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序章・一話
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「・・・・・・・・・・」
あどけない寝顔だと思う。
身の丈はお涼と同じくらいだろうか?こんなに小さな少年がこれから一人で生きて行くのだ。
誰も知らない場所、知らない者の中で生きていくにはあまりにも酷だと由利乃は思う。
先ほどと言葉使いが変わった事に、うっすらと気が付いていた。
気が付いていたけれど、気が付かない振りをした。
多分、本当の彼は凄く幼いのだろうと思いながら、由利乃はぎゅっと影虎を抱きしめる。
温かいと、思う。すうすうと眠る彼の顔は、泣き疲れていたとはいえ幸せそうで。
胸の奥がきゅんと疼いて何だかくすぐったい。
寝息を聞いていると、自然と由利乃の顔がほころんでいく。
何だろう。よく分からない感情。
それに戸惑いつつも、ゆっくりと影虎の髪を撫でた。
「失礼します。由利乃様」
すーっと戸が開かれ、先ほど膳を運んできた少年が一礼しながら由利乃を見た。
影虎が女の子だと思った彼は、顔立ちが幼く声が高いせいか、よく女の子に間違えられてしまう。
名前をお涼と由利乃は呼んでいる。彼の小姓だ。
由利乃は「ああ。お涼」と言葉を返しながら、お涼を見た。
前に手をつけないまま影虎を抱いている光景を目にして、一瞬彼の目が大きくなったが、すぐに元の表情に戻り「お下げしてもよろしいでしょうか」と声をかけた。
その言葉に、由利乃もまた困った表情になりながら
「才蔵に申し訳ないと伝えて下さい」と声をかけている。
その返答に、お涼が「う・・」と喉を詰まらせた瞬間、戸に大きな手がすっと伸び、廊下から、一人の男がぬうっと顔を出して来た。
男の眉間には皺が寄っており、視線は影虎に向けられている。
「・・寝ちまったのか・・そいつ」
と、男は溜息を吐くと腕を組みながら由利乃に視線を向けた。
由利乃は「ごめんなさいね。才蔵」と申し訳なさそうに呟いている。
才蔵と呼ばれたその男は「別にかまわねえよ」と呟くと、スッと何処かへ行ってしまった。
「・・すまないが・・お涼」
「はい。なんでしょう!!」
困ったような表情を浮かべていたお涼が由利乃を見る。
由利乃は「布団をもう一つ、持って来てはくれないだろうか?」とお涼に頼み、それを受け取った彼は「すぐに持って参ります」と言うと、影虎の分の膳を持って部屋を後にした。
「・・ん・・?」
瞼の奥に何やら明るい光が差し込んでくる。
重い瞼をゆっくりと押し上げると見知らぬ天井が見えた。
無意識に何度も瞬きを繰り返しながら、明るい方向へ視線を向けてみる。
まだ頭はぼんやりとしたままだったが、自身の手に日差しが入り込んでいるのを見て「ああ・・朝だ・・」と、そんなことをふと、思った。
昨晩、何をしていたのかあまり覚えていない。
右手が左手よりも何故か重い。そこに視線を向けると隣の布団に誰かが眠っているのが見えて、影虎の目が大きくなった。
手の辺りが重く、それが隣で眠っている由利乃の手だと分かるまで、少しの時間が必要だった。ずっと手を握ったまま眠ってくれていたのだと思うと、どこかじんわりと温かいものが広がっていくような感じがして、影虎の表情が先ほどよりも柔らかくなった。
寝返りを打ち、隣で眠っている由利乃の顔を見る。
少しずつ昨日の記憶が甦ってきて、気恥ずかしくなった彼は、衾に顔を埋めながらギュッと目を閉じた。
嗚呼、穴があったら入りたい。なんて事をしてしまったのだろう。
そう思う頭をブンブンと振りながら、衾から目を出すと隣で寝ている由利乃を見た。
「・・・・・・・・・・・」
綺麗な顔だと思う。眠っている時の顔は、起きている時の顔とは違い妖艶な美しさがある気がする。
やっぱり不思議な人だと思ったがあえて何も言わなかった。
あどけない寝顔だと思う。
身の丈はお涼と同じくらいだろうか?こんなに小さな少年がこれから一人で生きて行くのだ。
誰も知らない場所、知らない者の中で生きていくにはあまりにも酷だと由利乃は思う。
先ほどと言葉使いが変わった事に、うっすらと気が付いていた。
気が付いていたけれど、気が付かない振りをした。
多分、本当の彼は凄く幼いのだろうと思いながら、由利乃はぎゅっと影虎を抱きしめる。
温かいと、思う。すうすうと眠る彼の顔は、泣き疲れていたとはいえ幸せそうで。
胸の奥がきゅんと疼いて何だかくすぐったい。
寝息を聞いていると、自然と由利乃の顔がほころんでいく。
何だろう。よく分からない感情。
それに戸惑いつつも、ゆっくりと影虎の髪を撫でた。
「失礼します。由利乃様」
すーっと戸が開かれ、先ほど膳を運んできた少年が一礼しながら由利乃を見た。
影虎が女の子だと思った彼は、顔立ちが幼く声が高いせいか、よく女の子に間違えられてしまう。
名前をお涼と由利乃は呼んでいる。彼の小姓だ。
由利乃は「ああ。お涼」と言葉を返しながら、お涼を見た。
前に手をつけないまま影虎を抱いている光景を目にして、一瞬彼の目が大きくなったが、すぐに元の表情に戻り「お下げしてもよろしいでしょうか」と声をかけた。
その言葉に、由利乃もまた困った表情になりながら
「才蔵に申し訳ないと伝えて下さい」と声をかけている。
その返答に、お涼が「う・・」と喉を詰まらせた瞬間、戸に大きな手がすっと伸び、廊下から、一人の男がぬうっと顔を出して来た。
男の眉間には皺が寄っており、視線は影虎に向けられている。
「・・寝ちまったのか・・そいつ」
と、男は溜息を吐くと腕を組みながら由利乃に視線を向けた。
由利乃は「ごめんなさいね。才蔵」と申し訳なさそうに呟いている。
才蔵と呼ばれたその男は「別にかまわねえよ」と呟くと、スッと何処かへ行ってしまった。
「・・すまないが・・お涼」
「はい。なんでしょう!!」
困ったような表情を浮かべていたお涼が由利乃を見る。
由利乃は「布団をもう一つ、持って来てはくれないだろうか?」とお涼に頼み、それを受け取った彼は「すぐに持って参ります」と言うと、影虎の分の膳を持って部屋を後にした。
「・・ん・・?」
瞼の奥に何やら明るい光が差し込んでくる。
重い瞼をゆっくりと押し上げると見知らぬ天井が見えた。
無意識に何度も瞬きを繰り返しながら、明るい方向へ視線を向けてみる。
まだ頭はぼんやりとしたままだったが、自身の手に日差しが入り込んでいるのを見て「ああ・・朝だ・・」と、そんなことをふと、思った。
昨晩、何をしていたのかあまり覚えていない。
右手が左手よりも何故か重い。そこに視線を向けると隣の布団に誰かが眠っているのが見えて、影虎の目が大きくなった。
手の辺りが重く、それが隣で眠っている由利乃の手だと分かるまで、少しの時間が必要だった。ずっと手を握ったまま眠ってくれていたのだと思うと、どこかじんわりと温かいものが広がっていくような感じがして、影虎の表情が先ほどよりも柔らかくなった。
寝返りを打ち、隣で眠っている由利乃の顔を見る。
少しずつ昨日の記憶が甦ってきて、気恥ずかしくなった彼は、衾に顔を埋めながらギュッと目を閉じた。
嗚呼、穴があったら入りたい。なんて事をしてしまったのだろう。
そう思う頭をブンブンと振りながら、衾から目を出すと隣で寝ている由利乃を見た。
「・・・・・・・・・・・」
綺麗な顔だと思う。眠っている時の顔は、起きている時の顔とは違い妖艶な美しさがある気がする。
やっぱり不思議な人だと思ったがあえて何も言わなかった。
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