21 / 46
1.煙雨の先に
8
しおりを挟む
国を離れ、諸国を旅する最中、参拝客が絶えないと噂の北嶺山に行きたくなった昂遠は、同地を訪れた帰り、麓にある嶺州に立ち寄ると狼州には向かわず、黒亮公率いる黒家が統治する箕衡に行くことにした。
獣人族が数多く住むその国は人族の入国が固く禁じられており、入国すれば斬首されると
噂が流れている。だからではないが、近づこうとする者は誰もおらず、全てが謎に包まれている国なのだ。
「どのような国なのだろう?獣人の国というのは」
噂のその地を自分の眼で見てみたい。そんな軽い気持ちは入国してすぐに吹っ飛んだ。
揉め事を避ける為に頭に布を巻き、僧侶姿のまま関門に近づいてみて初めて、獣人族の姿に息を飲んだ。
布衣に身を包み、二本足で立つその姿は人族と変わらない。
しかし、獣の姿のまま言語を使う民がいるかと思えば、見た目は自分と変わらないのに眼球が猫であったり、頭部から獣の耳が生えていたりとその容姿は様々だった。
「・・・・・・」
獣人の容姿に圧倒されていた彼を驚かせたのはそれだけではない。
入国して初めて目にした箕衡の町は驚くほどに穏やかで、どの民も笑顔で溢れている。
「・・・・・・」
すぐ隣を獣人族の子供たちが駆けて行く。
その光景を目にした昂遠の喉の奥が締め付けられたように苦しくなった。
(なんだ・・・この感覚は)
無意識に胸に手を当ててみるも、上手く答えが見つからない。
いや、痛みの理由は既に分かっていて、目を向けたくないだけなのかもしれない。
昂遠はズキリと痛む胸と込み上げる喉に蓋をしたまま、ふうと息を吸い吐くと、ゆっくりと周囲を見渡した。
「・・・ん?」
ふと、親子連れの獣人族が手を繋いで店を散策している姿が目に留まった。
獣耳をピンと立たせたまま、小さな風車を手に笑顔を見せる子供と親の表情に、自然と昂遠の頬も緩んでしまう。
その後ろを、獣耳の少年と獣の手をした少年たちが競い合うように走って行く。
「転ぶなよ」
「だいじょうぶ!」
そんな会話を交わしながら見る大人の表情は、皆、穏やかで優しい。
(いいなぁ。うん。いいな)
足取り軽く散策していると、器を手に立ったまま食事をする民の多さに気がついた。
大体、どこの国にも屋台街があり、店の作りや雰囲気は似たようなものだ。
自由に使える椅子と机を囲むようにずらりと屋台が並び、朝昼晩と時間を問わず、様々な料理を楽しめるとあって、常に大勢の客で賑わっている。
しかも、飯屋に比べると、どの品も割安とあって、飯屋よりも屋台街の方が人気な場所もあるくらいだ。
かくゆう昂遠も、出身地の豚国や少し前に滞在していた猪国では食事は屋台で済ます事が多く、飯屋に行く機会は殆どない。
広さは十分あるはずなのに椅子と机が無いというのはどうにも引っかかる。はて。
獣人族が数多く住むその国は人族の入国が固く禁じられており、入国すれば斬首されると
噂が流れている。だからではないが、近づこうとする者は誰もおらず、全てが謎に包まれている国なのだ。
「どのような国なのだろう?獣人の国というのは」
噂のその地を自分の眼で見てみたい。そんな軽い気持ちは入国してすぐに吹っ飛んだ。
揉め事を避ける為に頭に布を巻き、僧侶姿のまま関門に近づいてみて初めて、獣人族の姿に息を飲んだ。
布衣に身を包み、二本足で立つその姿は人族と変わらない。
しかし、獣の姿のまま言語を使う民がいるかと思えば、見た目は自分と変わらないのに眼球が猫であったり、頭部から獣の耳が生えていたりとその容姿は様々だった。
「・・・・・・」
獣人の容姿に圧倒されていた彼を驚かせたのはそれだけではない。
入国して初めて目にした箕衡の町は驚くほどに穏やかで、どの民も笑顔で溢れている。
「・・・・・・」
すぐ隣を獣人族の子供たちが駆けて行く。
その光景を目にした昂遠の喉の奥が締め付けられたように苦しくなった。
(なんだ・・・この感覚は)
無意識に胸に手を当ててみるも、上手く答えが見つからない。
いや、痛みの理由は既に分かっていて、目を向けたくないだけなのかもしれない。
昂遠はズキリと痛む胸と込み上げる喉に蓋をしたまま、ふうと息を吸い吐くと、ゆっくりと周囲を見渡した。
「・・・ん?」
ふと、親子連れの獣人族が手を繋いで店を散策している姿が目に留まった。
獣耳をピンと立たせたまま、小さな風車を手に笑顔を見せる子供と親の表情に、自然と昂遠の頬も緩んでしまう。
その後ろを、獣耳の少年と獣の手をした少年たちが競い合うように走って行く。
「転ぶなよ」
「だいじょうぶ!」
そんな会話を交わしながら見る大人の表情は、皆、穏やかで優しい。
(いいなぁ。うん。いいな)
足取り軽く散策していると、器を手に立ったまま食事をする民の多さに気がついた。
大体、どこの国にも屋台街があり、店の作りや雰囲気は似たようなものだ。
自由に使える椅子と机を囲むようにずらりと屋台が並び、朝昼晩と時間を問わず、様々な料理を楽しめるとあって、常に大勢の客で賑わっている。
しかも、飯屋に比べると、どの品も割安とあって、飯屋よりも屋台街の方が人気な場所もあるくらいだ。
かくゆう昂遠も、出身地の豚国や少し前に滞在していた猪国では食事は屋台で済ます事が多く、飯屋に行く機会は殆どない。
広さは十分あるはずなのに椅子と机が無いというのはどうにも引っかかる。はて。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる