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2.和やかな宴という名の歓迎会
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「店員さーん!」
「はい!ただいま参ります!」
鍋を囲んで賑やかに騒ぐ友の声を耳にしながら、昂遠は白湯湯で煮込んだ豆腐を箸で掴むと小皿の上に静かに乗せた。
あっさりとした湯で煮込んだ大根は口に入れた瞬間にほぐれる程柔らかく、何度でも食べたくなる味だった。
「あ、豆腐、美味ひい!」
「魚も美味いな」
「肉、多めに頼んだから喧嘩すんなよー」
「分かってるよ~」
「この豆干の炒め物、美味しい」
「昂遠が頼んでくれた蒸し餃子も美味いな」
「ええ。美味しいです」
先程からずっと友達は麻辣味の湯で煮込んだ肉や野菜、豆腐を食べながら何度も机に突っ伏しては悶絶を繰り返している。
それらをジッと眺めているうちに、どんな味なのか気になった昂遠は、麻辣味の湯で煮込んだ豆腐を食べてみようと箸を伸ばそうとした。
しかし「辛いのが苦手ならやめといた方がいいぞ」「別の日にまた来ようぜ」と皆に窘められてしまい、仕方なく自分が注文した蒸し餃子をひとつ、箸で摘まむとパクリと口に放り込むことにした。
正直なところ、麻辣味の方も気になって仕方がない。けれども、至極真面目な表情で「やめとけ」と説得を繰り返されてしまうと、それ以上進むことは出来なかったのも事実で。
見るからに辛そうな麻辣湯からは、唐辛子と香辛料の爽やかな香りが匂って来る。
見るからに辛そうだとは分かっているけれど、どんな味なのか気になるじゃないか。
「ふむ」
少し冷たくなったその餃子は口に含んだ瞬間、大きく切った海老のぷりぷりとした食感と、細かく切った春雨がとろみの付いた餡と上手く絡んでいて、とても美味しかった。
蒸し上がった瞬間に食べればもっと美味しかったに違いない。
今度、この店に来ることがあれば出来立てを食べよう。そして火鍋も注文しよう。そう思いながら、彼は大皿に視線を向ける事にした。
視線の先には白い湯気に包まれた空心菜の炒め物と、白身魚を蒸した清蒸魚が見える。
「それで?これからどうするんだ?」
「これから?うーん。そうですね」
熊の獣人、梠の問いに小籠包をモグモグと頬張りながら、昂遠の視線が天井へと向かう。
相変わらず、店内はガヤガヤと騒がしい。
彼は何か言いたそうにしていたが、敢えて何も口を挟むことなく、昂遠の言葉をジッと待っていた。
その気遣いに嬉しくなる気持ちを抑えながら、昂遠は手にしていた箸をゆっくりと卓に戻すとクツクツと沸く鴛鴦鍋に視線を戻した。
「そうですね。まずは家を借りようと思います」
「家か」
「そうだな。確かに住むとなりゃ必要だ」
「だが、しかしな・・・」
「・・・あー・・・っと」
「ううん」
昂遠の言葉に先程まで饒舌だった友の表情が一様に暗くなる。
皆、何か言いたそうにモゴモゴと口を動かすだけで、その後の言葉が出てこない。
急に変化したその態度に戸惑いの色を浮かべた昂遠はグッと口を閉ざすと、皆の言葉を待つことにした。
何の問題も無ければ適当な空き家を探し、家主と交渉すればいいだけだ。
それともこの国では領主の許可無く家を借りる事は出来ないのだろうか?
そんな不安が脳裏を過ぎる。
「えっと・・・」
「昂遠」
「はい」
「とりあえず、今日は俺の家に来い。明日、昨日行った役所とやらに行ってみよう」
「?はい?」
「そうだな。それが良い」
「ああ、今夜は宴だ。まずは何も考えずに飲もうぜ」
「乾杯だ!乾杯」
「まだ飲む―!」
「あっ!そういや、まだだった」
「はい!ただいま参ります!」
鍋を囲んで賑やかに騒ぐ友の声を耳にしながら、昂遠は白湯湯で煮込んだ豆腐を箸で掴むと小皿の上に静かに乗せた。
あっさりとした湯で煮込んだ大根は口に入れた瞬間にほぐれる程柔らかく、何度でも食べたくなる味だった。
「あ、豆腐、美味ひい!」
「魚も美味いな」
「肉、多めに頼んだから喧嘩すんなよー」
「分かってるよ~」
「この豆干の炒め物、美味しい」
「昂遠が頼んでくれた蒸し餃子も美味いな」
「ええ。美味しいです」
先程からずっと友達は麻辣味の湯で煮込んだ肉や野菜、豆腐を食べながら何度も机に突っ伏しては悶絶を繰り返している。
それらをジッと眺めているうちに、どんな味なのか気になった昂遠は、麻辣味の湯で煮込んだ豆腐を食べてみようと箸を伸ばそうとした。
しかし「辛いのが苦手ならやめといた方がいいぞ」「別の日にまた来ようぜ」と皆に窘められてしまい、仕方なく自分が注文した蒸し餃子をひとつ、箸で摘まむとパクリと口に放り込むことにした。
正直なところ、麻辣味の方も気になって仕方がない。けれども、至極真面目な表情で「やめとけ」と説得を繰り返されてしまうと、それ以上進むことは出来なかったのも事実で。
見るからに辛そうな麻辣湯からは、唐辛子と香辛料の爽やかな香りが匂って来る。
見るからに辛そうだとは分かっているけれど、どんな味なのか気になるじゃないか。
「ふむ」
少し冷たくなったその餃子は口に含んだ瞬間、大きく切った海老のぷりぷりとした食感と、細かく切った春雨がとろみの付いた餡と上手く絡んでいて、とても美味しかった。
蒸し上がった瞬間に食べればもっと美味しかったに違いない。
今度、この店に来ることがあれば出来立てを食べよう。そして火鍋も注文しよう。そう思いながら、彼は大皿に視線を向ける事にした。
視線の先には白い湯気に包まれた空心菜の炒め物と、白身魚を蒸した清蒸魚が見える。
「それで?これからどうするんだ?」
「これから?うーん。そうですね」
熊の獣人、梠の問いに小籠包をモグモグと頬張りながら、昂遠の視線が天井へと向かう。
相変わらず、店内はガヤガヤと騒がしい。
彼は何か言いたそうにしていたが、敢えて何も口を挟むことなく、昂遠の言葉をジッと待っていた。
その気遣いに嬉しくなる気持ちを抑えながら、昂遠は手にしていた箸をゆっくりと卓に戻すとクツクツと沸く鴛鴦鍋に視線を戻した。
「そうですね。まずは家を借りようと思います」
「家か」
「そうだな。確かに住むとなりゃ必要だ」
「だが、しかしな・・・」
「・・・あー・・・っと」
「ううん」
昂遠の言葉に先程まで饒舌だった友の表情が一様に暗くなる。
皆、何か言いたそうにモゴモゴと口を動かすだけで、その後の言葉が出てこない。
急に変化したその態度に戸惑いの色を浮かべた昂遠はグッと口を閉ざすと、皆の言葉を待つことにした。
何の問題も無ければ適当な空き家を探し、家主と交渉すればいいだけだ。
それともこの国では領主の許可無く家を借りる事は出来ないのだろうか?
そんな不安が脳裏を過ぎる。
「えっと・・・」
「昂遠」
「はい」
「とりあえず、今日は俺の家に来い。明日、昨日行った役所とやらに行ってみよう」
「?はい?」
「そうだな。それが良い」
「ああ、今夜は宴だ。まずは何も考えずに飲もうぜ」
「乾杯だ!乾杯」
「まだ飲む―!」
「あっ!そういや、まだだった」
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