族長会議

四宮

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宇那うなの手にする武器はげき(両刃を付けた槍と、刃を垂直に付けた戈を合わせた武器の事)に非常によく似ており、縦と横にそれぞれ形の異なる刃が取り付けられている。
ただ、戟に比べると柄は剣のように短く、時折ゆらゆらと回転しているように見えた。
「っ・・!」
ガンガンと重なり合う金属音特有の音が部屋中に響き渡っていく。
見た目に反して重い一撃を受け止める絽玖りょくの眉はキリリと吊り上がり、険しい表情を向けたまま刃の先へと視線を向けた。

「・・・・・・・・・・・」
武器を手にしたまま伸びきった前髪の隙間を縫うように、こちらを見る眼がある。
ぎょろりと大きく見開いたそれは、瞬きひとつすることなく絽玖を捉えた。
「・・っ」
誰もが凍らずにはいられない程の冷気と共に、どろりと溶けそうな異質さが場を包み込む。
ぞくりとする静けさに絽玖の喉がごくりと鳴った。
「キヒッ」
「・・っ!」
ぶんっと腕を振り回し、絽玖が宇那の放った一撃を跳ね返す、と同時に冷たい汗が滑り落ちていく。
彼はふうと一度、息を吸い吐くと再び前を見た。
ゆらゆらと左右に揺れながら、だらりと伸びた腕をそのままに動く姿は何処から見ても異質そのもの。
得体のしれない何かを前にして、剣を手にする絽玖の表情が僅かに締まった。

『相変わらず奇妙な男だ』
「・・お兄さん・・速いねえ・・強いねえ・・」
口角を吊り上げながら、無邪気に笑う宇那の瞳は笑ってはおらず、それがかえって不気味さを醸し出している。
「うん。いいなぁ。楽しいねえ」
「それは光栄ですね。・・宇那」
「あれぇ?お兄さん。僕の事、知ってるのぉ?」
「ええ。存じてますよ。今は立派な革職人だそうで。今度、あなたの品を一つ、買わせて頂きたいものです」
「ふふふ」
ニコニコと笑う宇那の手がゆっくりと持ちあがっていく。
その仕草を目にする絽玖は表情ひとつ変えることなく、ただ前を見ている。

「・・・・・・・・・」
その時、白煙に紛れる様に宇那の背後を狙い急襲する影がちらりと見えた。
絽玖の態度は変わらない。彼は宇那の背後で何者かが動く気配を微かに感じながら、ただゆっくりと瞬きを二度繰り返している。
「・・・・」
一瞬、床へと伸びたかに見えたその瞳は、再度、宇那の手首へと戻っていく。
「・・・・・・」
背筋が強張るような殺気と緊張感漂う室内で先に動いたのは宇那の方であった。
宇那が振り回した武器の柄が遠心力で長く伸びる。
長棍ほどの長さに伸びたその武器を持つ宇那が踵を返し、ぶんと武器を横に振るや否や、背後を狙おうと構えていた九十九つくもの剣へとまっすぐに向かって行った。
「ぐっ!」
ガキンと一際高い音が響き渡り、彼は先程とは逆の方向へクルリと回転すると再度腕を振り、その勢いのまま、九十九へ向かって袈裟懸けに斬りつけたのだ。

「っ!」
「・・!」
宇那の刀が、九十九の首に触れそうになったその刹那。
眼前にいたはずの九十九の顔が消え、その速さに宇那の瞳が丸くなった。
「・・っ!」
九十九がのけ反り、その上を通過した刃は触れる事無く空を裂き、横へとずれる。
のけ反った体勢から一気に上体を屈ませると、彼は床に手を付き宇那の足首を狙うと数度足技を繰り出した。
「っ!」
九十九が繰り出した足技は宇那の足首を見事に突き、揺れた身体が前方に傾きかけた瞬間、袖の中から鉄笛が飛び出していった。

「っ!」
「ほぅ」
『この笛は・・もしや・・?』
そんな事を同時に思いながら、絽玖と九十九の瞳が大きくなる。
彼らの瞳は同時に宇那が手にする笛の端に向いていた。
二名の視線を感じ取りながらも、いち早く態勢を戻した宇那が笛を手放そうとした瞬間、その動きを封じるかのように裂かれた衣が巻き付いた。
「!?」
「お遊びが過ぎますよ。宇那」
くすりと絽玖の口角が動く。瞬きひとつすることなく捉えた瞳は宇那の指に向けられたままだ。
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