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2.和やかな宴という名の歓迎会
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しおりを挟む「・・・・・・」
「さあ飲め!飲めぇー!」
「竺、お前はもう止めろ!いくら何でも飲みすぎだ!」
「やだー!!飲むのぉー!」
「お前は飲む前に飯を食え!飯を!」
重く暗い沈黙を吹き飛ばすように、酒杯を手にした友達がニコニコと笑顔になる。
理由を教えてくれないまま、乾杯を繰り返す友に疑問符を感じながらも、その不安を口に出す事が出来ないまま、昂遠は注がれた酒をただ黙って飲み干していた。
問いかければ、きっと答えてくれただろう。けれど、せっかく生まれたこの空気に水を差したくない。それを乗り越える勇気を彼は持つことが出来なかったのだ。
あと一歩の距離。
その距離が今の昂遠にとって、とても大きな壁に見えた。
「そろそろ出るか」
「いやー。食った食った」
「おい起きろ。行くぞ」
「んあ?」
その後、食事代をきっちり割り勘にした一同は、夜店で酒と干物を買い込むと熊の獣人族、梠の家に行くことにした。
かなり沢山食べて飲んだ気がしたけれど、全員でお金を出し合った結果。予想よりも安い金額だった事に昂遠は内心驚いていた。
獣人族割引きでもあったのだろうかと思ったが、自分達の後に精算していた人族も自分達とあまり料金が変わらなかった所を見ると、この国の物価は他国と比べて安価なのかもしれない。
最も、それは食に関する部分のみで、他は違うのかもしれないけれど。
「機会がございましたら、またお立ち寄り下さい」
「ええ。ありがとうございます。是非」
笑顔の店員に別れを告げ、肩を組みながら、ほろ酔い気分で歩いているうちに歌い出した友を止めつつも笑う皆の表情に居心地の良さを感じながら、昂遠はゆっくりと息を吸い吐くと視線を空へ傾けた。
時間は既に真夜中に差し掛かっている。
キラキラと星が輝く空の下で浮かぶ提灯の明かりに照らされた町は驚く程に静かで、歩く獣人族の姿も疎らだった。
昼の賑やかさとは違った顔を覗かせる町に表情を綻ばせながら、昂遠は「この国に来て良かった」と心から思った。
自分でも無謀な挑戦だったと思っている。
獣人族優先のこの国は他国に比べると驚く程閉鎖的で、何処か近寄りがたい雰囲気を隠すことなく前面に押し出している。
あくまでもここは獣人族の国であって、人族のものではない。
誰にも侵略されない。誰にも左右されたくない。
誰もが口に出さずとも感じるその風は、種族を問わず、誰もが持っているだろう。
「・・・・・・」
不安が無いと言えば嘘になる。
けれども後悔したくなかった。
さくりと土を踏む。
酒に酔った体に夜風が心地良い。
時折聞こえる鈴虫の音が友の声にかき消される度に、昂遠の頬が自然と緩んだ。
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