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1.煙雨の先に
7(※回想ですが、襲撃を受けた後のシーンが含まれています)
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どのくらい気を失っていたのだろう。
「・・・う」
背に感じる重みをそのままに、遠くから聞こえる声で目が覚めた昂遠は、何とかしてそこから這い出ようと身体を動かすことにした。
しかし、ずしりと重なる重みで、なかなか前に進まない。
「ぐ・・・」
腕を動かす度に腹と背に鈍い痛みが走り、その度に声が漏れた。
「・・・ぅ」
(あれから・・・一体・・・)
周囲は不気味なほど静まり返っている。
聞こえる声は遠く、まるでこの部屋だけが切り離されているようだ。
(父上、母上)
未だ脳裏を過る光景を振り切るように、昂遠は腹這いのまま、必死に進み続けた。
背の重みが軽くなり、周囲を照らす明かりが隙間から見えた頃、彼は眼前の光景に「ヒッ」と叫びそうになるのを両手で押さえながら、必死にその声を飲み込んだ。
「・・・さ」
開けた視界の先に見えたもの。
それは、既に息絶えた兄の伸びた腕であった。
(じゃあ・・・まさか)
嘘であって欲しいと思うのに、嫌な予感がひたひたと近づいてくる。
昂遠はカチカチと鳴る顎の震えを上手く押さえることが出来ないまま、ゆっくりと振り返った。
「ぁ・・・嗚呼・・・」
呟く度に両目から、ぶわりと涙が溢れ、視線が揺れる。
既に息絶えたはずなのに、見開いた唇と眼が昂遠を見上げたまま、今にも動き出してしまいそうだ。
その視線を前にして、昂遠の背にサッと冷たいものが走り、ぞわりと毛肌が逆立った。
「・・・・・・」
全身に悪寒が走り、背筋は凍り付いたように動かない。
身体は硬く、石にでもなったかのように張り付いたまま、がっくりと項垂れた昂遠は、ただただ「嗚呼」と呟き続けた。
床を濡らす涙は既に乾ききっており、伝う痕だけがくっきりと残されている。
壊された戸口から入り込む薄明かりは未だ暗く、夜明けを指していた。
「・・・・・・」
眼前を染めた赤と背は数年経過した今でも、悲鳴と共に昂遠の脳裏にこびりついたまま消えようとしない。
この記憶が薄れる日がいつか来るのだろうかと思う日は多けれど、皆目見当がつかないままだ。
「思えば長い道のりだった・・・」
そんな言葉がついぞ出てしまう。
「・・・う」
背に感じる重みをそのままに、遠くから聞こえる声で目が覚めた昂遠は、何とかしてそこから這い出ようと身体を動かすことにした。
しかし、ずしりと重なる重みで、なかなか前に進まない。
「ぐ・・・」
腕を動かす度に腹と背に鈍い痛みが走り、その度に声が漏れた。
「・・・ぅ」
(あれから・・・一体・・・)
周囲は不気味なほど静まり返っている。
聞こえる声は遠く、まるでこの部屋だけが切り離されているようだ。
(父上、母上)
未だ脳裏を過る光景を振り切るように、昂遠は腹這いのまま、必死に進み続けた。
背の重みが軽くなり、周囲を照らす明かりが隙間から見えた頃、彼は眼前の光景に「ヒッ」と叫びそうになるのを両手で押さえながら、必死にその声を飲み込んだ。
「・・・さ」
開けた視界の先に見えたもの。
それは、既に息絶えた兄の伸びた腕であった。
(じゃあ・・・まさか)
嘘であって欲しいと思うのに、嫌な予感がひたひたと近づいてくる。
昂遠はカチカチと鳴る顎の震えを上手く押さえることが出来ないまま、ゆっくりと振り返った。
「ぁ・・・嗚呼・・・」
呟く度に両目から、ぶわりと涙が溢れ、視線が揺れる。
既に息絶えたはずなのに、見開いた唇と眼が昂遠を見上げたまま、今にも動き出してしまいそうだ。
その視線を前にして、昂遠の背にサッと冷たいものが走り、ぞわりと毛肌が逆立った。
「・・・・・・」
全身に悪寒が走り、背筋は凍り付いたように動かない。
身体は硬く、石にでもなったかのように張り付いたまま、がっくりと項垂れた昂遠は、ただただ「嗚呼」と呟き続けた。
床を濡らす涙は既に乾ききっており、伝う痕だけがくっきりと残されている。
壊された戸口から入り込む薄明かりは未だ暗く、夜明けを指していた。
「・・・・・・」
眼前を染めた赤と背は数年経過した今でも、悲鳴と共に昂遠の脳裏にこびりついたまま消えようとしない。
この記憶が薄れる日がいつか来るのだろうかと思う日は多けれど、皆目見当がつかないままだ。
「思えば長い道のりだった・・・」
そんな言葉がついぞ出てしまう。
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