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残月記番外編・反魂二
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「・・・?」
遠雷は目を閉じたまま、飛燕の視線に気が付くと、ただ黙って人差し指を唇に付けた。
その仕草に頷いた飛燕が口を押さえると、うんうんと頷いてゆっくりと微笑んでいる。
その手は優しく何度も昂遠の肩や背を撫でており、その仕草を無意識に目で追う度に、飛燕はますます何も言えなくなってしまった。
「急に帰ってくるなんて」
「迷惑だったか?」
「いや。そんな事・・」
落ち着いた昂遠の手を引きながら、遠雷が久しぶりに小屋に足を踏み入れている。
匂いも雰囲気もあまり変わっていないその様子に驚いていたようであったが、特に何も言わず慣れた様子で厨房に向かうと、さっそく壺の中に入っていた酒をゴクゴクと飲み始めた。
何も変わらないその背を見て、ホッと安堵した昂遠は厨房の側に寄りかかったまま微笑んでいる。
あの人は誰なのだろう?と思いながら、昂遠の背に隠れるように立つ飛燕の指が彼の袖を掴む、とそれに気が付いたのか、昂遠の手が飛燕の髪へと伸びた。
頭を撫でられた事に驚いた飛燕が弾かれたように見上げれば、今まで見た事が無いような表情で前を見る小父の姿がそこにはあったのだ。
その表情に小さな衝撃を受けた飛燕は何も言葉が浮かばないまま、ただ黙って酒を堪能する不思議な男をジッと眺めていたのである。
「そこにいるのは、飛燕だな。顔を見せてくれ。俺はあまり目が見えないんだ」
背を向けたまま男が話す。よく見ればその手にはしっかりと瓢箪を割って作った柄杓が握られている。
「・・・・・・」
「飛燕、すまないがあいつの側へ行ってくれるか?」
「・・・うん」
遠慮がちに近づいてみれば、透き通るような銀色の髪がキラキラときらめいている。
白い衣の裾はところどころ土で汚れていて、彼が旅をしてきたのだとすぐに分かった。
飛燕があと三歩で男の前へと近づきかけたその瞬間、先程まで背を向けていたその男がゆっくりと振り返った。
伏し目がちに見えるその瞼の奥は白濁しており、見えていないのだと察しが付く。
「・・・お前が飛燕だな・・俺は会うのは二度目だが、お前は初めてだな」
「・・・・・・」
見上げた瞬間、飛燕は無意識に息を飲み込んだ。
声は僅かに低く、どこか艶がある。
迷う様に伸ばされた指が空を掴む。
幾度も繰り返しながら、、飛燕の髪に触れたその指は白く、肌も艶やかだ。
すらりと整った鼻筋。整った眉に長い睫毛がふるりと揺れた。
桃色に染まる唇は小さくぷっくりとしていて、パッと見ただけでは男なのか、女なのか見分けがつかない。
まるで、生前の父に聞いたお話に出て来る天女のようだと、飛燕は思った。
「あ・・・はじめまし・・・て?」
「話せるようになったのか・・・」
「・・・は・・・い・・・」
艶を含んだその声を耳にするだけで、飛燕の心の臓が早鐘を打つように五月蠅く響き、外に飛び出してしまいそうだ。
「そうか」
優しく髪をすくう様に撫でるその手つきは柔らかく、とても心地の良いものだった。
「・・・・・・」
「俺も今日からここで厄介になるんだ。慣れないだろうが、よろしく頼む」
「・・・え」
その声に飛燕の目が丸くなったのは言うまでもない。
遠雷は目を閉じたまま、飛燕の視線に気が付くと、ただ黙って人差し指を唇に付けた。
その仕草に頷いた飛燕が口を押さえると、うんうんと頷いてゆっくりと微笑んでいる。
その手は優しく何度も昂遠の肩や背を撫でており、その仕草を無意識に目で追う度に、飛燕はますます何も言えなくなってしまった。
「急に帰ってくるなんて」
「迷惑だったか?」
「いや。そんな事・・」
落ち着いた昂遠の手を引きながら、遠雷が久しぶりに小屋に足を踏み入れている。
匂いも雰囲気もあまり変わっていないその様子に驚いていたようであったが、特に何も言わず慣れた様子で厨房に向かうと、さっそく壺の中に入っていた酒をゴクゴクと飲み始めた。
何も変わらないその背を見て、ホッと安堵した昂遠は厨房の側に寄りかかったまま微笑んでいる。
あの人は誰なのだろう?と思いながら、昂遠の背に隠れるように立つ飛燕の指が彼の袖を掴む、とそれに気が付いたのか、昂遠の手が飛燕の髪へと伸びた。
頭を撫でられた事に驚いた飛燕が弾かれたように見上げれば、今まで見た事が無いような表情で前を見る小父の姿がそこにはあったのだ。
その表情に小さな衝撃を受けた飛燕は何も言葉が浮かばないまま、ただ黙って酒を堪能する不思議な男をジッと眺めていたのである。
「そこにいるのは、飛燕だな。顔を見せてくれ。俺はあまり目が見えないんだ」
背を向けたまま男が話す。よく見ればその手にはしっかりと瓢箪を割って作った柄杓が握られている。
「・・・・・・」
「飛燕、すまないがあいつの側へ行ってくれるか?」
「・・・うん」
遠慮がちに近づいてみれば、透き通るような銀色の髪がキラキラときらめいている。
白い衣の裾はところどころ土で汚れていて、彼が旅をしてきたのだとすぐに分かった。
飛燕があと三歩で男の前へと近づきかけたその瞬間、先程まで背を向けていたその男がゆっくりと振り返った。
伏し目がちに見えるその瞼の奥は白濁しており、見えていないのだと察しが付く。
「・・・お前が飛燕だな・・俺は会うのは二度目だが、お前は初めてだな」
「・・・・・・」
見上げた瞬間、飛燕は無意識に息を飲み込んだ。
声は僅かに低く、どこか艶がある。
迷う様に伸ばされた指が空を掴む。
幾度も繰り返しながら、、飛燕の髪に触れたその指は白く、肌も艶やかだ。
すらりと整った鼻筋。整った眉に長い睫毛がふるりと揺れた。
桃色に染まる唇は小さくぷっくりとしていて、パッと見ただけでは男なのか、女なのか見分けがつかない。
まるで、生前の父に聞いたお話に出て来る天女のようだと、飛燕は思った。
「あ・・・はじめまし・・・て?」
「話せるようになったのか・・・」
「・・・は・・・い・・・」
艶を含んだその声を耳にするだけで、飛燕の心の臓が早鐘を打つように五月蠅く響き、外に飛び出してしまいそうだ。
「そうか」
優しく髪をすくう様に撫でるその手つきは柔らかく、とても心地の良いものだった。
「・・・・・・」
「俺も今日からここで厄介になるんだ。慣れないだろうが、よろしく頼む」
「・・・え」
その声に飛燕の目が丸くなったのは言うまでもない。
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