黒羽織

四宮

文字の大きさ
上 下
34 / 58
黒羽織其の六 妖刀さがし

14

しおりを挟む
そして次の日の朝。目を覚ました鉄心が肝を冷やしたのは言うまでも無い。
ただ、目が覚めてアワアワしている鉄心を見ても才蔵は何も言わなかったし、朝餉の席に才蔵と向かう途中に顔を合わせた篤之進も
「湯を沸かしてありますから、湯に浸かってきなさい」
と、話して部屋に向かって行ってしまう始末。
昨日のことを詫びる間もなく去っていく背中を眺めながら、隣に立つ才蔵に問いかけた。
「・・・いいんでしょうか?僕が湯を使っても・・」
「・・いいんじゃねえか。篤兄もそう言ってるしな」
「・・でも」
「・・・そもそも、ここの家の風呂は俺達が自分から湯屋に行ってるってだけで、篤兄と由利乃だけのものってわけでもねえんだ」
「・・・そうなのですか?」
「ああ。いつも由利乃に合わせて湯を沸かしてる。だから、俺らまで入るとなると、あいつがゆっくり入れねえだろ」
「ああ。なるほど・・」
「それにあいつは・・自由に外を歩けねえからな・・」
ぽつりと呟いた才蔵のその声に、鉄心はズキリと胸が痛くなった。
けれど、深く考えていても仕方がないと思い、せっかくの厚意に甘えることにしたのである。

朝餉を終えて暫くして、鉄心は再度、篤之進の部屋を訪ねることにした。
勿論、昨夜の話の続きの為だったが、昨夜の自身の起こした行動も含めてか、どうにも気恥ずかしく、思い出すだけで顔から火が出てしまう。
けれど、眼前に座す篤之進に変わりはなく、その様子を見て、鉄心はしっかりせねばと息を吐くと、昨夜の話の続きを始める事にした。

「・・どうすればいいのでしょうか?」
「そうですね。・・猫又は刀に取り憑く邪気の一種で、これが厄介なのですが・・刀に、もともとある生気を吸い取ってしまいます。人の持つものには、念と呼ばれるものがあります。ずっと持っていると、その者の想いや感情が物にも移っていくのです」
「付喪神とは・・違うのですか?」
鉄心の質問に、篤之進がフフフと笑う。
「良い質問ですね。九十九神が何か知っていますか?」
「いえ・・詳しくは・・ただ」
「ただ?」
「あ・・僕が住んでいた島では物には神がつくから大事にしなさいと常々言われていて・・。名前は知らなかったのですが、兄が付喪神だと教えてくれたことがあったのです」
もう随分と昔の話なのですけど・・。そう言って鉄心が遠慮がちに笑っている。
「なるほど」
篤之進は鉄心の言葉を聞きながら、長机の上に乗せていた半紙を取り出すと、筆を用いて
『付喪神』『九十九神』とふたつの文字をさらりと書いた。

「あれ?字がふたつありますよ?」
「どちらも、つくも神と呼びますよ」
「・・・・?」
「つくも神は百年という長い時を超えて使い続けられた道具がやがて霊を宿し、別の姿へ変化すると言われていますよね。九十九年を超えると物自身に霊が宿り、やがて付喪神の姿へと変化することが可能になる。もとの姿は銚子であったり櫛であったり、様々です。だから、変化する事の無いように人々はその前に使っていた道具に別れを告げ、新しいものを使う。では、百年を前にして捨てられた道具はどうなるでしょう?」
「え・・?」
「百年、同じ姿で居続けることが叶えば、霊の姿を宿し別の姿へと生まれ変わることが出来るというのに、あと一年といった所で捨てられたとなっては、その道具はどう思うでしょうか?」
「・・・・あ・・・」
「怒りませんか?あと一歩で新しい姿へと生まれ変わることが出来たのに・・それを寸での所で壊されるのですから・・」
「・・・ああ・・それで」
「まぁ、この話の元は絵巻物に記されていますので、本当の話であるのかどうかは・・私の目からはどうとも言えないのですが」
そう話しながら、篤之進は半紙と筆をまた机に戻した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

Jamais Vu (ジャメヴュ)

宮田 歩
ホラー
Jamais Vu (ジャメヴュ)と書いてある怪しいドリンクを飲んだ美知は次の日その意味を知る。美知には何が起きたのか——。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

[連載中・短編集]ホラー短編集。〜こっくりさんー女子中学生のオカルト体験ー他

コマメコノカ・21時更新
ホラー
ホラー短編集です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

歩きスマホ

宮田 歩
ホラー
イヤホンしながらの歩きスマホで車に轢かれて亡くなった美咲。あの世で三途の橋を渡ろうとした時、通行料の「六文銭」をモバイルSuicaで支払える現実に——。

紺青の鬼

砂詠 飛来
ホラー
専門学校の卒業制作として執筆したものです。 千葉県のとある地域に言い伝えられている民話・伝承を砂詠イズムで書きました。 全3編、連作になっています。 江戸時代から現代までを大まかに書いていて、ちょっとややこしいのですがみなさん頑張ってついて来てください。 幾年も前の作品をほぼそのまま載せるので「なにこれ稚拙な文め」となると思いますが、砂詠もそう思ったのでその感覚は正しいです。 この作品を執筆していたとある秋の夜、原因不明の高熱にうなされ胃液を吐きまくるという現象に苛まれました。しぬかと思いましたが、いまではもう笑い話です。よかったいのちがあって。 其のいち・青鬼の井戸、生き肝の眼薬  ──慕い合う気持ちは、歪み、いつしか井戸のなかへ消える。  その村には一軒の豪農と古い井戸があった。目の見えない老婆を救うためには、子どもの生き肝を喰わねばならぬという。怪しげな僧と女の童の思惑とは‥‥。 其のに・青鬼の面、鬼堂の大杉  ──許されぬ欲望に身を任せた者は、孤独に苛まれ後悔さえ無駄になる。  その年頃の娘と青年は、決して結ばれてはならない。しかし、互いの懸想に気がついたときには、すでにすべてが遅かった。娘に宿った新たな命によって狂わされた運命に‥‥。 其のさん・青鬼の眼、耳切りの坂  ──抗うことのできぬ輪廻は、ただ空回りしただけにすぎなかった。  その眼科医のもとをふいに訪れた患者が、思わぬ過去を携えてきた。自身の出生の秘密が解き明かされる。残酷さを刻み続けてきただけの時が、いまここでつながろうとは‥‥。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...