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1.煙雨の先に
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「まずいな。どうする巽さん」
眉間に皺を寄せたまま、村人の男性が昂遠の父を見た。
「とりあえず、野菜を早く届けよう」
「ああ。そうだな。貴重な情報、感謝するよ。成さん」
「ああ。気をつけてな」
急ぎ手を振り、成さんと別れた三名は野菜を届けに目的地まで行くことにした。
本来ならば三日かかる所を二日で向かい、目的地まで辿り着いた一行が耳にしたのは、成さんが話していた残党に関するものだった。
既に周辺の村にも同じような話が飛びかっており、何処の村も亭に使いを出し亭長に対策を願い出ているが、その返答がなかなか来ない為、どこの村も警備をどうすればいいのかと頭を悩ませている最中なのだという。
その話を耳にした三名は居ても立っても居られず、お代を受け取るとその足で急ぎ、自分の村に戻ることにした。
いつもならのんびりとした帰省だが、そうも言ってはいられない。
慌てて戻ってみれば、村は既に残党の話で持ち切りだった。
「どうします?村長?」
「うちが里みたいに城内の中にあるような所なら、亭長にも話が通りやすいのだがなあ・・・」
「城郭の代わりに山があるような場所ですからねえ」
「最後に官吏が来たのはいつだったか・・・ってくらい、偉い方も来ませんし」
「周辺の村も同じようなもんです」
「一応、早馬を飛ばして一番近くの亭に書状を送ってはみたのだが・・・」
「・・・・・・」
皆が思い思いの言葉を口にする一方で、他の大人たちはとりあえず何か使えそうな物はないかと農機具を漁り始めている。
その表情には余裕がなかった。
「相手は他国の残党だ。当然、武装してるに決まってる」
「全くだ」
「でもどうして国を離れたのかなぁ」
「そりゃあ、あれだ」
「?」
「居たくない理由があるんだろ?」
「ああ・・・」
「集団で来るのかな」
「来ないことを願いたいね」
「でも、西側で襲われた村は壊滅状態で、全部が燃えて灰になったって話じゃないか」
「女と子供を隠さないと」
「一体どこに?」
「山に隠れてもすぐに見つかっちまう」
「投石用の石でも採るか」
「今から?間に合わねえよ」
「それよりも火だ」
「他の村はどうしてんのかな」
そんな事を話しながら家に帰る皆の表情は硬く、影が差している。
その声を耳にしながら、昂遠と兄の遠雷は言葉に出来ない不安を持て余し、気付けば七日が経過していた。
相変わらず、どこどこの村が襲われたという報は入っては来るけれど、この村はいつもと変わらずのんびりとした空気に包まれている。
先程から中腰の姿勢を崩すことなく、畑の中でミミズを放していた昂遠と兄は、視線を土に向けたまま、ぽつりぽつりと話し始めた。
「・・・もうすぐ六の月も近いな。昂遠」
「うん。また雨が降るのかなぁ」
「雨季が近いと大人達が話していたから、そうじゃないかな」
「んー、腰が痛い」
「兄さん、捕りすぎだよ。だから腰が痛くなるんだ」
「ははっ、違いない」
「・・・に」
腰を押さえながら立ち上がった兄の視線が空へと向かう。
兄の背を追いながら呟いた昂遠の声は掠れていて最後まで聞くことが出来ないままだ。
「ん?何か言ったか?」
兄が振り返る。しかし、昂遠は空を眺めたまま何も話そうとしない。
空は昨日と同じ快晴で、ゆっくりと雲が風に押されて進んでいく。
「・・・襲撃なんて無ければいいのに」
その声は風に紛れ、散る葉と共に舞い上がる。
行き場のない不安に心がざわめいた。
それはまるで、全てが嘘であって欲しいと願うように。
その日、昂遠の村が襲われたのは、皆が寝静まる深夜の事だった。
眉間に皺を寄せたまま、村人の男性が昂遠の父を見た。
「とりあえず、野菜を早く届けよう」
「ああ。そうだな。貴重な情報、感謝するよ。成さん」
「ああ。気をつけてな」
急ぎ手を振り、成さんと別れた三名は野菜を届けに目的地まで行くことにした。
本来ならば三日かかる所を二日で向かい、目的地まで辿り着いた一行が耳にしたのは、成さんが話していた残党に関するものだった。
既に周辺の村にも同じような話が飛びかっており、何処の村も亭に使いを出し亭長に対策を願い出ているが、その返答がなかなか来ない為、どこの村も警備をどうすればいいのかと頭を悩ませている最中なのだという。
その話を耳にした三名は居ても立っても居られず、お代を受け取るとその足で急ぎ、自分の村に戻ることにした。
いつもならのんびりとした帰省だが、そうも言ってはいられない。
慌てて戻ってみれば、村は既に残党の話で持ち切りだった。
「どうします?村長?」
「うちが里みたいに城内の中にあるような所なら、亭長にも話が通りやすいのだがなあ・・・」
「城郭の代わりに山があるような場所ですからねえ」
「最後に官吏が来たのはいつだったか・・・ってくらい、偉い方も来ませんし」
「周辺の村も同じようなもんです」
「一応、早馬を飛ばして一番近くの亭に書状を送ってはみたのだが・・・」
「・・・・・・」
皆が思い思いの言葉を口にする一方で、他の大人たちはとりあえず何か使えそうな物はないかと農機具を漁り始めている。
その表情には余裕がなかった。
「相手は他国の残党だ。当然、武装してるに決まってる」
「全くだ」
「でもどうして国を離れたのかなぁ」
「そりゃあ、あれだ」
「?」
「居たくない理由があるんだろ?」
「ああ・・・」
「集団で来るのかな」
「来ないことを願いたいね」
「でも、西側で襲われた村は壊滅状態で、全部が燃えて灰になったって話じゃないか」
「女と子供を隠さないと」
「一体どこに?」
「山に隠れてもすぐに見つかっちまう」
「投石用の石でも採るか」
「今から?間に合わねえよ」
「それよりも火だ」
「他の村はどうしてんのかな」
そんな事を話しながら家に帰る皆の表情は硬く、影が差している。
その声を耳にしながら、昂遠と兄の遠雷は言葉に出来ない不安を持て余し、気付けば七日が経過していた。
相変わらず、どこどこの村が襲われたという報は入っては来るけれど、この村はいつもと変わらずのんびりとした空気に包まれている。
先程から中腰の姿勢を崩すことなく、畑の中でミミズを放していた昂遠と兄は、視線を土に向けたまま、ぽつりぽつりと話し始めた。
「・・・もうすぐ六の月も近いな。昂遠」
「うん。また雨が降るのかなぁ」
「雨季が近いと大人達が話していたから、そうじゃないかな」
「んー、腰が痛い」
「兄さん、捕りすぎだよ。だから腰が痛くなるんだ」
「ははっ、違いない」
「・・・に」
腰を押さえながら立ち上がった兄の視線が空へと向かう。
兄の背を追いながら呟いた昂遠の声は掠れていて最後まで聞くことが出来ないままだ。
「ん?何か言ったか?」
兄が振り返る。しかし、昂遠は空を眺めたまま何も話そうとしない。
空は昨日と同じ快晴で、ゆっくりと雲が風に押されて進んでいく。
「・・・襲撃なんて無ければいいのに」
その声は風に紛れ、散る葉と共に舞い上がる。
行き場のない不安に心がざわめいた。
それはまるで、全てが嘘であって欲しいと願うように。
その日、昂遠の村が襲われたのは、皆が寝静まる深夜の事だった。
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