもみろよ。僧侶が肉食うかぁ?あいつらって菜食なんだろ?昂遠の奴、ばくばく肉食ってたじゃねえか」と、洓が手を振っている。
「あ、そういえばそうかぁ」
「戒律があると聞くな」
「ま、色んな坊さんがいるから、一概には言えねえけどよ」
洓がフサフサとした尻尾を揺らしながら、後ろ髪を指で梳いていく。
蝋燭の火に照らされてキラキラと輝く金色の髪がはらりと落ちる。
相変わらず、美しい髪だなと、そんな事を思いながら梠は視線を卓へと向けた。
梠の口が無意識に動く。
昂遠に最初に話しかけられた時、最初は何も思わなかった。
観光地に住んでいると、何故か人族から話しかけられることが度々ある為、今回も道を問う観光客だろうと軽く考えていたのだ。
だが、昂遠の顔を見た瞬間、彼は言葉を失ってしまった。
一体何処からやって来たのか。
今年は例年とは異なり、九の月を過ぎても未だ暑い日が続いているとはいえ、その日は朝から気温が下がっていたように思う。だからではないが、道行く皆の服装も軽装とはいえ、予め用意していた防寒着を持って市場に来ている者が殆どだったし、かくゆう自身もそうだった。
しかし、この男だけは違っていた。
僧侶のような形をしているとはいえ、手荷物は殆ど無く、防寒着すら手にしていない。
身に纏っていた衣服は泥にまみれ、目元は落ちくぼんでいる。
頬は痩せこけ、声にも張りが無く、フラフラと彷徨う姿は何処から見ても浮浪者のようだ。
このままほっとけば足元から崩れ落ちてしまうのではないかと思う程に、出会った時の彼は心底疲れ切っており、お世辞にも健康的とは言い難い様相をしていた。
これだけでも、どんな生活をしていたんだと問いたくなるが、それ以上に気になったのは、昂遠の周りから漂う妙な気配だった。
恐らく本人は無自覚なのだろう。しかし、昂遠の全身を包むそれは何処か不気味で近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
人族の姿をした妖怪かと思ったがそうではなく、何かに取り憑かれているわけでもない。
始終、のんびりした口調で話す為、気にならなくなっていたが・・・。
「ふむ」
「あっ、そういえば昂遠って猪国に居たって言ってたじゃない?でも、民札を作る時に出身は豚国って書いてたんだよね」
匝が長い尻尾をユラユラと動かしながら唇を尖らせている。
「ああ、そういやそうだったな」
「農民だったのかなぁ?でも、農民が猪国に行くかな?あの国って、武芸を磨く人が行く国でしょ?昂遠ってお坊さんだよね?」
口元に手を当てたまま匝が呟く。
「いや、どう考えても違うだろ?考えてもみろよ。僧侶が肉食うかぁ?あいつらって菜食なんだろ?昂遠の奴、ばくばく肉食ってたじゃねえか」と、洓が手を振っている。
「あ、そういえばそうかぁ」
「戒律があると聞くな」
「ま、色んな坊さんがいるから、一概には言えねえけどよ」
洓がフサフサとした尻尾を揺らしながら、後ろ髪を指で梳いていく。
蝋燭の火に照らされてキラキラと輝く金色の髪がはらりと落ちる。
相変わらず、美しい髪だなと、そんな事を思いながら梠は視線を卓へと向けた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる